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あってよかった緊急避難所


 はあーーーーー疲れた! ホンットーーに疲れたぁ!!


 バカなの? ねえ、バカなんでしょ?

 これは模擬戦だって、単なる手合わせなんだって、私何度も、何度も何度も何度もしつっこく何度も言ったよねえ!? ミュラーには耳ついてないの!? それとも理解する頭がないのかな!? 顔ばっか狙うんじゃないよホントにもーー!!!


「ぜはあっ、はあっ、ふはぁ……。…………あー、しんどい。もう本っ当にしんどい。やってらんない……」


 時止め魔法発動の瞬間にさえ執拗に眼球を狙って来てたミュラーさんは実は暗殺剣の使い手なのではないだろうか。友達相手に普通こんなことする? 私の中で善人の定義が崩れそうだよ。


 魔法使う隙が全然なくて、やっと時間止められたーと思ったら眼前十数センチの距離に剣先があるとか、私の心臓まで止まってしまうわ。少なくとも呼吸は止まったけどね、ほんの数秒間だけだけどさ。


 一瞬たりとも気の抜けない緊張感から解放されて、私は床に大の字になって倒れ込んだ。


 あー……疲れた。むしろ疲れたの久々すぎて疲れた。


 身体強化の魔法には当然、体力を底上げする効果だってある。

 恐怖を軽減し判断能力を向上させて、あらゆる行動の高速化とそれに伴う身体の負荷を減らす効果だってある。なのに疲れた。肉体的にも精神的にもボロボロだ。


 ミュラーの魔法ってどうなってんの? 強化の幅が私のそれを上回ってるとしか思えないんだけど。


 魔法分野でトップに君臨する【賢者】の魔法が私程度でも真似できる範囲だから、筋肉部門のなんちゃって身体強化なんて大した事ないでしょと思ったら大した事あったわ。ありすぎたわ。


 剣士の《加護(身体強化魔法)》。完成度高いね。


「はー、おっかないわー。堪んないわー。今までのミュラーってだいぶ手加減してくれてたんだなぁ……。…………ずっと手加減してくれてればいーのに」


 思わず愚痴が零れてしまった。


 呼吸はようやく落ち着いてきたけど、心臓はまだバクバクいってる。


 ミュラーはすぐそこで固まってるってのに、目を閉じれば(まぶた)の裏には縦横無尽に迫る剣線が。四方八方から風を切る音や踏み込む足音の幻聴まで聞こえてくる始末。


 これ夜寝る時までに治んないんじゃないかな。寝るのにめっちゃ苦労しそう。


 でも、今は――


「はーあぁぁ……」


 ――ただ、心からの休息を取ろう。


 こうしてゆっくりと考える時間さえあれば、あの恐怖心しか与えてこないミュラーの攻撃であっても対処はできる。


 私は剣士じゃなくて頭脳派なので、戦う前には心の準備が必要なのだ。


 だからね、あの速度は反則だって!

 なんだあの攻撃! なんでずっと視界に入れてる武器が視界の外から襲ってくるの! 意味わかんない!!


 攻撃受け止めるために一瞬意識そらしただけでミュラー本人もすぐ瞬間移動するし。移動したのに気付いた時には回避動作に移らないと間に合わないし。あんなの慌てるなって方が無理な話よ。


 けれど、それらも全て過去の出来事。


 ゆっくりとした休息を得て、頭の回転が戻ってきた私には、もうミュラーの攻略法なんて見えているのだー! よっこいしょっと。


 うーん! と身体を伸ばし、改めて固まっているミュラーを観察する。


 じっくり見る。横からも見る。

 後ろからも下からも見る。びっくりするほど無駄な動きがないね。当たり前か。


 剣を突き出した状態で縫い止められた姿は、こうして傍から見れば彫刻のように綺麗なのに、何故正面から見ると美を感じる余裕が無くなるんだろうね。やっぱり正確に目の位置を狙ってた木剣が気になるのかな? 正面に立つとゾワゾワするんだ。


 今は動けない状態だと分かっているのにどーしても危機感が刺激されてしまう。もしミュラーが急に動き出したら、ってありえない想像が拭いきれない。これはもう完全に恐怖心植え付けられてますよ、どーしましょうね。


 ……なんて、ね。


 こんな負け犬コース一直線の私でも、簡単にミュラーに勝てちゃう裏技があるんだよなぁ……ふっふーん。


 それも時止め中に攻撃しまくるとかじゃない。

 ミュラーに「こんな勝負無効よ!」と言わせない、順当にして真っ当で、それでいて実に私らしい勝ち筋があるんですよねぇ〜、ふっふふふーん。


 ……まあその下拵(したごしら)えは時間止めたままやるんだけどね。


 動かしてからでも出来なくはないけど、ほら。万一があると危ないからね!



 ――というわけで、時間停止中にやることは終了。


 少し時間は掛かったけど、お陰でミュラーの魔力はばっちり把握することが出来た。


 あとはこのミュラーの魔力をー、すこーしだけ拡散させておいてー。うりゃうりゃ。


 よし、これであのバカみたいなスピードは抑えられてるはず。

《加護》という名の肉体強化もレベルが下がって、私でも無理なく対応できるようになってるはずだ。


 それじゃ、少しのあいだ運動して、動悸を早くしておいてー。


 元の体勢に戻って……時間を動かしますかね。


 木剣の剣先から少しズレた位置に立ち、最後の深呼吸。……ふぅー、……よし。


 それじゃ、仕切り直しの第二戦。


 いざ尋常に、勝負だよっ!


尋常とは。

1.特に異常もなく、普通なこと。

2.すなおなこと。おとなしく。殊勝。悪びれず、取り乱さないさま。


悪びれないソフィアにぴったりの言葉ですね。

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