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不覚


 私は魔法が使える。


 それが私の、他人に胸を張って誇れるアイデンティティである。


 魔法が使えなかったとしたら、私なんかただ頭が良くて異世界の知識があるだけの愛くるしい美少女に過ぎない。


 美少女であることは本来とてつもないアドバンテージになるはずなんだけど、幸か不幸か、この学院には私レベルの美少女・美青年なんていくらでもいるから、もしも私に魔法という才能が無かったのなら私の個性が「小さい」に集約されてしまっていた可能性が否定できない。今年十二歳になったばかりの新入生たちの中にすら私より背の低い人がいなかったのはさすがに堪えた……。


 あのね。これだけは強調しておきたいんだけど。

 私はチビなんじゃなくて、ちょっと成長期が遅れてるだけなの。きっともうすぐ、びっくりするくらいの急成長を遂げるはずなの。そのはずなの。きっと……いや、絶対……ッ!!


 ……って違った。私の身長の話がしたかったわけじゃなくて。


 つまりね、私から「魔法すげー!」って特長とったら大したもの残らないよねって話さ。


 私は魔法が凄いから、我がままでいられる。自由にできてる。


 魔法という後ろ盾を失ったら、私には自信となるものが何も無い。


 だから魔法だけはと、誰にも負けないように頑張ってきたつもりだったんだけど――。



 ――私は今日、本当に久しぶりに、魔力が減りすぎて気分が悪くなるという症状に襲われていた。


 原因はもちろん魔法陣への過剰な魔力供給。


 調子にのって「大丈夫ですよ〜」とか言ってたくせに、実際は全然大丈夫じゃなかったというお間抜けな醜態を晒してしまったのだった。


 ソフィアちゃん一生の不覚である。


「――大切なお子様をお預かりしているのですから、ちゃんと気をつけてあげるのは大人として当然の責務でしょう? それを無理に働かせて、こんなに小さい子が倒れるほど――」


 そして私が自己管理を怠ったせいでヘレナさんがシャルマさんにめっちゃ叱られてた。申し訳なさがすんごい。


 確かに押しは強かったけど、ヘレナさんに無理やり魔力を供給させられてたわけじゃないし、私としてはヘレナさんが叱られるのは筋違いのように思うのだけど……。


 実際に子供の私がこうして気分悪くなって倒れてる現状、責任者の立場にある大人が叱られるのは、まあ仕方ないかなって気もする。ヘレナさんが自分でも出来ないことを頼まなければ私が倒れなかったのも事実ではあるし。


 ……ただ、その…………ね?


 叱られてるヘレナさんには、ひっじょーに申し訳ないんだけど。


 …………私が気分悪いのって、一割くらいは食べ過ぎが原因かもしれないというか……そんな可能性も、なくはないかなーって。気がするよーな、しないよーな……?


 いや一割ってことはないか?

 実際にはもう少し……いやでも、流石に三割まではいかないと思うし、二割……でもまだちょっと多いような……?


 ――とにかく。


 まあ、そんなわけで。

 原因には多少議論の余地はあるものの、魔力の供給途中に気分の悪化を訴えソファに横になることを許された私は、お菓子を食べて気分を紛らわせるということも出来ず、シャルマさんに叱られるヘレナさん申し訳ない気持ちで見ていることしか出来なかった。


 だってほら、もし食べ過ぎが原因かもなんて申告したら、次から私へのお菓子が減っちゃうかもしれないでしょ?


 最近量も種類も増えてきて内心ニヤニヤが止まらない状態だったっていうのに、もしも自分が原因の一端かもしれないって知ったシャルマさんが「前から食べ過ぎじゃないかと思っていました。これを機におやつの量を減らしましょう」とか言い出したら、私は今日の失敗を悔やんでも悔やみきれない。


 美味しいお菓子に罪はない。


 悪いのは自己管理のできていなかった私と、私のご機嫌を取るためにお菓子(エサ)を積み上げまくったヘレナさんだけなのだから。


「ソフィア様、お加減はどうですか? やはり学院のお医者様をお呼びした方が……」


「いえ、横になったらだいぶ楽になりました。このまま少し休んでいれば問題ないと思います」


 ヘレナさんを叱る合間にシャルマさんが何度か容態を確認してきてるけど、その度に体調は回復していってるのが分かる。

 この速度で回復するって事は、やっぱり食べ過ぎが原因な訳ではないみたいだね。


 魔力の増やし過ぎ……というよりも、局所的に魔力の負荷をかけすぎた感じかな。


 魔法陣に流すためとはいえ、腕を流れる途中で増やした魔力をそのまま手の先から垂れ流しにするのはかなりの負担があったみたいだ。考えてみれば当然のことではあると言える。


 普段は必要な分だけ体外で増やしてそのまま消費してるから気づかなかったけど、いくら身体を魔法で強化してるとはいえ、過度な魔力を一箇所に集めるとやはり不具合が出るものらしい。


 これからは手間を惜しまず、ちゃんと身体の外で増やさなきゃダメだね。反省、反省。


「……無理は、してないのですよね?」


「はい。大丈夫ですよ」


 なによりシャルマさんを悲しませちゃったのが一番の反省点だよね。


 今日はもう、ヘレナさんのお手伝いはできそうにないね〜。


魔法関連で頼られて、期待に応えきれなかったのが何気に人生初のソフィアちゃん。

実際のところ、ソフィアの異常性をすんなりと受け入れて己の研究に有効活用しちゃう人の方が特殊なんですけどね。

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