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眠り姫の起こし方


 人の弱点を利用するのは、卑怯ではなく戦術なのです。


 例えば、そうだね。ここにダンボールがあったとしよう。

 通販で頼んだのでも商品の空き箱でもなんでもいいけど、箱型六面のダンボール。


 このダンボールを、誰かに「潰しておいてね」と言われた時、ゴリラ並のパンチでめたくそに殴りつけてペタンコにしようとする人はいないでしょ? だって大変だもんね、コの字の形になってるダンボールに縦の力を加えて壊すの。


 知恵ある人間ならバラして畳むのが正解で、それは「ダンボールより弱いから」とか「卑怯だから負けない方法を選んだ」なんて次元の話ではなく。ただ単に「楽な方法があったらそれを選ぶのは当然」というだけの話で、これは疑問を挟む余地のない、人として当たり前の行動と言える。


 だから私がお母様から逃れる為にリンゼちゃんを利用するのは何も悪くない。強いて言うなら、リンゼちゃんに弱いお母様が悪い。


 リンゼちゃんバリアーを完備した私にとって、お母様などもはや敵ではないのだ!!


「ソフィア、早くなさい」


「はいはーい。今しますよー」


 まあリンゼちゃんバリアーには私の意志通りに動いてくれないという重大な欠陥があるのだけどね。本人の意識が落ちている今はまあ、バリアーの効力が落ちてる反面、使い勝手が格段に向上してるといった具合かな。


 とはいえリンゼちゃんがいつまでも寝たままだと私がとても寂しいので、早速起こしてしまうことにしよう。


 穏やかな顔で眠り続けるリンゼちゃんの額に手を当て、薄く魔力を浸透。


 状況は先程と変わらず、至って健康体。異常と呼べる異常はない。

 体内に潜む微小な魔力塊が気になりはするものの、これが悪さをしているという様子もなかった。


 ……ただ寝てるだけなんだったら、いつもと同じ方法で起きるかな?


 指先に魔力を集中。

 指の先っちょからうにょにょんと伸び出した触手状の魔力が、リンゼちゃんの額にちょんと触れた。


「んぅ……」


 ふむ? 起きないぞ?


 口からは可愛らしい吐息が漏れたが、それだけだった。


 どうやらリンゼちゃんの眠りは、やはり普通の睡眠とは異なるらしい。反応が思ったよりも薄い。


 けれど薄くとも反応があるということは、効果自体はあるということ。


 ならばやり続けばいいだけだ。


 繋いだ一指はそのままに、触手を追加。

 五指全てから魔力を伸ばした私は、リンゼちゃんの額の上を鍵盤に見立て、軽やかに指を踊らせた。


「んぃっ、やっ、あっ……」


 なんと、これでも起きない。これはちょっと予想外だ。


 そして予想外なリンゼちゃんの反応とは反対に、予想通り、お母様に怒られた。


「ソフィア? 真面目にやりなさい」


「これでも結構真面目なんですけど」


「では『これ以上ないほど』真面目にやりなさい」


「……はーい」


 うーむ。これ以上と言われても、どうしたものか。


 魔力の反発は触れた時が一番大きい。

 表面を撫でるように触れるのが一番有効な手段のはずで、仮に魔力をこれ以上潜り込ませたとしても、今度は異物感が大きいばかりで意識が覚醒するような強い反応は期待できない。かといって表面を撫でるだけじゃまたお母様に叱られそうだ。続けてれば起きる可能性が高いのは本当なのになー。


 この方法がダメだとすれば、他の手段は……。


「んん……」


 額に繋げていた魔力を引き抜き、今度はお腹の上に手のひらを乗せる。


 あれだけの刺激を与えても起きないのは、やはり何かがおかしい。


 その原因として考えられるのは、今のところ、この謎の魔力塊しか考えられない。


 今度はリンゼちゃんの魔力と同調し、なるべく刺激を与えないように魔力を奥へと伸ばしていく。そうして目的の固まりに触れてみれば、これが圧縮された意識のようなものだと気がついた。


 ……というか、何故ヨル(本体)の意識がここに? いつからこんなの植え付けてたんだ、全然気付かなかった。


 魔力の質から犯人の目星はついたものの、その目的が読めない。なにせ魔力塊が小さすぎるのだ。


 圧縮を解除したところで、肉体的には一般人であるリンゼちゃんすらどうこうできるとは思えない。そんな微量の魔力ではあるんだけど……。


 そんな微量の魔力が、リンゼちゃんを眠らせ続けてるのも確かなわけで。


 結局、いくら怪しくてもこの魔力塊をどうにかするしか方法がない。根っこが繋がってるから下手に体外に取り出したり、このまま消滅させる事もできないからね。


 だから怪しいのは承知で、圧縮を解いてみました。


 魔力の濃度が近づいた途端、リンゼちゃんの魔力の中にじわりと溶けてくヨルの魔力。なんだか毒を流し込んでるよーな気分になるのはヨルの印象が良くないせいかな。


「ん……」


 なんて失礼なこと考えてたら起きたよ、リンゼちゃん。

 やっぱりこれが原因だったっぽい。身体に異常は……今のとこないかな。


 とりあえずは一安心。


 そう、思いたかったのに。


「はあ……。……やってくれたわね」


 リンゼちゃんが何故かおこです。


 ワターシ、ナニモヤッテナイヨー? ムジツデース。


予想外の方向から予想外のボールが飛んできた時、ソフィアの中に眠るエセ外国人は目覚める!

そして何の解決にもならない言葉を残して去って行くのデース!!

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