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気になっちゃって仕方がない!


 突然ですが。

 私は優等生です。


 気を抜いている時の私の言動しか知らない人からすると意外に思うかもしれませんが、これは覆しようのない事実であります。


 私としては、この優等生としての看板が存外便利だからこそ大人しくその枠の中に収まっているのであって、優等生という肩書きが邪魔になればこの肩書きを容赦なく投げ捨てる心の用意はできている。そう簡単に投げ捨てさせてはくれないという打算もあるけど。


 だからね、一日サボるくらいどうってことないと思うのよ。

「授業を受ける」のと「勉強をする」のは全く別の事なのよ? 無理やり学院に出てきたって授業に身が入らなければそれは単なる時間の浪費だと思うの。無駄って嫌よねー、有意義な時間の使い方しよ?


 だからあんな、「女神の消滅」だなんて気になるワードを目の前にぶら下げられておいてだね。「もうすぐ学院に行く時間でしょう」なんて理由で帰るまでおあずけなんて、普通に考えて有り得ないよね。有り得るわけが無い。


 お母様の横暴、ここに極まれり! ってなもんである。


 ……詳しい話も聞けないまま離されちゃうと、色々と考えちゃうよねー。


 ヨルのせいで被った今までの被害とか。

 憎たらしくも、悪びれない堂々とした姿をちょっとだけ格好良いと思っちゃった事とか。


 ……あんなのでも、二度と会えないとなると寂しいもんだ、とか。……ね。


 ……………………そういえば、大人しく消えないでリンゼちゃんと混じった、みたいな事も言ってたね。


 似ている部分は数あれど、基本的には職務に忠実。素直で働き屋で同僚のみんなにももれなく愛されている我が家のスーパーメイドであるリンゼちゃんと。


 一方、人に迷惑を掛けることが生き甲斐で、その為ならその他大多数の人達を歯牙にもかけない唯我独尊超絶マイペースなヨルが、混ざって……混ざって…………? え、どうなんのそれ。真面目なヨルも横暴なリンゼちゃんも想像できない。どうなんのこれ。え、マジでどうなる??


 ――落ち着け。まずは落ち着いて、順番に考えていこう。


 まず、現状。


 ヨルが消えた。


 何があったかは知らないが、多分何かがあったんだろう。その消滅の間際、ヨルが意識だけを切り離してリンゼちゃんにぶち込んだ影響で、リンゼちゃんはちょっぴり深い眠りについた。


 そして、目が覚めた後も……うん。目が覚めた後も、リンゼちゃんはリンゼちゃんのままの声と調子で、お母様や私と話をしていた。あれはヨルなんかにできる芸当じゃないと思う。


 つまりリンゼちゃんは現在、ヨルの意識を支配下に置いていると考えられる。分身が本体の意識を抑え込む下克上だ。やったね!


 ……と、素直に喜んでいていいのだろうか。


 リンゼちゃんとヨルだったら、私個人の感情としては、断然リンゼちゃんに頑張って欲しいけど。でもリンゼちゃんには女神としての権能がない。


 例えリンゼちゃんの身体にヨルの意識だけが残っていたとしても状況は変わりなかったかもしれないが、問題の所在はそこではない。


 以前、私は聞いた。魔物が消えると人類に危機が訪れると。


 ならば、女神が消えたら何が起こる……?


 …………あれだね。もしも今日が人類最後の日だとしたら、私はお兄様の胸に抱かれたまま最期の時を迎えたいな。一緒のベッドで眠るなんてのもとてもいいね。


 こんな妄想が冗談でなくなる可能性があるとか、それこそ本気で冗談じゃない。


 なんで私は素直にお母様の言う事聞いて学院なんか来てるんだろ。呑気に授業なんか受けてる場合じゃないんじゃないか?


 とはいえ私一人が慌てたからって何とかなるなんて確証もなく、むしろヨルが消えた瞬間に世界が破滅したりしてない現状、このまま平穏無事に何事もなく日常が続いてく可能性だって無きにしも非ずな感じで。


 つまりは何も分かんないって事だよ!! うあーん、もやもやするぅ〜!!


 いっそ念話でリンゼちゃんを質問攻めにするべきか。

 でもでも、もしもまだお母様と話してる最中だったら、私が真面目に授業受けてないのがリンゼちゃん経由でバレちゃうかも……。


 ぐぬぬうんむむと無音で唸り、どうするべきかと頭を悩ませる私。


 と、不意に、隣に座って真面目に授業を受けていたカレンちゃんが、そっと身体を寄せてきた。


 先生の方をちらりと窺い、更に接近。


「あの、ね……? トイレ我慢してるんだったら、恥ずかしくても、行った方が……」


 ごめんねちがうの。紛らわしくってホントごめんね。


「気遣ってくれてありがと、カレン。でもトイレを我慢してる訳じゃないから……」


 勘違いされるのも当然かもしれない。


 傍から見たら私、相当もじもじしてたよね。恥ずかちぃ。


「……そう? もし恥ずかしかったら、私が、代わりに、先生に言ってもいいよ……?」


 優しさが胸に痛い。先生の存在とか今まで忘れててごめんなさい。


 私はカレンちゃんに深い感謝を伝えると、残りの時間、とても真面目に勉学に励んだ。



 ここで悩んでだってしょーがないし。


 まあ、なるようになるよね。


「(なんだ、トイレ我慢してるんじゃなかったのか)」


思っても口には出さない、賢明なカイルくんなのでした。

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