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ペットは食べ物ではありません


 ほのぼの系マンガかと思って安心して読んでたら、突如狂気の世界に突入した。


 マンガの内容も怖いけど、私は何よりこれを描いたのがあの性格天使のアンジェだという事実に恐怖を覚える。


 虫も殺さないような顔してる可愛い子だったのに、なんて極悪なシーンを思い付くのだろうか。マンガの中での出来事とはいえ、仲良くなったうさぎさんを躊躇なく食べちゃうなんて……罪悪感とか感じないんだろうか? 感じないんだろうなぁ。


 ……いや、確かにアンジェには昔から、そういった気質はあったか。


 アンジェは元々住んでいた村が割と田舎の方だったらしく、基本的に動物は食料。


 食卓にお肉が出れば喜ぶような生活をしている人達にとっては、うさぎなんて肉の塊にしか見えなかったんだろう。


「鶏を締められるようになると一人前なんです!」なんて自慢気に話された時には「自分は村娘じゃなくてよかった」くらいの感想しか抱かなかったけど……流石に可愛がってたうさぎは……いや、うさぎも美味しいけどさぁ……。


 なんだろう、なんかすごいモヤモヤする。私は何に引っかかってるんだろうか。


 うさぎは食肉になる。美味しい。私だって食べる。

 初めて食べた時は「これうさぎだったの!?」って感じで驚きはしたものの、むしろ当たり前に食卓に出て過ぎてて本当に初めて食べたのがいつかなんて覚えてすらいない。そのくらい一般的な食材である。正直やたら固いヤギ肉なんかよりよっぽど好きです。


 でもさ、私の中にある日本人としての常識が叫ぶんだ。「うさぎは可愛いペットだよ! それを食べちゃうなんて、日本中の小学生たちから『ひとでなし!!』って石を投げつけられても文句なんか言えないよ!?」って。


 うさぎは可愛い。だからペットにする。当然、食べることなんて考えもしない。


 でも牧場だって食肉用の家畜とか飼ってるよね。愛情込めて世話をして、我が子のように可愛がってるけど、その人たちだったお肉は食べるわけでしょ。美味ぇ美味ぇって、自分たちが手塩にかけて育てた子らと同じような食肉を、むっしゃむっしゃとかっ食らうわけだよね。そこに罪悪感なんてあるだろうか。私はきっと、ないと思うの。


 んで、ここで問題となるのが生産者としての感情ですよ。


 家畜とはいえ、生き物よ? 毎日お世話してたら情も移るよね。その愛は偽物なのか?

 彼らはいずれ食肉になるんだからと、お肉の品質管理のつもりで家畜の世話をしていた? ペットのように愛でることは一切なく? ……そんなことないよね。


 つまりは女の子と仲良くなった野うさぎを見て、愛玩用と決めつけた私が間違っていた可能性があるのだ。


 アンジェにとって、マンガの中の女の子にとって、森で出会った野うさぎは「お腹がすいてないから今捕らえて食べる気はない」というだけであって、初めからいつかは食べるつもりで接していた。餌付けしただけでほいほい寄ってきたから暇つぶしに遊んでいただけで、可愛がりながらも所詮は便利な非常食くらいの認識しか持っていなかった。それが事実なのだとしたら。


 それってなんか……、っ、なんかさあっ……!


 …………要は私が連れてきたフェルたちのことも、同じような目で見られてた可能性があるってことでしょお……?


 お嬢様、あの子たちいつ食べるのかな、とか。

 身体は小さいけど、柔らかくて美味しそうとか思って……、…………そういえば、フェルもエッテも、よくメイドたちからおやつ貰ってたけど、まさかそういう意図があって……?


 やばい、これ考えるのやめよう。人間不信になりそう。


 私は使用人たちを信じてる。

 我が家の使用人たちは、きっと純粋な気持ちでエッテたちに餌やりしてた! 食欲じゃない、純粋な愛情だけで!!


 フェルもエッテも、狙われてなんかいない。そんな事実は存在しないっ!!


 だからたとえアンジェのマンガを読ませたとしても、「やっと食べた!」とか、「いつ逃げられるかとヒヤヒヤしました。ちゃんと食べられてよかったですね」なんて感想は出てこないはず……いや、絶対言わない!! ……言わないよね!?


 それにみんなにも見せれば、私と同じように、アンジェはちょっとおかしいと思う人だって皆無ってことはないと思うんだよ!!!


 私はみんなを信じてる。

 長年同じ時を共有してきたみんなの事を――信じてるんだ。


 ――だから。


「リンゼちゃん。至急、使用人のみんなを集めて」


 私は証明しなくてはならない。


 決して私の感性がズレているのではなく、仲良しになった動物を食べちゃうアンジェの考え方のほうが一般的ではないのだと証明し、安心しなくてはならない!


「無理に決まってるでしょう。そういうのはせめて早朝、皆が仕事を始める前にしなさい」


 ……難儀な道を選んでいるという自覚はある。

 真実を知ることは、時に苦痛を伴うかもしれない。


 けれど私は、それでも、みんなの意見が知りたい。


 このマンガを使用人のみんなにも読んでもらって、そして――「ここでこの展開はないよね!!?」と感想を楽しくお話したいのだ!!



 ……目的さえ定まれば、あとは行動あるのみ。


 最初の標的は、アンジェと仲の良かった、あの二人からだ――。


うさぎはとても美味しい。

幼少期のソフィアは自分の食べてるものがうさぎだと知った時、それなりの衝撃を受けたものの、その直後に仔うさぎが大好物だと公言するようになりました。

仔うさぎ、とても美味しい。

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