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酔ってても平常運転でした


 天災ってあるじゃん。人智が及ばない系のアレ。


「あー、来ちゃったかー。来ちゃったなら仕方ないなー」って諦めるしかない系のアレ。


 女神って、その天災に相当すると思うんだよね。望んでないのに来ちゃうあたりが特に。



 というわけで、私はまたまた、またまたまたまた、お母様の理不尽なお小言をちょーだいしていたわけであります。


 お兄様もリンゼちゃんもいるお陰でめっちゃ緩いけどね。お父様のボソボソした不満くらい緩い。


 お母様もヨル関連は天災のようなものだと認識しているのか、叱るというよりは注意に近いような感じがする。有り体に言っちゃうと「心配させないでよ、もうっ!」を長ったらしくしたツンデレ語。


 お母様ももういい歳なんだし、そろそろツンデレは卒業して……ん、今どこかから隙間風でも吹いた? どこにも穴とか空いてなかったよね? 気のせいかな。


 ともかく。


 アポ無し迷惑女神であるヨルが馬鹿みたいな魔法を行使したお陰で、屋敷にいた住人は魔法を使えない平民使用人に至るまで、揃って軽い恐慌状態に陥っていたのだった。


 つーか私も、どーにも魔力酔いしたっぽい。さっきからびみょーに地面が揺れてる感覚がする。


 ヨルのやつ……次に来たらお仕置しちゃる。


「ソフィア、ちゃんと聞いていますか? いつもそうやって話を聞き流していますが、そのままではいつか困る事が――」


「母上、どうかもうその辺りで。ソフィアだって被害者なんですから、あまり責めては可哀想ですよ」


「……それはそうかもしれませんが」


 ああ、これやっぱり魔力酔いじゃないかもしれん。


 これは愛だ。お兄様の溢れんばかりの愛に酔ってしまっていたんだ。気付くのが遅れるとは何たる不覚。


 私の部屋に駆け付けてくれるのも二位に大きく差をつけての一番だったし、これはもう結婚するしかないんじゃないかな。お兄様のハーレム伝説は今日幕を開ける運命だったのかもしれない、ってハーレムじゃダメだ。お兄様の魅力じゃ十人かそこらで収まりそうにない。私とアネットの二人だけに、深い深ーい愛情を注いでくれればそれで良いのだ。うふふ、お兄様の愛情……♪


 愛情(物理)を注ぎ込まれる想像をしてそっと下腹部に手を伸ばしそうになったところでお兄様の視線がこちらを向いたのに気付き、何食わぬ顔で過激な妄想を中断した。


 (しと)やかに頬を押さえ微笑み美人のポーズ。


 ヨダレなし。にやけも……まあ、許容範囲。

 よし、だらしないところは見られてないね。この抑えきれなかった笑みはお兄様に見つめられたからなんですよ? にこっ。


 笑みを贈れば、お兄様から返礼の微笑み。

 それだけかと思いきや、ま、まさかのウインクまで……だと!!?


 あまりの不意打ちに、私の意識は一瞬でホワイトアウトした。


 おちゃめお兄様がかわいすぎて私の精神が崩壊の危機。顔面とか間違いなく大炎上中でとても人様に見せられる状態にない。なんだあれ、なんだあれ! お兄様マジ私のツボを心得すぎじゃないでしょうか!!? 理性が持たんよ!?


「ソフィア。はしたないですよ」


 脳内が「ひゃー!」やら「うわー!」といった感情の昂りで埋め尽くされた私にお母様の呆れ返った声が届く。少しだけ我に返れば、私はベッドに仰向けに倒れ込み、ベッドからはみ出した足がバタバタと暴れた結果、その度にスカートの下の素足がお兄様の視界内にチラリズムを提供しているというプチえっち安売り状態だと気が付いた。


 いやーん、見られたいけど見られたくない乙女心ぉー!!


「見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません……」


 お兄様の前ではお淑やかでありたい。けれど圧倒的嬉しみが理性を容易く吹き飛ばす。


 絶対赤くなってる顔だけは必死に隠しながら、この反射行動をどう抑え込もうかと悩む私に、お兄様からまさかの追撃が。


「そんなことはないさ。ソフィアは何をしていたってかわいいからね。母上もそう思いませんか?」


「またそうやって甘やかして……」


 もうね、もう、どうにでもしちゃってください……と全面降伏しかできない。


 ベッドの上で、喜びの舞やら歓喜の咆哮やらが飛び出そうとしているのを必死こいて我慢している私は、傍から見れば陸に打ち上げられた魚めいて滑稽な生物に見えたことだろう。


 でも、いいんだ。

 お兄様にかわいいって言ってもらえたから。


 うにょんうにょんと、今度は身悶えなまこダンスを披露する私は、大海よりも広く大きなお兄様の愛に包まれ立派な水生生物への覚醒を果たす。其の名は(こい)


 お兄様に美味しく頂かれるのを今や遅しと待ち受ける、俎上で無防備を晒す据え膳となった。


「ソフィアも、馬鹿なことをしていないで起きなさい。まだ眠くは無いのでしょう?」


 まあ食べてくれる可能性皆無とか知ってたけどね。お母様もいるし。


 突っ切った妄想で平静を取り戻し、お母様に求められるまま身体を起こす。いつもの就寝時間まではまだいくらかの余裕があった。


 ヨルのせいで始まった話し合いは、もう少しだけ続くようだ。


予定外の訪問+予想外の不意打ち=理性の限界。

ソフィアの溢れ出る妄想の数々は、欲望に身を任せない為の安全弁なのかもしれない。

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