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お姉さんは頭が良いんです


「――だからね、最近は教室にいると常に視線を感じるというか、微妙に落ち着かない感じでさー。前から似たようなことは何度かあったんだけど、今回は三角関係ってことにされちゃったから落ち着くまでしばらく時間がかかりそうだなあって」


「ふーん、そうか」


 あん、相変わらずつれない。でもそこがいい。


 今日も今日とてヘレナさんの研究室でお手伝い(お菓子を食べるの)に精を出していた私は、王城からの手紙を届けにやって来たアーサーくんを捕まえて、一緒にティータイムと洒落こんでいた。


 ほら、こないだ私ってば魔力注ぎ過ぎてふらついちゃったじゃん? そのせいで私の作業量激減したんだよね、


 ……まあ作業って言っても、魔力垂れ流してただけなんだけどさ。


 シャルマさんの手厚い庇護を受けながら食べるお菓子はそれはそれは素晴らしく贅沢な時間ではあるのだけども、その分ちょっぴり退屈というか、その……穀潰し的な? 働かざる者食うべからずっていうの?


 この甘やかされ方は私がダメ人間になる序章なんじゃないかと不安になってきたりもしてたんだよね。


 と、そこに飛んで火に入る夏の虫!


 久々に会った会ったアーサーくんは顔付きもますますお兄さんに似てきて、かわいい王子様からかっこかわいい王子様って感じに成長してきた。


 この少年から青年へと移り変わる、いっそ中性的でさえある繊細な時期。


 ひかえめに言って最高だと思います。


「……あんま食べてるとこジロジロ見るなよ」


「あっ、ごめんね。ずっと見られてたら食べづらいよね。お姉ちゃん別の事してるね」


「……お姉ちゃん?」


 不思議そうな顔をしたアーサーくんが、私の顔……の、少し上。頭頂部の辺りをじっと見て……。


 小馬鹿にしたように、ふっ、と笑った。


 うん、身長と年齢は関係ないよね?


 相手は子供なんだから、怒るなんて大人()ないぞ? と自分を(なだ)めすかしていると。


「ソフィアって本当に年上なのか? ムネだって俺の婚約者とたいして変わらないし、実は嘘ついてるんじゃないか?」


「えっ、アーサーくんもう婚約者とかいるの!?」


 っていうかアーサーくん、婚約者の胸のサイズとか把握してるの!? やぁーだ、アーサーくんてばエッチなんだ〜!


 思わず口元がによっと緩んでしまった。

 このネタがあれば、今後一年くらいはアーサーくんをからかって遊べそうだ。


 でもでも、私は優しいお姉さんなので! そんな酷いことはしないのですよ!


 精々アーサーくんと婚約者ちゃんの見てるだけでほわほわした気分になりそうな愛らしい恋愛模様を妄想したり、実はエッチなアーサーくんに身近なお姉さんとしてドキドキ魅惑の個別指導とか施してあげちゃおうかなー♪ とか、そんなことを考えてるくらいのかわいいもんですよ。からかい倒すなんてそんなそんな。


 ………………、一回くらいなら、アリな気がしないでもないけど。


 やる? やっちゃう?

 アーサーくんに嫌われる覚悟で、一生に一度しか無い少年期アーサーくんの本気で照れる姿を堪能し尽くしちゃう? そろそろ声変わりとかするかもだもんね?


 今を取るか、未来を取るか。


 かわいいは正義だが、しかし本当に嫌われそうなのはちょっと……。


「王族には子供の頃から婚約者が付くぞ。そんなことも知らないなんて、ソフィアは意外とバカだったんだな。おかしばっかり食べてないでたまには勉強した方がいいんじゃないか?」


「おおぅ? なんだとーう?」


 人に勉強を勧めることはあれど勧められることはなかったからびっくりした。というか、私ってばアーサーくんの評価意外と高かった? 正直賢そうなところ見せた覚えがないんだけどな。


 ともかく、悪口を言われて黙ってる訳にもいかない。


 アーサーくんの教育的にも、悪いことは悪いと叱る大人は絶対に必要なのだ。


 でもこの部屋の大人は王子の肩書きを持つアーサーくんに絶望的に無力なので、相対的に大人である私がその役目を担うことになる。つまりは合法的に王子様を叱り放題。いや放題ってことはないかな?


 仕方ない。私がやりたい訳じゃあないんだけど、仕方ない。

 今だけは心を鬼にして、アーサーくんの為に嫌われ役を買って出よう。


 空になったお皿にフォークを置いて、ナプキンで口元を拭う。


 身体ごと向きを変えて、アーサーを正面に見据えたら、こちらの準備は完了だ。


 いざ――


「悪いことを言うのはこの口かーっ!?」


 と襲いかかる振りをした途端、ソファの反対側まで逃げられた。しかもその際、取り分けてあったケーキを持っていく余裕まであったっぽい。やるねぇ。


 たとえ行動するまでの()()が長かったとはいえ、さすがはヘレナ研究室に通い慣れているだけのことはあると褒め称えるべきだろうか。


 シャルマさんのお菓子は何よりも優先される。


 これ、この研究室の常識ね。


「本当のこと言われたからって怒るのはよくないぞ!」


「いや私、成績優秀者だから」

 

「……え? ソフィアがか?」


 おう、何その反応。私のこと頭良いと思ってたんじゃないの? やっぱりアーサーくんにはお仕置が必要みたいだね。


 目的を新たにした私は、不敵な笑みを湛えて身構えた。


 ソフィアお姉さんのゴッドフィンガー……味わうがいいっ!


「とりゃーっ」


「うわーっ!」


 やっばい……ちょーたのしい!!


「驚かせて俺のケーキ奪うつもりなのかと思った。違っててよかった」

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