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いざ決戦の場へ


 ――ソフィア・メルクリスは生き延びたい。


 そんな表題(タイトル)がふと脳裏に浮かんだ。


 生き延びたい。

 つまり、死の危険があるということ。


 今日はミュラーと「本気で模擬戦をする」と約束した日。


 ミュラー的にはどー考えても「本気で」の部分に意識の全てがいっているようにしか見えないが、私としては是非ともこれが「模擬戦」であることを今一度思い出して欲しいと願う。


 いいかい、あのね?

 本気で模擬戦というのは、本気を出していいということじゃないんだよ。


 本気で、真面目に、模擬戦をしましょうということであってね、模擬戦の枠をはみ出した行為を推奨している訳ではないんだよ。そこのところをどうか深く頭に刻み込んで欲しい。


 何度も念を押す私に、ミュラーは「分かってるわよ」と頷いて。


「もちろん、初めからそのつもりよ。良い模擬戦にしましょうね」


 模擬戦で使う木剣の握りを確かめ、私との間合いを確かめながら、実に良い笑顔で微笑んだ。


 これ絶対分かってないでしょー……。


「ふ、二人とも、がんばってね!」


「ソフィア……。ロランドさんに言い残すことがあったら、俺が伝えておいてやるぞ?」


「遺言になること前提で話すのやめてくれる?」


 そして当然の如く観客がいるし。


 実際に戦う私たちよりも緊張しているカレンちゃんに、ひたすら今日を私の命日にしたがるカイル。それとミュラーの祖父にして審判役の剣聖、バルスミラスィルお爺ちゃんに、あとは――


「【剣聖】が自らの手で鍛え上げた【剣姫】の本気とこれからやり合うってのに、あまり緊張してないな。学院で戦って慣れてたりするのか?」


 ミュラーの父であるヒューイさん。観客はこの四人だけだ。


「いえ、半ば諦めてるだけです」


 慣れたくないし、緊張したって無駄だから緊張してないだけなんだけどな。


 ミュラーは私が緊張して固まってたとしても容赦なく顔面に木剣突っ込んで来ると思う。むしろ気付けとか言って、まともに動けるようになるまで(いにしえ)のテレビ療法並にガンガン叩きまくってきそうじゃん。なら初めから普通に相手した方がなんぼかマシってもんよね。


 本当は剣聖道場の門下生にも見学させたかったそうなのだが、それは得意の口八丁で丸め込んだ。一度交わした約束を反故にすることはできなくとも、脳筋親子を言いくるめるくらいはお手の物である。


「諦めてるにしたって、普通は何らかの感情が表に出るもんなんだがなぁ。やっぱ大物だよ、オマエ。よかったらミュラーとやった後、俺とも手合わせしない?」


「謹んでお断りします」


 冗談じゃない。

 いくら上位貴族の頼みだろうと、冗談じゃない。


 絶対にやりたくないと強い意志を込めた瞳で微笑み返せば、ヒューイさんは「ぶはっ」と吹き出して笑っていた。やっぱり冗談だったらしい。


「ははっ、はっははは! そんなに嫌かよ! まあ俺だってな、こーんなちっちゃい相手慣れてねーし、ソフィアの相手なんかしたかねーよ。勝ったらミュラーの友達に嫌われて、負けたら『子供に負けたー』ってんで赤っ恥だぜ? 誰がそんな損しかない戦いしたがるかっての」


 だよね、ヒューイさんはちゃんと損得勘定のできる人で良かった。


 で、本当に損得勘定ができるのならね、他人()の頭を押し潰して「こーんなちっちぇーのになー。強さってのは不思議なもんだよなあ」とぐりぐりちょっかい掛けてくるのを今すぐにやめろ。女の髪に気安く触れるな。友達の父親だからっていつまでも我慢してると思うなよ!?


 お前の損害を最大化してやろうか、と怒りを蓄積していると、横からカイルが割り込んできて「すいません、こいつちっちゃいの気にしてるんで」とヒューイさんの手を押し止めてくれた。まるでお兄様を見習ったかのようなスマートな対応だった。


 ただね、行為はありがたいんだけど怒ってる理由が分かってるなら言葉を濁せ。ちっちゃい言うな。


 ジト目でカイルに抗議すると、何故か可哀想なものを見るような目で見られた。


 その視線が私の足元へと向かい、ぐーっと上がって頭頂で止まる。そして真正面から見つめ合う形に。

 その状態が数秒間続いた後、ふ、と一つ息を吐いて顔を逸らされた。その様子を見たヒューイさんがまたぶわははと大爆笑。失礼すぎるだろこの人。


 てゆーか、カイルぅ? なんでわざわざ私の身長を確認したのかなぁ? 私を馬鹿にする為以外の理由があったら教えて欲しいんだけどなぁ?


 ヒューイさん相手はゴメンだけど、カイルの相手だったら私、喜んでしてあげるよ? ミュラーと私のウォーミングアップの相手にでもなるかい? おお?


「ねぇ、カイル――」


 ボコしてやるからそこに直れ、と一歩を踏み出す直前。


「いつまでも俺たちがいたら邪魔だよな! じゃっ、頑張れよソフィア! ミュラーもやりすぎんなよ!」


「えっ、あっ!? あのっ、ふ、二人とも、頑張ってね!」


 小動物並のすばしっこさで逃げていった。さりげなくカレンちゃんと手を繋ぎながら。


 …………やっぱりあれ、叩き潰しておいた方がいいんじゃないか?


 図らずも、私の闘志に火がついた。


 このやる気はミュラーに受け止めてもらうことにしよう。


「ついにソフィアと……!」

「あの時の妙技、今日こそ解き明かさせてもらうぞ……!」

「どーなるのかねぇ……」


自称一般人のソフィア、セリティス家の面々に大人気だった。

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