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戦いの後には休息を


「本当に本当に、二人ともすごかった……!! あのね、ミュラーの流れるような剣技も素敵だったし、ソフィアも動きにちゃんとついていけててすごかった! 二人の動きが早すぎるから、私、目で追うので精いっぱいだったもん……!」


「そうよね。カレンも私とやるときはまともにやり合うのを避けるものね。これってやっぱり私の動きについてこれるソフィアがおかしいのよね? ねえ、ソフィアはどう思う?」


「異常な速度で動き続けるミュラーが一番おかしいと思う」


 肩までお湯に浸かりながら、脳みそを空っぽにして返事をする。


 ここはミュラーの家にある大浴場。


 試合後、精魂共に尽き果てた私たちは、お風呂で疲れを癒しながらのんびりとおしゃべりを堪能していた。


「その異常な速度にも難なく対処してたじゃないの。ちょっと自信無くすわよ? あんなに完璧に防がれたのなんて、お爺様以外では初めてなんだから」


「ね、やっぱりそうだよね!? ミュラーって相手の武器を攻撃するのが得意だけど、ソフィアとの戦いは何かが違うと思ってたの! やっぱりあれはソフィアが攻撃を防いでたんだ!? 本当にすごいっ!」


「カレン、落ち着いて。全然完璧なんかじゃなかったから。ミュラーが顔ばっかり狙うから、怖くなって縮こまってただけだよ」


 なおカレンちゃんは私が無理矢理引っ張ってきた。

 魔力が減ってるのに無理しまくったミュラーが動くのすらしんどそうだったので、運ぶのを手伝ってもらったついでとも言う。


「それでもすごいの! ……む〜、ソフィアはなんでそんなに『自分はすごくない』って言い張るの? ソフィアは本当にすごいのに……」


「ソフィアがすごくないのなら、ソフィアに負けた私は【剣姫】の二つ名を返上しなければならなくなるわね。ああ、もしかしてそれが目的なのかしら? 私が騎士団に入らないと決めたことで、ロランド様には御迷惑を掛けているようだし――」


「なにそれちょっとその話詳しく!!」


 お兄様に御迷惑だとぅ!? そんなのお兄様の愛妹たるこの私が許しませんよっ!!?


 寝耳に水なお兄様情報を聞いて思わずミュラーに詰め寄ると、驚きから回復したミュラーに「落ち着きなさいよ」と胸を押されて距離をとられた。


 分かったから。もう落ち着いたから。

 だからはよ。お兄様情報をはよう、プリーズ!


「……今、騎士団が優秀な人材を広く募っていることは知っているでしょう? だから、私が急遽ソフィアの作った神殿騎士団への所属を決めたことで、あれこれと文句を言ってくる人達もいるのよ。私という戦力を失った上に剣聖であるお爺様を繋ぎ止める縁も無くなるんだもの、(あせ)るのも当然よね」


 まあその代わりに、お爺様の在任期間を伸ばす約束が成されたのだけど、とミュラーは笑う。


 その顔に、後悔のような暗い色は見られない。

 ミュラー自身も納得した上で、近い将来、私達が大人になった後でも共にいられる道を選んでくれたのだと分かって嬉しくなった。


 でもそれはそれ。これはこれ。


 たとえ私やミュラーが原因だろうと、お兄様に迷惑を掛けていいなどという道理は無い。


「つまりミュラーが進路を変えた事に納得してない人達がお兄様に迷惑掛けてるってこと? その人たちの名前、分かる? いや別になにかしようってわけじゃないんだけどね?」


 なにかをするわけじゃないけど、その人たちはひょっとしたら今日、少しの間だけ意識が朦朧とするかもしれない。そしてその後、妙に聞き分けが良くなったり、突然意見を翻したりするかもしれない。


 世の中には不思議なことって案外ありふれてたりするからね。


 人形がある日突然人格を得て動き出す事に比べたら、人の性格がある日を境にちょっと変わってしまう事くらい、なんでもない事だと思うの。ありふれた出来事と言っても過言ではないね。


 ただそのありふれた出来事は、今回は起こることなく終わりそうだった。


「調べれば当然分かるけど、その必要は無いはずよ? ロランド様がきちんと丁寧に対応されたそうだし、お爺様だってそっちの話が落ち着いたからこそ今日の試合を許してくれたんだもの。……分かったなら少し落ち着きなさいな。貴女、戦いの最中よりも好戦的な顔してるわよ?」


「失礼な。そんな顔してないよ?」


 浮かしかけた腰を下ろし、さりげなくほっぺたを揉み揉みしてみた。


 うむ。今日もすべすべつるつるで、実に触り心地の良いほっぺたである。いつまででも触っていられちゃうね。


 それに好戦的だなんて、そんなそんな……。

 確かにお兄様を(わずら)わせる敵は排除しようとか考えてたけど、私は基本的に争い事とか苦手なんで。平和的な手段で解決しようと思ってただけだよ、ホントだよ?


「ソフィアって、本当にロランドさんのこと好きだよね……。いつもロランドさんの事になると、必死になって……」


 やっぱり平和が一番だよね、とミュラーに含みを持たせた視線を向けていると、いつもの調子に戻ったカレンちゃんが急に当たり前のことを言い出した。


 なんだい? 妹と兄が相思相愛なのは当然のことだよ? 改めて言われると照れちゃうけどね。


 何はともあれ、お兄様の問題が解決していたのなら良かった良かった。


 流石は私のお兄様だねっ!


ミュラーの何気ない一言のお陰で、どこぞの伯爵様は記憶をこちょこちょされずに済みましたとさ。

平和って尊い。

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