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万難を排する薬をください


 ――人には尊厳が必要だ。


 さて、では尊厳とはなんだろうか?


 賢い頭脳? 強靭な肉体?

 それとも、理性――社会的な動物としての良識だろうか。


 私は、人にとって不可欠な尊厳とは「自信」であると思う。


 自信を喪失した人は生きる気力に乏しい。

 逆に自分に自信を持っている人は、気力に満ち溢れ活動的だ。


 ――人は、自分を誇れる「何か」を必要としている。


 さて、では愛され少女ソフィアちゃんことソフィア・メルクリスであるこの私が、その「何か」を持っているかというと――




「えっと……、すみません。聞き間違えたかもしれないので、もう一度お願いできますか?」


「子供に身長抜かされそうだから成長促進剤的な薬作って! 身長がぐーんと伸びそうなやつ!」


 私はアネットに泣きついて、いわゆる「大人になれる薬」を作れと無理難題を吹っ掛けていた。


 分かってるよ、そんな薬は無いってことくらい。


 でもアーサーくんに「チビ」って言われた(かな)しみは何かして気を紛らわせてないと耐えきれないんだよおぉォオ!!



 ――私はチビだ。紛うことなく低身長の部類に入る。


 アーサーくんやリンゼちゃんよりはまだ身長では(まさ)っているものの、「現時点では」とか「(かろ)うじて」という注釈が必要なくらいには成長の遅れが(はなは)だしい。


 成長期というチートパワーを未だ温存している二人に対し、私は、多分、これが最終形態の恐れがあるので……。


 今までだって信じてきたよ。私は成長期が遅れてるだけだって。信じて待ってればそのうち勝手に大きくなってるって。でもさ!?


 ……二年近く身長が一ミリも伸びてないってのは、流石にちょっとおかしくないか……!?


 人は成長期に生長する。ぐぐーんと背が伸びて他の部位も大きくなる。


 でもさ、それって短期間に急成長する期間ってだけの話であって、成長期以外は全く成長しない訳では無いはずなんだよ。少しずつは成長していくはずなんですよ普通なら!


 でも私は成長しない。

 初対面の人には一桁年齢と間違われるくらいの外見で止まったまま、全くこれっぽっちも成長してく兆しが見えない。


 そんな時に、あれじゃん。アーサーくんに「チビ」とか言われちゃったじゃん。


 それくらいなら前から言われてたし、かわいいかわいいアーサーくん唯一の儚い抵抗方法として「そうだねチビだね」なんてホンワカした気分で聞いていられたんだけどさ。


 あの時、ふと考えちゃったのよね。


 ――もしも私の身長が伸びないまま、一年後に同じ言葉を言われてしまったら。


 私はその時に、どんな言葉を返すんだろうな、って。


 今まで幼くてかわいらしい子供として愛でてきたアーサーくんやリンゼちゃんに身長を追い越され、二人から逆に「小さくてかわいいソフィアお姉ちゃん」として可愛がられる光景を想像したら、私の自尊心というか尊厳というか、そういった部分が恥辱に震えた。


 かわいいは正義。

 かわいい私もまた、正義ではある。


 でもかわいいは愛でるものであって愛でられるものではない。


 自分がどれだけかわいくたって、せいぜい隠れてロリータな服着てニマニマするくらいしかやることはないんだ。


 そりゃね、かわいい子供と思ってた子達と仲良くするのは何も問題ないよ?

 でもかわいい子供に「かわいい子供」として接されて、しかもそれが的外れではないって状況が現実に起こりうると認識した時、私は思ったんだ。「このままじゃ私の歳上としての立場がなくなる」って。


 これから先、リンゼちゃんやアーサーくんに人生の先達として言葉を贈る機会が巡ってきた時に「私(俺)より背の小さいソフィアに言われても……」って苦笑いでもされちゃったら心に深いキズを負っちゃうでしょ!? そこで「小さくても大人だから!」って反抗したらそれこそ小さな子供が背伸びしてるみたいな構図になっちゃうし!


 二人は子供なのに大人ぶってるからかわいいのであって、身長を追い越した自信から私の言葉を軽く扱うようになったり、あまつさえ「あれ? ひょっとしてソフィアの方が子供っぽいんじゃ?」なんてことに気付かれでもしたら私の地位が地に落ちます!! そんなのいやだぁ!!


 私は「しょうがないなぁソフィアは」なんて思われながらもいないと寂しく感じちゃうような癒し系お姉さんを目指してこれまで二人に接してきた。だからその関係を崩すような要素は、即刻排除しなければならぬ!!!



「という訳でお薬ください」


 ぷりーずぎぶみーおーくーすーり。


 そんな都合の良いものはないだろうけど、せめてこの悲しみを誰かと共有したい。


 ならば以前、私と意識を同調していたアネットこそが最適でしょう! と愚痴をこぼす標的に選んだのだが、それが思わぬ結果を招いた。


「ええと……身体の成長を促すようなものが欲しい、ということで良いのですか? それでしたら、確かそのような謳い文句の製品が――」


「あるの!!?」


 流石はアネット! お兄様の婚約者の名は伊達じゃないね!?


 なーんだ、こんな身近に解決策があるならさっさと相談しとけばよかった!


 アネット大好き!!


「(えー、ソフィアちゃん大きくなっちゃうの?小さいままの方がかわいいのにねー?)」

「(アネット、それ本人には言わないで下さいね。実はかなり気にしてるみたいだってロランド様も言ってたじゃないですか)」


アネットは今日も脳内同居人に全てを任せる。

ごはんや遊びたい時だけ表に出てきて、仕事や勉強は寝ている間に終わっている生活。

彼女にとって、メルクリス家は天国なのかもしれない。

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