表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
770/1407

幼馴染みの利用法


「……なに、カイル?」


 カイルが弄りに来たので威嚇したけど、やっぱり効果は無さそうだった。


 低い声で拒絶を示す程度じゃあ、もう笑い声を止めることすらできやしない。


 すぐに答えないと次は物理だぞおらぁ、と剣呑な雰囲気を醸し出すことで、ようやくカイルは笑うのを止めて話をする体勢に入った。


 ……その引き際の見極めの良さも、ムカつく原因の一つなんですけどねー!!?


「いや? ソフィアも懲りねーなぁと思ってさ。そういうことするからアイツらに目を付けられてるって自覚してないだろ?」


「そーゆーこと?」


 主語は明確に。常識でしょう?

 こーゆー回りくどいとこ、実にカイルらしいと思います。


 何の事かと問い返すと、カイルは「ほらみろ」と呆れたように肩を(すく)めた。なんでこいつはいちいち人を小馬鹿にしないと話ができないのか。そーゆーのいいからさっさとしゃべれ。


 続きを促せば、カイルはネムちゃんを視線で示した。


「さっきのネフィリムの攻撃だよ。加護の乗った攻撃を、真正面から馬鹿正直に受ける。威力がある攻撃ってのはそれだけで脅威だからな? 普通なら避けるだろ? それを受けるってことは、『受け止めても大丈夫だ』っていう確信がないとできないことなんだよ」


 要はおまえ、余裕がありすぎなんだよ、とぐうの音も出ない程の正論で諭された。普通はもっと驚くものだと。


 驚きもせず、避けもせず。

 淡々と受けて押し返すなんて芸当は、普段から自称しているかよわい乙女なら決してできることではないんじゃないかと、そりゃもう楽しそうな笑顔で説明された。


 カイルってばなんで今日はこんなに元気なんですかね。

 ウザさ、半端ないんですけど。


 つーかかよわい乙女ってのはね、戦闘力皆無って意味じゃないんだわ。心根が優しくて見た目が可憐で儚げな美少女のことを指す言葉なんだわ。カイルに認定されなくちゃ名乗れないようなものじゃあないんですけど??


 めちゃくちゃ余計なお世話なんですけど自覚してます? 自覚してないよね? ねーカイルくん、ブーメランって知ってるかなあ? 今の君にピッタリな言葉だから是非とも覚えて帰ってネ☆


 心の中でどれだけボコボコにしてやっても、現実のカイルは何処吹く風。


 私が想像の中でカイルをメタメタにやり込めていることくらい理解しているだろうに、反発する様子すら見られなかった。


 くそう、これだから幼馴染みはやりにくいんだ……!


「平たく言うと、素人っぽくないんだよな、ソフィアって。クラスのみんなにしたって、もうソフィアが強いってこと知らない奴なんていないぞ」


「それはミュラーのせいでしょう……!?」


 あの日ミュラーと戦い勝ったことは、他言しないとその場にいた全員に約束させた。当然そこには当事者であるミュラーだっていた。なのに!!


「ミュラーがカレンに稽古つけながら、やれ『ソフィアには勝てない』だの『ソフィアには届かない』だの言って煽りまくるから、それを聞いてたみんながすっかり信じ込んじゃって……!」


 ネムちゃん以外、誰も私の相手をしてくれなくなったんじゃないかーーっ!!


 なんで私まで避けられなきゃならないの!? 私はミュラーと違ってちゃんと手加減できるし人を殴る趣味だってないのに! 見た目通りにかよわくて平和的な模範的生徒なのに!


 真面目に授業を受けてただけでみんなに避けられるようになるとか納得いかない……っ!


 キッ! と私が孤立する原因を作ったミュラーを睨みつけるも、彼女は現在カレンちゃんを鍛えている真っ最中。


 私の視線なんかには気付く気配すらなく、実に生き生きとした様子でカレンちゃんの攻撃を避けまくっていた。


 ……私が、あのミュラーと同類に見られている。

 あの剣術のことしか頭にない、根っからの脳筋種族と、同じような存在だと!!!


 ――…………実は似たような物じゃないか? という疑問が一瞬湧いたが、その考えは即座に棄却した。


 剣と魔法ってだけでもだいぶ違うし。

 それにほら。ミュラーは私と違って成績もいまいちなんだから、剣ばっか握ってないでもっとペンを握る時間を増やすべきだと思う。


 割と失礼なことを考えながら溜飲を下げてはみるものの、現実さんはいつだって私に厳しい。


 もっと春の陽気が如くぬくぬくと甘やかしてくれてもいいと思うのだけど、残念ながら今私の傍らにいるのは優しい温もりのお兄様ではなく、私を言い負かすことに至上の喜びを感じる変態、カイルくんなのであった。


「ああ、ソフィアがカレンを負かしたって噂な。まあ今のカレンは再戦に向けて鍛え直してるようにしか見えないもんな。諦めるしかないんじゃね?」


「他人事だと思ってー!」


 せっかくミュラーとの約束を終わらせられたってのに、次はカレンちゃんとなんて冗談じゃない。


 私は非戦闘民族。

 日常を平和に過ごしたい系乙女なのだ。


「あ、いいこと思いついちゃった。カレンに条件とか付けるのはどうだろう。私と戦いたかったら、カイルを十回倒してくることとか」


「おいやめろ」


 うけけ、焦るがいい、そして苦しむがいい。私の苦労を少しでも分かれ!


 カイルは私の幼馴染みとして、私の苦労の半分くらいは背負うのがいいと思うよ!!


「……ソフィアって、カイルくんと話してる時だけ雰囲気違うよね」

「わかる」

「だよね」

「……これってもう確定じゃない?」

「わかる!」

「だよね!」


ソフィアの受難は(以下略


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ