アン視点:白い獣
なんかめっちゃ暗い話になった。なぜだ。
おなかがへった。
はやくご飯がおなかいっぱい食べられるようになればいいのに。
「おなかへった」
妹のメイが言うと、おかあさんが悲しそうな顔をする。
だから、わたしは言わない。
わたしだっておなかがへってるけど、わたしたちがおなかがへったって言うと、おとうさんとおかあさんが自分の分をくれちゃうから。
だから、言えない。
みんなご飯がへったのに、おとうさんとおかあさんが食べてないのに、わたしと妹だけ食べれるのはうれしくない。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
「ごめんね、お父さんが戻ってきたら何か作るから」
おかあさんも、ずっと元気がない。
村のみんなも、ごはんが少なくなってから、元気がない。
なんでごはんが少ないのか聞いたら、せつやく、っていうのをしてるんだっておしえてくれた。
今は村にごはんがないから、街からごはんが届くまでせつやくするんだって。
でもいつも街からお芋とかを運んでくれてたオリバーさんは村にこなくなった。
森でお肉をとってきて村のみんなに分けてくれるカールおじさんは森にいかなくなった。
おとうさんみたいな大人の男の人は毎日村長さんの家にあつまってごはんを増やすためにがんばってるっておかあさんは言うけど、ごはんの量はだんだんへってる。
村にご飯がないなら森に行けばいいのに。
カールおじさんが前におしえてくれたみたいにうさぎを捕まえれば、お肉が食べられるのに。
子供だけで森に入るのはダメって言われてるけど、待っててもごはん、ふえないし。
なによりメイやおとうさんおかあさんにも、おいしいお肉を食べて元気になってほしい。
決めた。森にいこう。
「おかあさん、メイとお散歩してくるね」
「ごめんね……」
おかあさん、いつもやさしく笑ってくれたのに、今はぜんぜん笑ってくれない。
おかあさんのためにも、はやくうさぎを捕まえないと。
二人だけで森にきたのははじめてで、わくわくする。
「おねえちゃん、うさぎどこにいるの?」
「えっと、たしか地面に穴があいてて、その中にいるんだよ。だから穴をさがしてね」
前にカールおじさんからおそわったことを思い出す。
うさぎならアンにもとれるかもって言ってた。
だから穴がみつかれば捕まえられる、と思う。
メイは探しものが得意だし、手伝ってもらえばすぐにみつかるはず。
穴がみつからない。
はやく帰らないとおかあさんが心配するのに。
「おねえちゃん、つかれた」
「ごめんね、もう少しだけ」
地面にくっついて探してるのに、みつからない。はやく、はやくみつけないといけないのに。
「おねえちゃん」
「メイ、ちょっと……え?」
メイに腕を引っ張られて、その黒いのに気づいた。
黒いかたまり。ちいさな赤い光。風がすごく冷たい。
魔物だ!
ゆっくりだけど、近づいてくる!
「メイ、走って!」
わたしは走った。メイの手をにぎって、魔物からはなれるために。
「な、なんで……」
魔物は危ないけど、珍しいから会うことはないって、言ってたのに!
目の前にもうひとつ黒いのが出てきてわたしたちは前にも後ろにもいけなくなった。
さむい。
体がとても冷たい。メイと手を繋いでなかったら動けなくなってたと思う。
この魔物はわたしたちをどうするんだろう。
こわい。
にげたい。
メイを連れてくるんじゃなかった。
ダメって言われてたのに、わるいのはわたしなのに、メイまでなんて、ぜったいダメ!
「メイは、メイはわたしが守るから!」
近づいてくる黒いのに震えるしかできない。
おかあさん、ごめんなさい。森に勝手に入って、ごめんなさい!
心の中であやまってたら、暖かい風が吹いた気がした。
そうしたら、空から白い壁が降ってきて、魔物を押しつぶしちゃった。
(もう大丈夫)
と思ったら、頭の中で優しい男の人の声がして、降ってきた白い壁が迫ってきた!
「次から次になんなの!?」
なにが起きてるのかぜんぜんわかんない!
メイを抱きかかえて小さくなってたら、大きな瞳と目が合った。
白い壁と思ってたのは、おおきな生き物だったみたい。
(もう大丈夫)
また聞こえた。
大きな瞳がわたしたちをじっとみてる。もしかして?
「あなたが話しかけているの?」
(そうだよ)
すごい。話せる獣なんて聞いたことない。
もしかして神様?
(疲れてるみたいだ。今は休んで)
声にそう言われたら、急にねむたくなってきた。
そういえばいつの間にか暖かくなってる。神様の毛? すごく安心する。
(もう大丈夫だから。安心して休んで)
ふしぎ。声が聞くだけでねちゃいそうになる。
でもその前にひとつだけ。
助けてくれてありがとう、神様。
その日、森の中で出会った神様は白い獣の姿をしていた。