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マンガの楽しみ方


 個人で楽しむマンガ。それ即ち同人誌である。


 ……ってのはまあ、私個人の見解ではあるんだけども。


 マンガってのは興味ある人からすれば至高の娯楽となりえるけども、興味のない人からすれば人を堕落に誘う元凶、ダメ人間の象徴のようにも見えるんだそうだ。


 まあ実際、その傾向がないとは言えない。

 私はマンガも小説も嗜むけれど、活字は嫌いだと公言し、数々のマンガやゲームについての知識を持っているような人は、総じて学業は奮わないという印象はある。


 マンガは悪だという、その感覚が根付いているのか。

 私には、マンガは同好の士だけで楽しむもの、つまりは基本的に秘しておくべきものだという認識があった。


 誰に秘するかといえばそれはもちろん、真面目で固くて怒りっぽくて、遊んでいる私を見ると「あの子は見る度に遊んでいるわね……」というような視線を向けてくるお母様にである。


 つまり、マンガをお母様に隠してたのはお母様の普段の行いが悪かったせい。


 私はお母様を不快な気持ちにさせない為に、お母様の視界に入らないところでマンガ普及計画を推し進めていただけにすぎないのである!!



 ――というようなことを、言葉を選んで、お母様の好む貴族的な言い回しで説明すると、最終的にこんな感じになりました。


「お母様を煩わせないようにと考えたことが、結果的にお母様を困らせることになるなんて……。考えが至らない娘で申し訳ありませんでした」


 こんなのは基本的にね、卑下して、相手を立てて、丁寧に謝っとけばなんとかなるの。お母様が相手じゃなかったら卑下した段階で一発で許してくれるよ? しっかりと頭を下げるまでを見届けるお母様は本当に、中々の鬼畜さんだと思うの。


 なーんてことを考えるとまたお母様流読心術で考えてること全てが筒抜けになりそうなので、すかさずお母様を褒め讃える思考を被せて隠蔽しておく。


 お母様は最高。お母様は素敵。

 お母様は子持ちとは思えない美貌を持った、天下無双の良妻賢母であります!


 ……なんだか褒め言葉がやたら強そう文言になった気がする。

 まあは母強しって言うし、問題ないかな!


 (さか)しい努力が功を奏したのかは知らないが、お母様はそれほど怒っていないように見える。


 今日は初めから緩い感じだったけど、この分なら平身低頭路線でいけば、このまま無事に乗り切れそうだ。


「ソフィアは頭は良いのに何故叱られるような事ばかりするのか、本当に不思議なのよね……。今回の事だって、わざわざ仕事中の者たちに声をかけずとも良かったでしょうに。どうせ一人ずつしか読めないのだから、仕事が終わった後でも、休みの日にでも、順番に読ませればそれで済んだことでしょう?」


 しみじみと呆れられてしまったが、お母様はマンガというものを分かっていない。


 確かにマンガは一人用だ。けれど、一人でしか楽しめない訳ではない。


 ひとつしかないマンガをみんなで覗き込んで読んだり、好き勝手に感想を言い合ってみたり。時には先の展開をネタバレされて、わーきゃーと文句を言って騒ぐのも、楽しい思い出のひとつとなるのだ。


「その場にいる全員が、初めて目にする本物のマンガ。その状況こそが大切だったんです」


 そう、それこそが私が人を集めた理由。


 アンジェの描いたマンガを読んだ誰もが等しく感じるであろう衝動。『この感動を誰かと共有したい!』という願い。それを叶えるために、私は同志を増やすことに注力したのだ。


 仲間は多い方が楽しいもんね。


 それに折角の初体験の機会なのに、喜んでる姿を見られないとかマンガを見せる意味の大半がなくなってしまう。楽しみの共有とはすなわち、他人の笑顔を見るということなのだから。


 他人が喜んでる姿を見て幸せな気持ちになる。心に温かな灯りが点る。


 その輪が広がることで、みんながハッピーな幸せ空間は完成するのだ。


「人は初めての体験を共有することで強い仲間意識を持ちます。今日の経験があったことで、彼女たちはますます連帯感を強めたことでしょう」


 だからあの行動は間違いではなかった、と主張する私に対して、お母様はあくまで自然体で疑問を呈した。


「……それは、職務を放棄してまで集まった理由にはならないでしょう? それとも、今日でなければならなかった正当な理由が何かあるのですか?」


 今日でなければならなかった理由。


 それは、私がマンガを読んだのが今日だったからだ。


 一点物のこのマンガをいち早く他人に読ませ、感想を言い合って楽しくおしゃべりをする為には、ある程度の人数を集める必要があった。だから集めた。


 想定したよりも大分多く集まっちゃったのは、偏にアンジェのマンガの出来が良すぎたせいだ。そこは私のせいじゃない。


 マンガの感想を言い合うという目的を果たせた私としては「今日やったのは正解でした」と言いたいところだけど、それを素直に言っても納得されないのは目に見えている。なので。


「『思い立ったらすぐ実行』が信条ですので」


「その信条は捨てなさい」


 お、おおう。ノータイムで切り捨てられた。ひどい。


 でもその言い訳を取り上げられたら、お母様を納得させられる理由なんかないんですけど!


頭が良いことと利口なことはイコールではない。

むしろソフィアの場合、わざと迷惑を振り撒いている節も……?

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