原因が判明!!
青汁に筋トレ用品、極上まくらだけでは飽き足らず、怪しいサプリメントやら謎成分の入った栄養剤など、効果がありそうな物は片っ端から揃えてもらい、元手不要で無限錬成できる魔石や魔水を代金として支払っていた時のこと。
「そういえば、ソフィアさんの化粧品はどこのものを使っているんですか?」
ふと思い出したように尋ねるアネットに、私はごく当たり前に答えた。
「使ってないよ? 知ってるでしょ?」
美しさは財産だ。外見偏差値は人生の幸福度に比例する。
なので私は魔法が使えるようになった頃から、お肌のケアは全て魔法で賄っている。それは以前、私の中に精神体として宿っていたアネットなら知っているはずなのだけど。
「え? あれを続けていたんですか? ……今まで、本当に何も? 乳液もなし、ですか?」
私の顔をまじまじと見て驚いてる。
そう、私は実年齢よりも幼く見えるだろうが、肌年齢は更に幼く保てているのだ!!!
「乳液も何も、肌の表面直接弄って潤いコーティングしてるもん。お陰で全身つるっつるでぷにっぷにだよ♪ 触ってみる?」
ほらほら、と二の腕を触らせてみれば、アネットは魅惑の触り心地を体験し「こんなに!?」と驚いていた。
ふふん、すごいでしょう。私の美容魔法はすごいでしょう! もっと心の底から褒め称えるがいいよ!!
他人に掛けてみたことはないけど、アネットが望むのなら体験させてあげてもいいのよ? と得意満面になっていると、何故だか戸惑った雰囲気になったアネットが、おずおずとしながらも私を質問責めにしてきた。
「あの、ソフィアさんは今、身長が伸びない、つまりは身体の成長が止まっているかのような状態になっているんですよね?」
「そうだね」
「そしてソフィアさんは、昔から化粧品を使っていない。全ては魔法で代用してきたと」
「そのとおりだね」
「私が覚えている限りでは、ソフィアさんは『美しさは若さだぁ!!』なんてよく言っていましたけど……その考えは今も変わりない、のですよね?」
「そーね」
私が質問に答える度に、アネットの眉間にシワが増す。
そんなしかめっ面してシワが消えなくなったら身体の持ち主に怒られるんじゃないか? と密かに心配をしていたら。
「………………あの、ソフィアさん。落ち着いて聞いてくださいね」
やけに神妙な雰囲気を作り、アネットが大きく深呼吸をしていた。
……こんなアネットは初めて見るね?
わ、私はいったい何を言われてしまうんだい? できれば優しくお願いネ!
「ソフィアさんの身体が大きくならないのって――その魔法が原因なんじゃないですか?」
「はあ」
魔法が原因。
なるほど、美しさは罪だと……って、そんな話じゃないよね。
……おーけぃ、落ち着いて考えてみよう。
まず私は、成長できなくて困っている。
その実績はこの二年間で伸びた身長がゼロという大記録だ。つまり十一歳の時点から全く背が伸びていないことになる。
……それ以前から極微小な成長しかしていなかった問題は、この際脇に置いておこう。
洋服や靴だって「小さくなったなぁ」と感じることが全然なくて、正直買い替えるのはお金の無駄なんじゃないかと思わなくもなかったり。
というか、買い替える時に採寸しては「あら、以前と変わらないんですね」と言っていた服屋の人が、今年に入ってからは気を使ってサイズの話を一切しなくなった事が何よりも辛かったりして。私の子供体型は接客業の人すら恐れさせるレベルなのかと思うと、いっそ絶望的な気分になったよね。
――そんな私の絶望の原因が、美容魔法ではないかとアネットは言う。
成長は止まり。化粧品要らずの魔法。美しさは若さで。成長に悪影響。
………………どゆこと?
「………………どゆこと?」
思わず考えてる事が声に出てしまった。
言われて言葉を並べれば、なるほど、確かになにか引っ掛かる感じはする。でもその違和感が明確な形にならない。
因果関係が繋がらず混乱する私に、アネットは告げた。
「……滑らかで美しい肌を保つために、魔法で若い状態を維持し続けているのではないか、ということですよ」
……魔法で。
…………若さを?
………………………………維持、してるぅうう!!?
「ほわあぁああぁあああ〜〜〜!!!」
してる! してるよ! うわ、めっちゃしてた!! バカだ! バカがいるぞ!! 脳足りんな大バカ者は私で〜す! もうすんごいバカ!! おバカすぎて恥ずか死ぬわ!!
頭を抱え、蹲ってもまだ足りない。
これか。これが「穴があったら入りたい」というやつか! これは確かに消えたくもなるね! 後悔と反省とがものすごい勢いで脳裏を駆け巡っていくよ!? これはお母様に浅はかと言われても仕方がないわ!!
「あ……、あの。……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです!!」
バカすぎてアホすぎて生きてるのがツラい。
いくらなんでもこんな、まさかこんなに自分がバカだとは思ってなかった!!
「アネット……」
「は、はいっ!」
でも、とりあえず……。
「…………教えてくれて、ありがと……」
――原因に気付けてよかった。
それだけが、この後悔しかない現状で、唯一の救いだった。
………………泣けるぅ。
便利な魔法も利点ばかりではない。
……もっとも、初めから気を付けていれば回避出来る程度の不都合しか起こらないが。




