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今日のお母様は防御力低そう


 ――何故こんな状況になっているのだろうか。


 私が考えていたのは、大体そんなところだったと思う。


 珍しくも学院から戻る私を待ち受けていたお母様。

 部屋に戻る間もなくお茶に誘われ、私は状況も分からぬままに、お母様と向かい合って座っていた。


「学院はどうですか? しっかりと勉学に励んでいますか?」


「はい、滞りなく。友人にも恵まれ、毎日楽しく過ごさせてもらっています」


「それはなにより」


 優雅にお茶を嗜むお母様に、ニコリと差し障りのない笑顔を返す。


 お茶請けに出されたスコーンの甘い香りが、何故か食虫植物を思い起こさせるのを必死に振り払いながら、私はお母様の意図を読もうと笑顔のままに思考を続ける。


「学院での友人はその後の人生においても長く時を共にすることが多いですからね。その縁を大事になさい」


「はい」


 お母様が普通の親っぽいこと言ってる。


 本当にそれだけの用事?

 久しぶりに親っぽいことがしたくなっただけ?


 油断はできないけれど、今すぐに豹変して鬼お母様が降臨する様子は見られない。叱るのが目的ではない……ように思う。


 もしかして、今朝の件かな。私が寝言で「お母さん……」って呟いたって話を聞いて母性でも目覚めたのかな。だとしたら甘えるのが正解なのかな。


 どうするのがこの場における正解なのかを悩みながら、いつもの三割増で淑やかに紅茶を飲む私に、お母様が怪訝そうに眉をひそめた。


「……ソフィア? 今日はあまり食欲がないのですか?」


 ピクリと。一瞬動きが止まった。


 (いぶか)るお母様の視線の先には、数がひとつも減っていないスコーンがある。


 目の前にお茶とお菓子が並んだらとりあえず一通りは味見する私にしては、確かに珍しい光景ではあっただろう。


「いえ、そんなことは。では遠慮なく頂きますね」


 綺麗な焼き色のスコーンをひとつ選び、一口大にして口の中へ。もぐもぐごっくん。


 うん、今日のもおいしくできてるね。


 私があれこれ仕込んだ料理人によるお菓子は私にも充分満足のいく味に仕上がっている。


 ただ、ヘレナさんのところでタルトを三個半程食べてきた今の私にとって、このスコーンのしっとり感は胃袋に重石を敷き詰めるのに等しい圧迫感がある。美味しいのは間違いないのに二口目に躊躇してしまう。せめてフルーツの酸味でもあれば……。


 このペースで食べ続けると、間違いなく夕食が入らなくなる。


 そうと分かってはいても、私にはお母様の勧めを断ることなどできなかった。


「とても美味しいです」


「そう、良かったわ。私もこれが気に入っているのよ」


 私と同じようにスコーンを一口大に割り、口へと運ぶお母様の所作は、楚々としていて上品で、見蕩れるような美しさがある。


 普段私の食事する姿を見て口(うるさ)くしているのも、私がこんな風に綺麗な食べ方を出来るようにしようとしているのかと思えば、今までの不満も消えていくような気がした。


 ……まあそれはそれとして、食事くらい気を遣わずに食べさせて欲しいという気持ちも多分にあるけど。

 私だって貴族令嬢として標準以上の清楚さは身につけているはずなんですけど。


 それでもお母様と比べれば劣っているのも事実なんだけど、お母様はなんかほら、あれじゃん。見た目補正っていうか、外見がもうお淑やかな感じじゃん。黙っていれば。


 それに対して私の見た目は未だ一桁年齢に見間違えられることも少なくない幼さ。


 そんな子供がお母様並の完璧な食事マナーなんて見せつけたらあらゆる場面で浮いちゃうと思うんだよね。


 子供に求められているのは、完璧な貴族としての振る舞いなんかではなく、大人の言葉を素直に聞く従順さと、真面目さや丁寧さ。


 到らないながらもひたむきに一所懸命に努力をする可愛らしい姿こそが、大人たちの求める理想の子供としての姿なんだと思うんだよね。そこに愛想でも加わればなおいいんじゃないかな。


 人は自分と同じ失敗をする者に共感を覚えるという。


 ならばこそ、子供はその未熟さをこそ武器にして戦うべきだと思うのだ。


「私もこのお菓子、大好きです。甘いものを食べると幸せな気持ちになりますよね」


 にへらと気の抜けた笑い方をすると、お母様も僅かに表情をやわらげ、力の抜けたような笑みを浮かべた。予想以上の好感触。


 ――故に私は、子供ではありえない程の優秀さでありながらも、ちょっぴり我が侭で美味しいお菓子には目がないという欠点を有することで、生まれ持った能力を活かしつつも親近感溢れるキャラとしての地位を確立しているのだ。


 この成長速度が明らかにおかしい身体も、圧倒的な才能による威圧感を感じさせない役割に大きく貢献していると言えるだろう。


 愛されキャラは小さくて可愛いのが鉄板。

 身長が伸びる前に、できる限りの媚びを売っておかなくては。


「お母様とこうしてお茶をするのも久しぶりな感じがしますね」


「ええ、そうね……。ソフィアとはもっとこうして落ち着いた時間を取るべきだったと、今は反省しているわ」


 今日のお母様は明らかにガードが緩い。


 お母様の目的は定かではないけど、チャンスをみすみす逃すようなソフィアちゃんではないんだよ!


 今日は私、がんばっちゃうぞう!


なんでこの子は母親をすぐ倒そうとするんですかね。

返り討ちにあうのが趣味なのかな??

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