表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
749/1407

ミュラーと戦う日程が決まりました


 学院は勉強するところだし、私は女神(ヨル)がいなくなった影響を考察するのに忙しい。


 だからね。


「ソフィア。お爺様から許可が降りたわ。戦う場所は整えておくから、今度の休息日は空けておいてね」


 ミュラーからのお誘いに全力で「嫌だ!!!」と言いたい。


 人は戦う為に生きているんじゃない。楽しむ為に生きているんだ。


 ミュラーとの戦いは模擬戦ですら死の恐怖を感じるってのに、【剣姫】の二つ名を持つミュラーと()()()の戦闘なんて命がいくらあったって足りやしない。


 模擬戦で顔を狙ってくるなら本気を出した時はどこを狙ってくるんですかね。私の命でも狙ってくるんですか? あはは、ソフィア泣いちゃーう。


 あ、ほらもう身体が。見てこの震え。怯えてガクブルしちゃってるから。


 こんなか弱い女の子捕まえて戦いを挑むとかそんなカッコ悪いことやめよ? 剣姫の名に恥じない猛者と戦って、お互いに切磋琢磨でもしてよう? ね?


 そんな淡い期待を込めて「私と戦っても楽しくないと思うけどなぁ……」とせめてもの抵抗をしてみたが、ミュラーは当然聞き入れてはくれず、「そう? 私は今からとても楽しみだわ」と実にいい笑顔。


 それどころか、既に私と戦っている想像でもしているのか腕に不自然なくらい魔力が集い、じっとりと品定めするような視線が私の足首、太もも、脇腹を経由し、そのまま上へ。

 胸、首すじ、そして私の瞳と真正面からかち合うと、にこりと微笑んで「良い試合にしましょうね」と悪びれることなく言ってきた。この人私の眼球狙うつもりだやめてよねホントにやめて!! そこは手加減とか出来ない部位でしょ!?


 大きくなる震えを押さえ込みながら「あはは……」と乾いた笑いを零すことしか出来ない。


 そんな私を見て、ミュラーは「本当に楽しみ……」と小さく呟くと、ペロリと舌なめずりをしたのだった。


 うひょぉう……。私たべられちゃーう……。


 なんかもう、ヨルの事とかどーでもよくなってきた。


 ネムちゃんと魔物の関係とか色々考える以前に、ミュラー対策を万全にしとかないと来週の朝日が拝めなさそう。


 カイルの時とは違って、私が死んじゃったら蘇生できる人がいないからね。


 私の魔法を教えてもいないのに模倣しまくるマリーとかに仕込めばもしかしたらとは思うけど、あまり非常識な魔法を仕込むのは気が引けるし。


 いや現時点でもだいぶ非常識の固まりなんだけど、今はまだほら、私が直接教えたわけじゃないという大義名分が使える段階だから、……ごにょごにょ。


 まあ、なんだ。一応死んじゃった時用の魔法の用意もあるし、もしもの時でも復活できる……はずだ。さすがに試したことないけど、多分できる。


 それにそもそもその状況にならなければいいだけの話だもんね!


 もう完全に模擬戦に挑む心境レベルを逸脱しちゃってる気がするけど、今更だ。戦闘狂のミュラーと本気で戦うとはそういうことだ。ぶっちゃけ死ぬ時は一瞬で殺してくれそうで、その点はいっそ安心感すらある。


 もちろん戦わなくて済むのならそれが一番なんだけどね。


「二人とも、頑張ってね! ……うーん、私はどっちを応援したらいいのかな……」


「ソフィア、頑張れ。……ミュラーと付き合ってくならいつかは越えなきゃならない壁だ。一回で済ませられるよう頑張れよ」


 カレンちゃんは今から興奮気味な期待をしているし、カイルの方は……なんて不穏なことを言うんだろうね。その可能性には気付きたくなかった。


 勝つにせよ負けるにせよ、ミュラーの満足いく試合ができなければ再戦を申し込まれる未来がありありと浮かぶ。


 なら一発で満足のいく試合をしたら……、……あれ? こっちのパターンでも再戦を申し込まれるんじゃないか? これひょっとして詰んでないかな。


 悲しすぎる未来を想像するのをやめて、私はミュラーに「お手柔らかにね……」と現実方面からアプローチを仕掛けてみた。ミュラーは相変わらず、楽しみなのを隠す気もない上機嫌で「まさか。お互い本気で()り合いましょうね」と譲る気ゼロ。休息日になる前に私の精神が崩壊しそう。


 やだようやだよう、野蛮な戦いなんてしたくないよう。


 安易な約束をした過去の自分を恨んでも仕方がない。

 私とミュラーの対戦カードは、既に剣聖公認で組まれてしまった。


 なら後は、どうにかして被害を最小限に抑えるだけ。


 大丈夫。私ってそーゆーの得意じゃん。

 ほらミュラーとの本気の模擬戦だって、考えようによっては超実践的な訓練になるわけだし。そうデメリットばかりでは……では…………。


 うん。やっぱないな、メリット。

 ある日突然ミュラーレベルの暗殺者に狙われた想定で〜とか思ったけど、この平和ボケした世界でそんな職業の人種いるわけない。


 私が誰かに襲われるとしたら、それは欲求の発散に失敗したミュラー本人である確率がとても高いと思う。


 ――ああ、なんて不毛なんだろう。


 争いなんて、何も生まないというのに。


 私はなぜ、【剣姫】なんて二つ名を持つ存在に付け狙われているのだろうか。


 理解に苦しむ。


ミュラーがソフィアを付け狙う理由。

それはもちろん、ソフィアがミュラーよりも強い剣聖を簡単に下した現場を見ていたからだ。

身から出た錆、ってやつだね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ