アンジェ>ソフィア
「お肉は狩るのが難しいからね〜。独り占めしたくなる気持ちも分かるわ〜」
「なら初めに見つけた時に狩ってしまうべきでは? このように懐かれて、愛着を持ってしまってからでは、私は食べたいとは思いませんね……」
アンジェのマンガを読ませて、同士を増やそう作戦。
マンガの完成度が高かったこともあり、意見を仰ぐことは簡単に出来たのだけど――。
割れた。意見がめっちゃ分かれた。
やっぱりちゃんと話さないと分からないことってあるよね。
私、あのまま一人で考え込んでたらアンジェのこと精神異常者だって思い込んでたかもしれないもん。
リンゼちゃんに「真面目に働いてる人達の邪魔をするのはやめなさい」と怒られてしまったので、比較的暇そうな使用人たちを捕まえてマンガを読ませていたんだけど、休憩に来たメイドたちがそれを見て盛り上がり、あれよあれよという間に大増殖。
今ではメイド同士が連携し、マンガを早く読むためにいち早く仕事を終わらせて来るという、中々面白い状況になっていた。
「ねぇ、読んでる横でうさぎ食べてる話しないで欲しいんだけど」
「先輩たちのせいで、うさぎさんがお肉にしか見えなくなってしまいました……」
マンガはひとつしかないが、幸いにもページ数は多かったので回し読みしてもらっていたのだが、そのせいで読み終わった人によるネタバレが発生し「少女とうさぎの物語」が「少女がお肉を食べるまでの物語」に変貌するというアクシデントが発生していた。これから読む人たち専用の空間を遮音の結界を区切ると、若い子達から感謝の声が。
メイドって割と体育会系なとこあるよね。
普段はみんな仲良いんだけど、こーゆー時に当たり前のように先輩が優先されてるの見ると特にそう思う。
まあマンガ初体験のその日のうちにネタバレの概念まで知れたってのは、そこそこ貴重な経験なんじゃないかな。
そんな経験しなくて済むのが一番だけどね。
「アンジェは可愛いものが好きだったものね。ソフィア様の面倒を任された時もすごく喜んでいて……」
「そーそー! 今日は手を握ってくれただとか、名前を呼んでもらえただとか、毎日報告に来て嬉しそうに話してたよねー!」
そして休憩中のメイドが集まれば必然、会話の量も多くなって、初めはマンガの内容に終始していた話の内容も次第にズレていってしまう。
それも当然の流れと言えばそうなのだけど、でも本人がいる目の前で子供の頃の話は勘弁してくれないかな。これでおねしょの話とか出たら、赤ちゃんが漏らすのは当然の事なのに恥ずかしくなるの不可避だからさ?
「ところで、マンガはどうだった? 面白かった?」
気分を切り替えて、マンガの感想を求めてみる。
うさぎちゃん非常食問題は……元の生活水準で考え方に差が出る事分かったのでひとまず保留。
基本的に平民出身者はアンジェ寄り。貴族の子女は私寄りの思考。それだけ分かれば十分だ。あとはみんなが読み終わってからもう一度聞いてみよう。
「はい! 面白いですよ!!」
「ええ、面白い試みだと思います。ソフィア様に説明された時はどういった物なのかよく理解できませんでしたが……確かにこれは、絵だけを繋げて物語を作っていますね」
「私もこれ好きかもです!」
「思わず夢中になってしまいますよね」
マンガの評価は絶賛の嵐。
マンガが素晴らしい文化な事に異論はないが、それでも彼女たちにとって馴染みのないハズの物がこれだけの好感を持って受け入れられたのは、やはりアンジェの画力の影響が大きいのだろう。
……でもね? これだけは間違えないで欲しいんだけど……。
私の絵がマンガの良さを伝えられないほど下手なんて事実はないんだ。
ただちょーっとアンジェの絵が上手すぎるだけでね?
私が劣っているのではなく、アンジェが優秀すぎるんだと、ただそれだけの話なの。
それにデフォルメは立派な画法のひとつであってヘタクソではないんだ。拙く見えてもそーゆーもんだから。ヘタクソとかじゃないんだ。……いつか時代が追いつくから見てろよっ!?
私がマンガを描いて持ってきた時にはイマイチな反応だったみんなが、アンジェの作品は大絶賛することに軽く嫉妬していると、そんな私の様子にいちはやく気付いたリンゼちゃんがそっと肩を叩いて慰めてくれた。
ううぅっ、リンゼちゃぁん! 私の理解者はリンゼちゃんだけだよ!
そう思ってたのに……。
「人には才能というものがあるのよ。アナタには魔法の才能があるのだから、それだけで我慢しなさい?」
違う、そうじゃない! 私は本当に、ヘタクソなんかじゃないんだってば!!
デフォルメの概念を知ってるハズのリンゼちゃんにまで裏切られた。もう誰も信じられない!!
うっ、ううう。ダメだ、ここには敵しかいない。
デフォルメの方がかわいいのに。絶対絶対かわいいのに。なんで誰も理解してくれないんだろうか。
いいもん。私の描いた絵、フェルは喜んでくれたもんね。エッテだって喜んでくれたもんね!
私の絵は、分かる人にだけ分かる価値があるんだ。
きっと某有名画家みたいに、死後に価値が上がったりするんだからね!!
アンジェ作品の人気に、ソフィアちゃんじぇらしー。
もっともそのお陰で、可愛がってる幼メイドに「魔法の才能しかない」と言われたことには気づかなかったご様子。
大丈夫。ソフィアの絵は下手じゃないよ。上手くもないけど。




