改良魔法陣と(身長の)小さな優しさ
アーサーくんと遊ぶとあれだね。心がちょっと若返った気分になるね。
カイルと違って天然物の生意気な男の子。
とても、とても良いものだと思います!!
「ソフィアちゃん。そっちが一段落したならこっちの方手伝ってくれる?」
「はーい、今行きます」
遊び疲れてぐったりしているアーサーくんを解放し、ヘレナさんの元へと向かう。
「また魔力注げばいいんですか?」
「それも後でして欲しいのだけど、今はこっちね」
そう言って差し出されたのは……。
「……あの、私魔法陣のことはあまり詳しくありませんよ?」
「またまたぁ」
いや、またまたじゃなくて。
これって最近私が魔力タンクやってる転移魔法陣の出口側のやつだよね? 一見しただけで分かるような違いはないけど、何か書き換えたりしたのかな。
「今までのって魔力の消耗が激しかったじゃない? あれって魔力の供給を一本化して安定を優先してたからなんだけど、流石に消費量が多すぎるかなと思って。ここの構成を書き換えてこっちの魔法陣にも直接魔力を通すようにすれば、今までのより無駄な魔力の消耗を押えられて結果的に魔力の節約にはなるんだけど、その代償として元の――」
なっが。
お菓子先に食べてて良かった。これは糖分を消費する案件だ。
ヘレナさんの長い話を聞きながら、頭の中で情報を整理する。
とにかくこの改良した魔法陣を使えば、必要な魔力は少なくなるけどその分安全性も少しだけ下がってしまうと、どうやらそういう事らしかった。
魔力を供給する私の安全性ではなく、物が無事に転移できるか、って方の安全性ね。
まあ転移先の座標が狂って頭上に落ちてくる可能性とかもない訳ではないらしいから、私の安全性という意味でも間違いではないっぽいけど。
「それでね、私としてはこれで問題なく動作するとは思うんだけど、これって二人で同時に魔力を注がないと使えないじゃない? だからまだ安全性を試せてはいなくて……」
ソフィアちゃんさえ良ければ、一緒に試してくれない? と望まれているのは分かった。
分かったけど、私の体調を過剰に心配してたシャルマさんに頼んだ方が良いのでは? と思って振り向くと、そのシャルマさんに「私では魔力が足りませんから」と申し訳なさそうに謝られた。ついでに「安全面については最大限考慮するようにと何度も申し上げましたので、もしソフィア様さえよろしければ」とやんわり協力を促された。正に忠臣の鑑だね〜。
しょーがないなぁ。シャルマさんにまでお願いされたら断れないもんなぁ。
シャルマさんが許すのなら初めから断る理由なんかないけど。
シャルマさんに大恩のある私としては、シャルマさんの好感度が下がるような真似はしたくない。
お願い要望大歓迎。両手を振ってシャルマさんのお願い叶えちゃうよ! なんだったらヘレナさんより優先度高いし!
「分かりました。協力します」
「本当!? ありがとう、ソフィアちゃん!」
いつもどおり魔力タンクになるの了承しただけなのに、ヘレナさんってばめっちゃ喜んでる。なんでだろ。
私が断る可能性が高いと思ってたのかな? それって……んー、あっ。こないだ倒れた件でお母様に軽く注意されてたから、その関係かな?
私って常用魔法で自分の身体調整しまくってるせいで病気も怪我も全然しない超健康体だから、ちょっとくらいふらついた程度じゃ何の問題もないって思ってたんだけど、他の人から見ると逆に心配になるみたいだね。「あの病気もした事の無いソフィアがー!」って感じ? そのせいかお母様に、お父様にはヘレナさん手伝って倒れたーなんて言わないようにって口止めされたし。
実際は魔力さえ戻れば元の健康体なのに、なんか過剰に心配されてて変な感じだよね。そのお陰でゆったりとした時間を過ごせてる訳だから、別に文句はないけどさ。
なーんて思ってたら、ここにも私を心配する人が一人。
くすぐり地獄で消耗した体力を回復させたアーサーくんが、心配そうに私を見ていた。
「危ないんだったらやめといた方がいいんじゃないか? ソフィアは、ほら、その………………まだ小っさいんだし」
「ぶふっ」
ちょっとヘレナさん。なに吹き出してるんですか。
って、ああっ!? シャルマさんまで笑ってる!?
あの完璧メイドのシャルマさんが顔背けて笑うとかそんなに!? そんなに面白かったですかアーサーくんに身長 弄られる私がぁ!? ふぬぅう!!
シャルマさんに笑われて、なんだか猛烈に恥ずかしくなってきた。
笑顔を取り繕って、アーサーくんに遺憾の意を表明する。
「アーサーくん。……これでも、アーサーくんよりは大きいからね?」
歳上のお姉さんをからかっちゃあ、いかんよ?
「あは! あっははは!」
「ソフィアさっ、それは……っ!」
待って、今なんで笑いが加速したの? 甚だ遺憾なんですけども?
「大して変わらないだろ、チビ」
「チビより小さいアーサーくん、早く大きくなれるといいね〜」
笑い合う二人。睨み合う二人。
今日もヘレナさんの研究室は、楽しい時間で満ち溢れていた。
「ソフィアのバーカ!」
「バカって言う方が馬鹿なんですぅ〜!」
――争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!!




