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悲しい時には美味しいものを!


 聞いて! リンゼちゃんが酷いの!!


 あろうことか私の慎ましく淑女然とした胸を見つめながら「その身体はもう成長しないんじゃないかしら」なんてこと言うんだよ!


 思考を止めた意味が無い!! わざわざ説明してくれてどうもありがとう!!


 っていうか、せめて身長を見て言えー!!!


「とても傷付いたので、おやつを食べたいと思います」


「そう」


 これはもうやけ食いでもするっきゃないね。


 お母様がいるから無理だけどね!



 という訳で、私が感情のままに泣き散らした証拠を隠滅し、次いでリンゼちゃんに「発情」やら「性欲」やらの禁止ワードを厳守するよう説得してから部屋に戻ると、アイラさんとお母様はフェルとエッテをテーブルの上に招いてのお茶会を継続していた。それ私のカップぅ。


「あら、もういいの?」


「ソフィア、あまりリンゼさんを困らせてはいけませんよ」


「分かってますよぅ」


 神妙な顔でお小言を言ってても、エッテに手ずから餌をやっている時点で台無しだ。これっぽっちも怖くない。


 やはり、かわいいは正義。かわいいは世界を救う希望となる存在。


 だからかわいい私のこともお母様はもっと大事にしようね。


 心の中で都合のいい願望を祈りながら席に戻ると、ソワレさんがすかさず新しい紅茶を差し出してくれた。リンゼちゃんと二人、感謝を述べてありがたく頂戴する。


 まだ高温の紅茶を冷ましながらひと口飲めば、ホッと心に安らぎが去来した。リンゼちゃんとの会話でだいぶ精神的に疲れていたらしい。


 リンゼちゃんって、割と容赦ないからね。


 事実や正論という言葉の凶器を暗器のように使って突然突き刺してくるの、ホントやめてほしい。


 いくら私がかわい子ちゃんからのじゃれ合いに耐性があるといっても限度があるからね。リンゼちゃんの言葉選びは私の妄想を突き抜けてくるだけの威力があるんだよ。


「ソフィアちゃん、お茶菓子が足りないのだけど」


「キュキュウ!」


「キュッ、キュイ!」


 ……なんて、やっと訪れた休息の時に、一服しつつ心穏やかに過ごしていたら、アイラさんからまさかの要請。


 お父様からもたまに要求されるのだけど、私のアイテムボックスは簡易保管所であって何でも出てくる魔法の黒穴じゃないんだからね? そこのところ、勘違いしないで下さいね?


「えっと……シュークリームとかでいいですか?」


「ええ、大歓迎よ!」


 とはいえ、こーゆーことにも慣れっこなので、問題なく要望に応えられるよう市販のものから手作りの物まで、ある程度の備蓄は用意してあるのだけど。


 学院のある日とかでも、大抵のものは家出る前に頼んでおけば、帰る前にはアネットの関係者やら我が家の誇る料理人様やらがもれなく準備しといてくれるし。それにやっぱり「アイテムボックス内に入れた物は腐らない」ってのがなにより便利さに拍車をかけてるんだよね。


 アイラさんの上機嫌な声を聞きながら、空いたお皿にポイポイとシュークリームを並べていく。


 今回の品は、スタンダードにして王道なさっくり食感が心地好いカスタードクリームシューと、クリームたっぷり、生クリームとカスタードクリームがたっぷり詰まった、幸せの重みを手のひらで感じるダブルクリームシューのにこにこセットだ。


 にこにこ笑顔で待ち受けているアイラさんのお皿にポイ。

 さりげなく主張する手が添えられたお母様のお皿にもポポイ。

 リンゼちゃんのついでに、働き者のソワレさんにもお裾分けでポーイっ。


 お菓子が並んでる光景ってそれだけで幸せな気分になるよね。


 甘い香りも漂っていて、私も早く食べたくなってきたよ。


 なお私のお皿にだけ三倍もの量が乗っかっているのは私がデブりんちょの因子すら恐れぬスーパー食いしん坊だからという理由ではなく、先程から私の顔を穴があきそうな勢いで見つめてくる可愛いペットたちの懇願に屈したからに過ぎない。


 甘やかしすぎって分かってるんだけどなぁ……かわいいんだもん。


 てかさりげなくアイラさんに追従してたキミたちは、小さな身体のくせに食い意地が張りすぎていると思う。求められるままに用意した私もアレだけど、その身体のどこに食べ物が収まるんだと真に問いたい。


 物理法則は易々と無視するもんじゃないよ? 私みたいに反動とかきても知らないよ?


 自分の顔よりも大きなシュークリームにかぶりつくフェルとエッテを眺めながら、私も自分の分を口に運んだ。


 もふっとした感触の後に、ぶわっと広がる強烈な甘味。

 幸せが形を持つとしたら、それはきっと、クリームの形をしているに違いない。


「相変わらず美味しいですね」


「本当、おいしいわよね〜」


「ソフィアは意外と料理が上手なのよね」


「「キューッ♪」」


 三人と二匹の絶賛の声。


 私もみんなと同じように、舌鼓を打ちながら穏やかな時間を過ごす。


 はあ、幸せ。

 こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに。


 でもこの後の私には、もはや自然な成長は望めないという悲しすぎる現実と向き合う時間が待ち受けているのだ。


 …………やな事って、後回しにするに限るよね。


「甘くなった口に塩クッキーはいかがですか?」


 ――せめて、今はまだ、この穏やかな時間の中で。


 心安らかに時を過ごすべく、辛い現実からは目を背けるのだった。


デブりんちょの因子とは!

取り込んだ者をたちまちの内にデブりんちょにしてしまうという恐るべき悪魔の因子!!主に糖分に潜んでいる予感!!

甘い物は、用法用量を守って美味しく摂取しましょう。

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