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勇者はハゲの呪いを掛けた


 勇者とは、困難に立ち向かう人のことを言うらしい。


 ならば私は今、勇者としての第一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。


 目標の達成は絶望的。

 望みは必ず絶たれると分かっているにも関わらず、それでも、奇跡を掴むためには前に進むしかないと己を鼓舞して死地へと向かう。


 ――無策での突撃なんて自殺と変わらない。やめるべきだ。


 ――希望は望んだものにしか与えられない。叶えたい望みがあるのなら進め。


 相反する内なる声。


 どちらもが正しくて、どちらもが間違っている。

 そのことを理解し、受け容れ。私は私の意思で一歩を踏み出す。


 絶望を確定させ、望みを絶たれるだろう問いを、遂に――発した。


「――カレンは、私と戦いたいの?」


「戦ってくれるの!?」


 即座に首を横に振る。一瞬で気持ち悪くなるくらい高速でブンブンと否定を示す。すぐに気分が悪くなったけれど、それでも首を振るのは止められない。止められやしない。


 質問には普通、イエスかノーで答えるべきだと思うんだよね!!


 肯定された時のショックは想定してたけどこんな展開は想像もしてなかった。最悪を想定してたら災厄が襲ってきた感じ。カレンちゃんはもう、脳筋の民になってしまったのか……。


 いっそミュラーと離れてしばらく暮らせば元の可憐でお淑やかなカレンちゃんが戻ってきたりとかしないかな。暴力とは無縁の環境で、平和や道徳といった概念を再度学習し直したら、きっと争い事を(いと)う優しいカレンちゃんが復活して……、……?


 ……あれ、おかしいな。カレンちゃんが争い事を忌避する絵がどーしても思い浮かばない。


 最近のカレンちゃんは戦いと見るや目を爛々と輝かせて、人が変わったように饒舌になってたからなぁ……。どうせならもっと可愛らしい方向のギャップ萌えが良かった。「戦いを見るとイキイキしだす」って完全にデメリットじゃないですかやだー。


 ――妄想の翼をはためかせることで、危うくこの場で確約を得られそうになり恐れ(おのの)いていた心臓をゆっくり丁寧に宥めていると、ネムちゃんが私の顔を覗き込んできて呟いた。


「……戦わないの?」


「戦いません」


 やめてよね。物事ってのは口に出すと現実になったりするんだからね?


 明確に拒絶することでカレンちゃんが残念そうに落ち込んじゃったけど、こればっかりは仕方がない。私の精神の安寧と、何より命に関わることだ。


 先日ミュラーの相手をして改めて分かった。


 やっぱり私は、強敵との戦いを楽しむようなタイプじゃあない。

 始まりの街の周辺で作業のように単調なレベル上げをこなして、道中のザコ敵も中ボスクラスの敵も危なげなく対処できるようになるまでレベルを上げてからようやく冒険の旅を開始する、そんな超堅実派タイプの勇者なのだ。


 なのでカイルの相手くらいならまだしも、カレンちゃんの相手とか絶対にいやだ。私の防御魔法なんて繊細なガラス細工みたいに簡単に砕けて諸共に圧壊される未来が容易に見える。


 それに私って体重が軽いから、攻撃を受け止めただけで吹き飛ばされて、文字通り、壁のシミみたいにベチャッ! って潰されちゃうかも……おぉおお恐わわわ!!


 ミュラーに辛うじて対抗できたのだって、私の身体強化魔法が反応特化、つまりは技量と速度で相手を圧倒するミュラーみたいなタイプとの相性が良かったからで。

 それでもあれだけ追い詰められちゃったんだから、パワーで私を上回るだろうカレンちゃんなんて相手にしたらどうなる事か。想像するだけでも恐ろしい。


 もしも私がカレンちゃんと戦うことになって。もしも一度でも動きを捉えられてしまったら、そしたらきっと……、……ッ!!


 ……あー、これ想像しちゃいけないやつだ。私はトマトじゃないので、ベチャッ! となる趣味なんてない。いやトマトにもそんな趣味ないだろうけど。


 そーゆー芸人っぽい役回りはカイルに譲……りたいところだけど、カイルだと強化が足りなくて、ベチャッ! の前に、ベキボキボキィッ! ってなるかもしれないね?


 治すのだって楽じゃないんだし、やっぱり却下で。


 カイルはもっと身体を鍛えて、いつでも私の身代わりの人身御供となれるように《加護》の練習でもしてるといいんじゃないかな!


 カイルの方へ振り向くと、いつも通り堂々と盗み聞きをしていたみたいなので「カレンちゃんの相手ができるくらい強くなってね!」という意味を込めてぐっと指を立てておいた。すると露骨に嫌そうな顔になって「求められてんのは俺じゃないから」と要請を拒否。カイルのくせに生意気な。


 そろそろ魔力も馴染んだっぽいし、いっそ無理矢理にでも鍛えてみるか?


 強くさえなれば戦うのが大好きなミュラーの相手くらいはできるだろうし……とか考えてたら、そのミュラーが頭の上に疑問符を浮かべ、私とカイルを見比べていた。


「……あなたたち、本当に仲がいいのね」


「「は!?」」


 やめろ、被せるな! 誤解が加速しちゃうでしょ!


 えっと、なんでだ。さっきのか?

 以心伝心っぽかったのはあくまで幼馴染みとしての能力というか、腐れ縁技能であってですね。それで――


「ソフィアはないわー……」


「なんだとコラ」


 おっといけない。乙女成分帰っておいで〜。


 カイルはデリカシーが無いからね。きっと照れてるんだね。ガキンチョだね。


 女の子を(けな)す男の子はモテないんだゾ? カイルは将来ハゲるといいよ☆


「……私だって神殿騎士団の一員なのだから、あの輪の中に交じってもなんら問題は……いやしかし……」


王子様の乙女力、急上昇中。

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