表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
765/1407

宴の終わり


 問題です。秘密を守るにはどうしたらいいでしょうか。


 私が考える答えは、秘密を知る人物を絞ること。秘密に関して話すのを避けること。そして普段と同じ行動を心掛けること。

 この辺りを守っていれば秘密の漏洩は防げるんじゃないかと思うんですよね。


 つまりその全てを疎かにした私たちは、勤務時間中にたっぷりおサボりしてるのがバレるのも当然だったという事さ! あっははのはー!



「誠に申し訳ありませんでした」


 この日、本来ならば仕事中であるはずの時間にメイドたちが集まり、楽しくおしゃべりに興じるという信じ難い事態が発生した。この常識では考えられない事態を引き起こした首謀者は、どうやら彼女たちが仕える屋敷のお嬢様らしい。


 はーい、そうでーす。私のことでーす。私が人を集めましたー。ごめんねてへぺろ♪


 仕事終わらせて来たんなら何も問題ないよね! とか思ってたんだけど、どうやらそーゆーものでもないらしい。仕事が終わったら普通、すく次の仕事に取り掛かるんだとか。休憩は勝手に取っちゃダメなんだってさ。


 メイドの数が減ってることに気付いた執事長がお母様とメイド長へ報告し、私たちはきゃいきゃいと大はしゃぎしている現場を押えられ、びっくりするくらい叱られた。みんなで一通り叱られた後は当然、叱られた分も誠心誠意お勤めに励む……のだけど。


 お勤めが存在しない私だけは、引き続きお母様のお叱りを受ける羽目になってしまいましたとさ。なんてこったい。


 ううう、メイド長に怒られただけでも辛かったのに、そのうえお母様にまでなんて身体が持たない。心も身体もしおしおになっちゃうよ。


 みんなもごめんよう。せっかくマンガに興味を持ってくれたのにこんな結果になってしまって。同志諸君には今度美味しいお菓子を差し入れするから、どうかそれで許しておくれ。


 心の中で謝罪をしながらおひとりさま特別お説教コースへと連行された私は、今日一日分の記憶が苦いものに書き変わるくらいの説教地獄を覚悟してたんだけど……。


「反省しているのなら構いません。それに、彼女たちは半ば自主的に集まったとの確認も取れていますからね」


 でも意外なことに、お母様のお叱りはほぼ形だけの簡単なもので終わった。


 余りにも簡単に許されてしまって、いっそ気味が悪く……いや嘘ですごめんなさい。わたし優しいお母様だーいすき!! 私は反省できるいい子なので、お説教は結構でございますです!


「はい、反省してます! 本当にすみませんでした!」


 机にゴツンと頭をぶつけながら謝ると、「いいから顔を上げなさい」と嘆息された。どうやら本当に許してくれるらしい。おおお、珍しいこともあるもんだ!!


「もう同じ過ちは繰り返しません。お母様にもお時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。私は余計な事をしないよう、今日はもう部屋で大人しく……」


「待ちなさい」


 おおっとぅ、お母様の気が変わらないうちに脱出しようとしたのに失敗してしまった。ちょっと急ぎすぎただろうか?


 反省した私はお母様の言葉を聞かないという選択肢を選べない。


 浮かしかけた腰を再度椅子に落ち着けると、お母様はそんな私を見て、ふっと意味ありげに笑った。なんなのこわい。


「そう緊張しなくても、お説教の続きをしようというわけではありませんよ。……ふむ、困りましたね。この調子では聞きたいことも……」


 ぶつぶつと呟くお母様。


 その小さな独り言も全て私の耳に入ってはいるが、聞かせるつもりのない言葉を勝手に拾うと後で叱られる可能性がある。


 意識して、意味の理解を放棄した。


「そうだ、ソフィアは甘い物が好物でしたね。先日良いメイプルシロップが手に入ったのですが、ソフィアはどうやって食べるのが好みですか?」


「パンケーキにかけるのが王道かと」


 ――はっ! 気付いたら返事をしてしまっていた! なんて的確な餌を用意するんだ!!


 でもでも、メイプルシロップって今なんか手に入らないとかで希少価値が凄くって、アネットにも用意は難しいって言われてたんだけど……なんでお母様のとこにはあるの! ずるい! 私にもください!!


「アネットに頼んだんですか?」


 まさか私が手に入れられなかったのはお母様のせいなのか、ということに考えが至ると、ちょこっとだけ気力が回復した。


 人はやはり、ちょっと怒ってるくらいが元気になれていいと思う。でも本気では怒らない。だって怖いもんね。私は油断しないぞ。


「いえ、別口です。私には私の伝手がありますからね」


 ほう、そんなものが。

 手に入らない製菓の材料があったら今後はお母様に頼むのも良いかもしれない。


 そんなことを考える私の前に、紙束がドサリ。


 使用人が下がると、お母様がその一部を手に取り、私に見せた。


「ところで、これを描いたのはアンジェだと聞いていますが。間違いありませんか?」


 その手にあるのは当然、叱られる元凶となったマンガの束。お母様は冷めた視線。背筋をゾゾゾと悪寒が襲う。


 ……あれ? この流れ、お説教が再開しません?


 …………あんまり怒ると、お母様の綺麗なお顔に小じわが……いや……なんでもないです……。


甘味は正義(力強い断言)。

甘味の名前を聞いただけで甘い芳香が鼻腔を擽り、味蕾には幸福が咲き乱れるのだ(圧倒的妄想力)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ