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気分はさながらシンデレラ


「思えば、ソフィアにはあまりこういった事はさせてきませんでしたね」


「何言ってるのよ、アイリスだって掃除なんかしたことないでしょ? 私たちがするよりも使用人に任せた方が断然早くて綺麗にもなるんだから当然よねー。えっと、貴女(あなた)……リンゼちゃんだっけ? 貴女もそう思うわよね?」


「ちょっと姉さん、不敬よ!?」


「いえ、構いません。……掃除なんて、丁寧にさえやれば誰にだって出来ると思います」


「それもそうね」


 頭上から楽しげな声がする。

 茶器が奏でる物音が、私のお腹を可愛く鳴らす。


 ……私は、今。お母様とアイラさん、そして私の代わりとばかり席に着いたリンゼちゃんたちから見下ろされる形で、自分で汚した絨毯を惨めに清掃させられていた。


 叱られると悟った瞬間、以前の約束を持ち出し調停人としてアイラさんを呼ばせたのは、果たして正しかったのかどうなのか。


 お説教が減ったのは確かだと思うけど、その代償として地面に這いつくばった姿を鑑賞される人数が増したというのは、少しばかし辛いものがあった。


「……ソフィアちゃんって、掃除してる姿がやけに似合うわね。普段から感情表現が豊かなせいかしら? 演劇とかやったら案外良い女優になるんじゃない?」


「ソフィアに集団行動は無理でしょう。良くも悪くも、この子は普通ではありませんから。……本当にごめんなさいね、リンゼさん。この子には後でよく言い聞かせておきますから」


「はい」


 頭上で交わされる会話が恐ろしすぎて、迂闊に顔をあげられない。難癖を付けられないように真面目にお掃除をするので精一杯だ。あ、またポテチの欠片発見。大物ゲットだぜぃ。


 ……はあ〜、つらたん。


「ねぇねぇ、ソフィアちゃん」


「はい、何でしょうか」


 アイラさんの呼び掛けに即座に反応。


 この人もこの人で、私を助けるどころかお母様の主張を擁護したりしててまーー呼んだ甲斐がない。私がストレス発散の為に出したポテチとクリームパンが奪われたのは、半分以上アイラさんのせいだと思ってるし。


 これ以上私から尊厳やお菓子を奪わないで、と密かに願っていると。


「この美味しいお菓子、ソフィアちゃんの自作なんでしょう? 今度ソワレにも作り方を教えてあげてくれない?」


「いいですよ」


 なんだ、そのくらいならお安い御用よ。なんなら私の備蓄分も作って貰っちゃおっかな。


 アイラさんが連れてきたソワレさんは、メイドさんたちの中でも扱いが特殊らしいとは聞いている。これを機に、メイドたちから絶大な支持を得ている料理人と仲良くなっておくのもいいんじゃないかな!


「キュー?」


 お菓子の話をしていたからか、フェルがとてとてと寄ってきて首を傾げた。


 その動作の意味するところは「それ、ボクも食べられる?」といったところか。この食いしん坊さんめ。


「はいはい。フェルの分もその時に作るよ」


「キュウッ!」


 嬉しそうにしちゃって、まあ。


 フェルの頭を撫でて癒されていると、遠くの机の上からエッテが顔を覗かせていた事に気付いたので「もちろんエッテの分もね」と付け加えると、鼻をひくりと動かし、安心したように去っていった。きっと寝床に戻ったのだろう。


 あの子もあの子で、こういうタイミングには必ずいるよね。


 まったく、うちの子はみんな食いしん坊さんなんだからな〜。仕方ないな〜、も〜。


「ソフィア。いつまでもサボっていないで早く続きをなさい」


「はい」


 そしてうちのお母様は、ほんっとに容赦がないんだからな〜!!


 もっと心のゆとりっていうの?

 寛大さと余裕をもって、深い愛情で包み込む事こそが母としての娘の愛し方だと思うわけさ。


 ペットが寄ってきたら頭を撫でるくらい普通じゃん?


 っていうか絨毯の隙間に潜り込んだ食べカス集めるのマジで大変なんですけど、なんで絨毯ってこんなにもこもこしてるんですかね。こんなん汚れたら洗うの絶対不可能じゃん。はやくやれって言うならまずお母様が手本を見せるべきだと思います!


 魔法の使えないリンゼちゃんと同じように魔法無しで掃除しろって言われて一旦は納得したけど、よく考えたらそれって全然条件として成り立ってないよね。


 リンゼちゃんと同じようにって条件なら、私にもリンゼちゃんの知ってる掃除知識くらいは教えてもらわないとまったく公平じゃないと思うんだ。私が知ってる掃除知識なんてせいぜい「掃除する時は上から下へ」くらいのものよ?


 魔法さえ使えれば異物を取り除くくらい簡単なんだから魔法使えばいいじゃん。掃除の目的は綺麗にすることであって苦労することが目的な訳じゃないじゃん。清潔第一じゃん当然じゃん?


 というわけで、ひっそり魔力を動かして、絨毯にこびり付いた汚れを綺麗さっぱり剥離しておいた。


 魔法? ノーノー、わたーし魔法使ってナイヨー? ただ魔力動かしただけアルネー。


「ソフィア」


「はいッ!?」


 お、……怒られる? バレた、かなっ?


 ドキドキしながらお母様の沙汰を待っていると。


「……もうそれでいいから、早く済ませない」


 お母様からの許可、もらえました。


「はーい」


 ふふふ、魔法さえ使えればこちらのものよ。


 清掃魔導師ソフィアちゃんの美技、しかとその目に焼き付けると良いよっ!


 ……って、地味すぎて何やってるか、分かんないよね。


 はーあ。さっさと済まそ。


「ゴッシゴッシゴッシゴッシうっさぎ〜のワ〜ルツ〜♪」

「……その歌はなんですか?」

「?いえ、なんとなく頭に浮かんだので。即興ですよ?」


ソフィアの行動に、深い意味を求めてはいけない。

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