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剣術の時間、新しい風景


 ミュラーと戦ったあの日から。


「えいっ! やあぁっ!」


「遅いわよっ! ほらそこっ、(かかと)をつけない! もっと鋭さを意識しなさい!!」


「ううっ!? ……やあっ!」


 カレンちゃんの様子が、どこかおかしい。


「こっれでっ、どうだっ!」


「おっと、ミュラーの真似かい? でもそれじゃあ、ただの三連撃だね」


「ヒースだって似たようなもんじゃないか!」


 ついでにカイルも、何故かやる気に満ち溢れている。


 まっすぐな瞳で目標を見据え、額に汗して頑張る姿は、まるで少年マンガの主人公みたいで。


 正直見てるこっちが恥ずかしくなってくるよね。こってこての青春ってなんでこうも気恥ずかしく感じられるんだろうか。変な気分になってくるから、できれば私の目の届かないところでやっていて欲しい。


「ん〜〜に〜〜うにににに〜〜! にょろろろろ〜!!」


 そして私の眼前では、木剣を合わせた状態で静止しているネムちゃんが可愛らしい声を上げながら、木剣から魔力を放出させる練習をしていた。


 ミュラーを初めとする《加護》を使える剣士が放つ、飛ぶ斬撃。


 あれをネムちゃんがやりたがっていたので、こうして魔力を飛ばす練習をしていたのだ。


「………………えいっ」


「ふにぃっ!?」


 反発を誘おうとして木剣に軽く魔力を込めたら、ネムちゃんが腰砕けになって崩れ落ちた。どうやら驚いてしまったらしい。


 剣を合わせた状態で魔力を流せば当然こうなることも想定していたけど、驚いた拍子に魔力の接触部分に反発してくれれば、魔力を飛ばす訓練になると思っていた事も確かだ。


 ……可愛らしい悲鳴をあげてくれることに多大な期待をしていたことも確かだけども、決して私欲だけで訓練と称したイタズラをしていた訳ではないんだ! それだけは紛れもない事実なんだ!!


 あわよくば、という多少の役得は、無償で訓練に付き合う報酬みたいなものだと思います。


 ネムちゃんって反応がとっても可愛いから弄りがいがあるよね。


「体勢を直す暇があったら剣を向けるっ! 剣は常に相手を狙い続けて! そんなにのろのろした剣じゃソフィアには一生届かないわよっ!」


「はいっ!」


 あー、今日も空耳が聞こえるなあ。

 カレンちゃんがいつもの超絶パワー頼りの独特な戦法止めちゃったのはなんでなのかなあ。もう十分強いのに、それ以上強くなって誰と戦うつもりなのかなぁ。全然見当がつかないなあ〜〜。


「う〜〜〜……にゃっ!」


「おっとぉ」


 ネムちゃんの魔力が急激に膨れ上がったので、木剣が破裂する前に干渉して魔力を逃がす。そういえばこの子もパワー型だったな。


「無闇に魔力だけ込めてもダメって言ったでしょー」


「うう〜、でもマリーがぁ……」


 ネムちゃんの告発を受け、恐らく教室に居るだろうマリーとの念話を繋ぐ。


 ふむふむ、剣から魔力が溢れ出る感覚を知った方が良いと思ったからアドバイスを? 発想は悪くないけど、溢れ出る前に爆発しちゃうので却下です。クラスメイトの安全も考慮してね?


 マリーに安易にネムちゃんを煽らないようにと注意を伝え、地味な訓練に飽き気味のお嬢様への対処を再開する。


「鞭とか知ってれば話は早いんだけど……。んー、魔力ってとっても自由なものでしょ? だから剣に宿らせた魔力を、そのまま叩きつけるようにして……」


「叩きつける!!」


 会話の途中で、突然大上段から襲われた。同じく強化した木剣で難なく受ける。


 ほらあ〜、ミュラーがいつも頭ばっかり狙うからネムちゃんが真似しちゃったじゃんか〜。将来ミュラーみたいな戦闘狂になったらどうしてくれるの〜。


 力を加減して押し返すと、ネムちゃんはバランスを崩し、ぽてりと地面に尻もちをついた。不満気にほっぺたをぷくぷく膨らませている姿がなんとも可愛い。


 って、癒されてる場合じゃなかった。フォローしないと。


 ネムちゃんを助け起こしながら言葉を探す。


「うん、叩きつけるんだけど、今じゃなくてね? あ、でも《加護》は上手くなったね。もう少し練習したら、感覚くらいは掴めるようになると思うよ」


「! がんばる!!」


 少し褒めただけで、ふんふん! と鼻息荒く、再び魔力を込めた木剣を振り回し始めるネムちゃん。


 その調子で武器に魔力を流す感覚を馴染ませていけば、ネムちゃんなら直ぐに斬撃くらい飛ばせるようになるだろう。斬撃っていうか実際は、ただの魔力の塊なんだけどね。


 あっさりとやる気を取り戻したネムちゃんを眺め、安堵の息を吐いていると、背後から押し殺した笑い声が聞こえてきた。大人しく王子様と訓練してればいいのに、と思いながら振り返ると、そこには予想通りの人物が「くっくっ」と、それはもう楽しそうに笑っていた。


 なんですか。今度は私が不機嫌になる番なんですか。

 私をネムちゃんみたく可愛らしく怒らせたいなら、是非ともここにお兄様を連れて来てください。カイル相手にそんなサービスはしてないんで。おととい来やがれ。


「……なに、カイル?」


 声に明確な不機嫌さが混じる。


 だって、カイルの様子がさあ……これ絶対、私をからかいに来てるんだもの!!


 いやーんカイルに苛められるう! 助けて下さいお兄様!!


「……ねえ、今さ」

「ソフィア、足音だけで」

「カイルくんだって分かってたよね!?」


「「「きゃー♪」」」


授業終了後、ソフィアが弄られることが確定した瞬間だった。

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