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はーい、魔力でーす


 ヨルのこと。ネムちゃんのこと。ミュラーのこと。


 考えることは色々あって。


 気ままに生きたい私としては、ここ最近の問題の重なり具合には頭が痛くなる思いでいっぱいだ。


 もうね、全部投げ出したい。


「知ったこっちゃねー!!」って叫んで、お兄様の胸の中にダイブしたい。


 でもさー。ヨルのことはともかく、ネムちゃんの件は放っておくとネムちゃんの周囲で魔物が発生する事件とかに発展しそうだし、ミュラーの方は……戦うまで付き纏われそうだから、やっぱり諦めて早いうちに済ませとくのが得策なんだと思う。


 つまり、必要な苦労だということだ。


 ああ、私ってばなんて不幸なんだろ……と嘆いていても事態は何も変わらないので、大人しく色々と頑張る覚悟を決めました。


 はい、そーです。主にミュラーが逃がしてくれなさそうなのが原因でーす。


 下手すると一回で済まないなんて可能性には気付きたくなかった。カイルは本当に余計なことを教えてくれたよね。


 でもその可能性に思い至らないまま戦ってたら、「こんな勝負は認められない! もう一回やるわよ!!」とか言われそうな戦術をとる可能性は高かったようにも思うので、本来なら感謝するべきなのかもしれないけど……。


 どうせなら解決策も一緒に教えて欲しかったかなあ。これじゃあ私の憂いが増えただけだよ……。はあ。


 憂いているだけで解決してくれたらすごく助かるのだけど、世の中はそんなに甘くないのであった。



◇◇◇◇◇



 なんにせよ、考え事だ。頭を使って考えるのだ。


 その為には糖分が必須。


 というわけで放課後。

 本日もやって来ました、ヘレナさんの研究室。


 今日のおやつはなにかな〜♪ と胸躍らせる私の前に現れたのは、焼き色が美しいタルトやパイの数々。


 部屋の中は既に芳しい甘い匂いで満たされていた。


「待っていたわよソフィアちゃん!!」


 ああ、あの編み編みのは間違いなく美味しいやつ……。あっ!? そっちの奥にあるヤツ、新作じゃないか!?


 小さめとはいえ、五個もホールで食べるのはちょっと……いや頑張れば入らないこともないけど……いやあ困っちゃうなあ……。


 私の好みを知り尽くしたシャルマさんによる豪華パイ祭りの開催に、思わず頬を弛めていると。


「ほら、お菓子は後でちゃんと食べさせてあげるから! こっち来て!」


 視界から消失していたヘレナさんに、部屋の中央へと連行された。


 ああっ、私のお菓子が〜。


 未練がましく手を伸ばすと、シャルマさんが我が意を得たりと動き出す。

 空のお皿を用意すると、私が目を付けていた新作を切り分ける準備を始めてくれた。シャルマさんマジ天使。


「もうっ、昨日も待ってたのになんで来なかったの?」


 一方のヘレナさんは相変わらずの研究好き……と思っていたのに、唐突に予想外の言葉で責められ、脳内では混乱の嵐が吹き荒れた。


 え、昨日……?

 昨日は確かにリンゼちゃんの件でバタバタしてたけど、あれ、昨日って、あれぇ……?


「え、ごめんなさい……。……あのぅ、昨日って約束してましたっけ……?」


 記憶違いで約束を破ったのだとしたら申し訳ないことをしてしまった。


 そう思い、謝罪をしたのだが。


「約束はしてなかったけど、ソフィアちゃんなら間違いなく来ると思ってたのよ!! この魔法陣に私の魔法! 興味津々だったでしょう!?」


 なんだ、ヘレナさんの思い込みか。反省して損した。


 確かに何も用事が無かったら寄っていたかもしれないけど、私にだって自分の用事というものがある。約束してない事でまで責められる謂れはない。


 ……まあ、シャルマさんに「美味しいお菓子を用意してお待ちしていたんですが……」とか言われたら全力で謝罪させてもらうけども。ヘレナさんのは我欲だしね。


「昨日は色々とあったんですよ」


 こちらはこちらで大変だったのだから仕方ない。


 私だってシャルマさんのお菓子は毎日だって、毎朝毎昼毎夜だって食べたい。食べ尽くしたい。


 丸一日の食事を全てシャルマさんの用意したお菓子のみで過ごしてみたいし、なんならシャルマさんと一緒に楽しいお菓子作りとかもやってみたい。


 けれど、割と真面目に世界の危機とかあるかもしれないので、あまり気を抜いてはいられないのだ。残念無念である。


「それで、今日は――」


「今日も魔力供給お願いね! お菓子は好きなだけ食べてていいから!」


 言うが早いか、私を座椅子のように低い椅子に座らせるヘレナさん。


 それと同時に、切り分けられた新作タルトとお気に入りの紅茶がテーブルの上にそっと差し出された。完璧な連携に惚れ惚れしちゃうね。


「はい、手はここね。ソフィアちゃんもなにか気付いた事があったらなんでも言ってね」


「はーい」


 前回は最終的に絨毯に座りながら食べる派目になったけど、これなら座りながら魔法陣に手が届く。


 二回目にして、早くも魔力タンクとしての役割に慣れ始めている私がいた。


「さてと! じゃあ、今日の検証はまず――」


 生き生きとメモ書きをめくるヘレナさんを見ながら。


 私は今日も、美味しいお菓子に舌鼓を打つのだった。


今年度からヘレナの活動予算に「ソフィアちゃん接待費」という項目が追加されたらしい。

材料を色々と使えるようになって、メイドさんも喜んでいるようです。

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