村に食糧を届けよう
フェルの先導で無事に森を抜け村へ到着。
何やら人が集まっていたみたいだけど、人集りから一人の女性がこちらに向かって駆けてきたので姉妹の背をそっと押した。
なおでっかいフェルは村に着く前に小型化済みである。質量保存の法則なんてなかった。
「二人とも、どこへ行っていたの!」
やっぱりお母さんみたいだ。
姉妹側の事情を聞いてはいたけど、幼い二人だけで森に入ったなんて魔物がいなくても危なすぎて心配するのは当然だよね。
二人が謝ってもずっと怒ってたけど溢れ続ける涙を見ればそれが愛情ゆえだというのは一目瞭然だ。無事に帰せて良かったと思う。
「本当にありがとうございました」
「大事がなくて何よりだ。それで、少し話を聞かせてもらいたいのだが」
「私に答えられることならなんでもお聞き下さい」
お母さんが落ち着いたところでお話し合いのターン。
姉妹を保護していたせいか村の元々の気質かは分からないけど、村人はかなり好意的に見える。
良い人に届ける食糧が間に合って良かった。
「感謝する。人が集まっていたようだが何か問題が起こっているのか?」
お父様の視線の先には遠目にこちらを見遣る人々。
初めに見た時の緊張が解けていることから起こっていた問題とは姉妹のことじゃないかと思うけど、確認は大事だ。
「あの人達は娘を探すのに協力してくれたんです。夫を含め何人かは森に入って探してくれていました」
「森に? 大丈夫なのか?」
「森に魔物が出るのをご存知なのですか? 森に入った者達は土地勘のある者だけですから、もし魔物と出会っても逃げるくらいはできます」
「そうか。優しく勇敢な者達なのだな」
「ありがとうございます」
うーん、お父様が領主してる。
家での情けない姿を知りすぎてるからか違和感があるね。
でも邪魔しちゃいけないことくらい分かるから大人しくしとこう。
こーゆー時はお母様を参考にするに限る。
いつの間にかお父様の傍らで空気のように控えているお母様、流石です。
「急を要する問題がないのならば村長に取り次いでくれないか。私達はこの村に食糧を運んできた者だ」
「食糧を! すぐに呼んで参ります!」
食べ物のことと聞いたらお母さん、娘達を置いて飛んでいっちゃったよ。
改めて村人を見れば、確かに、顔色が良くないかもしれない。
姉妹が無事見つかったことを喜んでいて明るい雰囲気に包まれているけど、その喜びの感情を動作で表している人がほとんどいない。元気がないと感じたのはきっとそのせいだ。
だと言うのに、アンちゃんのお母さんが人の輪に加わるとすぐに、わっと大歓声が起きてひゃっほーい! と飛び跳ねている人まで。一瞬でお祭り騒ぎに突入した。
やっぱり食べ物の力ってすごいな。
なんてことを思ってたら人垣が割れておじいちゃんが杖をつきながら出てきた。早歩きだ。めっちゃ早い。転びそうで怖いよ!
そのままお父様の前まで突進してくると挨拶もそこそこに目を輝かせた。
「食糧を届けに来た方だそうで、感謝の念に耐えませぬ。それで食糧の方は……」
「ああ、それなら……アイリス」
「はい。呼んで参りますので少々お待ち下さい」
おお、阿吽の呼吸。でも呼んでくるって?
なんて傍観者のつもりでいたらお母様に手を引かれて森の近くまで引き返してきた。
「ソフィア。村の方々から見えないように食糧を出して、違和感なく運べるようにしてください」
「割と無茶言いますね」
「でも、できるのでしょう?」
できますとも。
だってソフィアの魔法は万能だからね!
ごはんを空から降らせることも、ごはんが食べられたそうにこちらを見ている! させることもできるけど、違和感NGだとどうするのがいいかな?
よし、決ーめたっ。
うふふ、みんなの反応が楽しみだなー。
「ソフィア。違和感なく、ですからね?」
「お任せ下さい!」
「……もし不安なら私にも手が無いわけでは」
「大丈夫です!」
「…………本当に頼みますよ?」
「全てお任せあれですっ!」