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かわいいお母様はかわいい物がお好き


 今日のお母様は怖くない。


 ゆるゆるというか、あまあまというか。


 いつものお母様が冷凍庫でキンキンに冷やした鉄板だとしたら、今日のお母様はクッキーで作ったお盆くらい違う。


 一見するとそれなりの強度はありそうなのに、見てるだけでボロボロと甘さを露呈するその姿は、その気になれば簡単に壊せちゃうんじゃないかという幻想をすら抱かせる。


 ……お母様がそこまで弱体化しきった今だからこそ!


 普段会う度に怖い思いをさせられている私としては、絶好の仕返しチャンスだと思ったのだけど……。


「ソフィアはあまり身長が変わらないから、どうにも子供扱いが抜けないのよね……」


「私ももう少し大人らしくなりたいと思ってはいるんですが、こればっかりはどうにもならず……。……ちなみにお母様が学院生の頃はどうだったんですか?」


「私は早熟でしたね。アリシアも学院に通い出す前から成長期に入っていましたから、あまりソフィアの参考にはならないでしょうし……」


「そうですか……」


 おかしい。


 機を見るために話題を振った私の方が逆に弱体化させられてしまった。やる気をスポーンと何処かに落としたみたいだ。


 あわよくばメルクリス家の女性たちが誇る美麗スタイルへの成長の秘訣でも聞こうと思ったのだけど、お母様やお姉様は完全なる天然物らしい。お母様に至っては豊胸の為の運動すらしていないのだとか。羨ましすぎて血の涙でそう。


「何故私は成長しないんでしょうか……」


 思いのほか暗い声が出た。


 つい本気の弱音が零れてしまったが、一度出した言葉は引っ込められない。


 ……まあ、お母様がこの問題の解決策を知っている可能性もゼロではないし……と淡い期待に満ちた視線を向けると。


「……………………落ち着きがないから、とか……?」


 本気か冗談か分からない顔で、そんなことを呟かれた。


 結構グサッときた。


「そーですねー。私は落ち着きのない子供ですから、どーせ子供体型がお似合いですよねー」


「そういうところですよ」


 投げやりな言葉を垂れ流しながら椅子の背もたれに体重を預けると、お母様が呆れた溜め息を吐きながらティーカップを手に取った。


「冗談はともかく。私は身体の大きさはそれほど気にする事ではないと思っています。確かにソフィアは他所の子と比べると成長は遅れていますが、その分素晴らしい魔法の才能があるではないですか。体格など、放っておいても時期が来れば勝手に大きくなるものですよ」


「だといいんですけど」


 お母様の冗談って分かりにくすぎると思う。

 冗談は冗談と分かるから許されるんだよ?


 優雅に紅茶を飲むお母様をぼんやりと眺めながら、私はお母様の言葉を噛み締める。


 魔法の才能ねぇ……。

 確かに、隣の芝生は青いって言葉はあるけど、これはそれとは違うんじゃないかと思うんだよねぇ。身長関連って医学の分野じゃないか? 


 私はお母様の言う「成長する時期」が既に来ているはずの年齢なのに身体に何も変化が訪れていないことを心配しているのであって、成長期にありがちな「あっちの子の方がスタイルいいー」とか「体重だけ増えたー! 胸のサイズ変わってないのに!」なんて不満をもっている訳では無い。


 私は、本当に、全然体型が変わらないのだ。

 成長期の訪れが何らかの要因で阻害されているのではないかと疑うほど、身体に成長の兆しが見られないのだ。


 ……でも、食べすぎると、多分太る。


 こないだの旅行とかで運動サボったりしたせいか、お腹のお肉の感触が、最近ちょっと……。


 や、なんでもないです。

 今日も食べ過ぎちゃったからちょっと心配とか思ってないです。


 健康的なソフィアちゃんは肥満とは永遠に無縁なので!


 お母様の理想的なスタイルからそっと目を逸らしながら、私はカップに手を伸ばし、妙に落ち着かない口をそっと紅茶で湿らせた。


 スコーンは……今はいいや。


「小さいのも良いではないですか。ソフィアは成長しても美しくなると確信はしていますが、今のお人形さんのような愛らしさは今だけしか望めないものですよ? 背が伸びると似合う服も変わって、可愛らしい服が着れなくなったりもしますし……」


 しょぼくれた私をフォローするようにお母様が饒舌になった。


 言っている事はもっともだと思うのに、何故だろう。お母様が小さい私が好みだと言っているようにしか聞こえないのは。


 そういえば以前、メリーがお母様に服の好みを聞かれたとか言ってたっけ。


 お母様はもっとオープンに自分の趣味を晒してもいいと思うんだけどな。


「お母様は、私に可愛い服を着せたいんですか?」


 半ば反応を予想して問えば、お母様は僅かに一瞬、瞳を見開いて驚きを顕にした。


「……ソフィアには、可愛い服が似合うと思っているのは事実です」


 素直に認めないところがなんともかわいい。


 お母様って可愛らしい物が好きなのは恥ずかしいことって思ってる節があるよね。その思考が既に可愛いことにも気付いてなさそう。


「お母様は可愛らしい服を着た私が好きですもんね」


「…………」


 無言で睨みつけられた。


 でも怖くもなんともなかったので、私は余裕ある微笑みを返しておいた。


 ああ、お母様がいつもこれくらい可愛ければいいのに!!


アイリスは、ソフィアやそのぬいぐるみたちに似合いそうな服のデザインを執務室の机に隠しているらしい。

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