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リンゼちゃんとの絆、……絆?


 長年頭を悩ませてきた問題にようやく解決の糸口が見えた。


 私が歳の割に幼く見える理由。

 第二次成長がいつまでも来ない理由。


 それは、私が転生者だからこそ起こり得た問題だった。


 ――子供の肌ってすっごい! もちもちつるつるでいつまでも触ってられる最高の肌触りじゃん!!


 自身がこのまま成長すれば、肌の状態は間違いなく劣化すると知っているが故に起こした行動。


 そう、美容魔法の開発こそが、私が魅惑の美少女へと成長するのを阻害していた要因だった――。



「……後悔はない。後悔はないけど反省はしよう。気を付けていれば防げた事故……いや、今からだって取り戻せるかも……」


 嘘だ。後悔はしまくっている。時が戻せるなら戻したいくらいだ。それも嘘ですごめんなさい。


 時は戻せるけど、そんなに何年も前からやり直すとかやりたくない。


 直近では人生に一回でも経験すればお腹いっぱいなミュラーとの真剣勝負とかもあったし、ソフィアの人生で最大の後悔ポイントと言っても過言ではないアネットとの出会いだってやり直しになる訳だし、何年もかけてコツコツと稼いできたリンゼちゃんの好感度だって全部おじゃんで初期状態からのリスタートとか、気が遠くなるくらいのデメリットだ。


 ……まあ出会った当初の初心な反応を再度楽しめると思えば、悪いことばかりでもないんだけど。


 でもリンゼちゃんに関して言えば、もっと深刻な事情もある。


 あくまでも可能性の話だけれど、もしも過去へと戻った場合、私はそこに()()()()()()()()()()()()可能性もあるんじゃないかと考えている。


 リンゼちゃんは過去、女神の気紛れによって生まれた存在だ。


 ……そして時を戻した影響が、果たして消えた女神にまで及ぶのかは断定できない。


 つまるところ、過去に戻って人生をやり直すとリンゼちゃんと出会えなくなる可能性があるんだ。その可能性が僅かにでもある以上、安易に過去へと移動することは出来ない。


 私がいま自堕落な生活できてるのって半分以上リンゼちゃんがいるおかげだからね! リンゼちゃんが女神(ヨル)の関係者で自分から私の専属を申し出てなかったら、多分私に専属メイドなんて貰えなかったし! 私はもうリンゼちゃんの御奉仕スキルにメロメロに篭絡されちゃってるから今更リンゼちゃんのいない生活なんて考えられません! いつまでも私のお世話してして!


「ソフィア。扉の前で縮こまっていられると邪魔なのだけど」


「ごめんなさい」


 なんて思ってたら当の本人に叱られてしまった。


 そういえば部屋に戻ってから移動した記憶がないね? やたらリンゼちゃんの事が浮かんだのは部屋にリンゼちゃんがいたからだったのかそっかー。


 そそくさと扉前から移動し、定位置のベッドへダイブ。


 スプリングの反発を楽しみながらアイテムボックスから買ったばかりの高級まくらを取り出せば、癒される準備は万端だ。


「リンゼちゃん、聞いてください。私の背がちっこいままな理由が判明しました」


「そう、良かったわね」


 ちょっと、反応が薄いよ!? もっと私のことに興味を持って!!


 でも「そう」だけで終わらず「良かったわね」まで付けてくれた辺りにリンゼちゃんの確かな成長を感じる。やはり今更この絆を手放すことなんて考えられない。過去に戻る案は却下だ、却下。


「どーも私のお肌つるつる魔法が原因っぽい」


「そう」


 バタン。


 そう返事が聞こえた直後、扉の閉まる音が部屋に響く。

 半ば予感めいた確信とともに顔をあげれば、想像した通り、リンゼちゃんは既に退室した後。部屋の外ではリンゼちゃんの軽い足音が続いていた。


 ……ねぇ、いくらなんでも素っ気なさ過ぎない? これ、メイドさんとしての対応としてありえなくないかい?


 私、ご主人様ぞ? リンゼちゃんの上司ぞ? もっと私にやさしくしてぇ! 給料下げるよ!?


「なんで行っちゃうの!!!」


 大声を出して引き留めようとするも、リンゼちゃんの足は一瞬ピクリと止まっただけで、すぐに遠ざかる方向へと再び動き始めた。面倒くさい私の相手はごめんらしい。あーそうですかそうですか。それなら私にだって考えがあるよ!


「ふーんだ、いいもんいいもん……」


 もそもそとベッドの上を移動し、万能魔法アイテムボックスを発動。


 ベッド脇に小さなテーブルを取り出し、その上に菓子パンとお菓子、それと瓶入りのジュースを取り出した。


「……リンゼちゃんがいない間に、部屋の中汚しまくってやるんだから!!」


 粉砂糖がたっぷり掛かったパンを、むっしゃあ! と豪快に食いちぎり、怒りのままに咀嚼する。塩のかかったポテチはまとめて口に放り込む。欠片が零れるのも構わずにパリポリと食い散らかす背徳感、気持ちいい!


 甘味と塩味で無限ループも完成し、ベッドと床はすぐさま食べかすが目立つ有り様となった。


「ふふ、ふふふ。私を粗雑に扱ったこと、すぐに後悔するがいい――」


 バァン!


 突然の騒音。

 何事かと顔を向ければ、荒々しく開かれた扉の向こうから、お母様の姿が――


「ソフィア! 成長しない理由が判明したというのは本当です……か……?」


 お母様の視線が私を捉える。


 ベッドの上にだらしなく寝転がりながら、汚らしくお菓子を食べ散らかしている私を、真っ直ぐに。


「………………ソフィア?」


「ひぇぇ……」



 ――ねぇ、リンゼちゃん?


 ……お母様を呼びに行ったなら、そう言っておいてよ!?


ソフィアには浅はか神の加護でもあるのかもしれない。

いや、単に短絡的なだけかな……。

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