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ヨルの依頼


 気力と体力をごっそり消費させてしまった……。


 今日はヘレナさんの魔法の考察を進めて、魔法の新たな可能性について理解を深めようと思っていたのに、とんだ計算違いだ。


 お母様との雑談があったとはいえ、まだまだ夜は始まったばかり。


 ここは一つ、フェルたちを可愛がって癒されつつ、リンゼちゃんのマッサージでも受けてやる気を回復させちゃおー! と絞り出した元気で部屋へ戻ると、私を温かく迎え入れてくれるはずのベッドの上には、招かれざる先客がいた。


 夜が部屋の中まで侵食したようにすら感じられる闇の気配。

 どこまでも目を惹く、神秘的な美貌を惜しげも無く晒した黒い女。


 もう来ることは無いのかと安心しかけていた、女神ヨルがそこにはいた。


「お邪魔してるわよ」


「何故いるし」


 そう思うなら来ないでください。ホントじゃま。


 ベッドにダーイブ! して英気を回復しようとしていた私のこの行き場の無い感情をどうしてくれる。代わりにご自慢のデカパイにでも責任を取らせてやろうかコラ。


 などと考えていた私は、思わず目を見開く羽目になった。


 胸が、散々私に見せびらかして煽りまくってくれやがった胸と呼ぶのも烏滸(おこ)がましい脂肪袋が、常識的な範囲に萎んでおる。当社比三割あるかないかの大減量を果たしてらっしゃる。


 ……………………それでも、私とは比べ物にならない豊乳ではあるのだけど。


 身長相応に減らしてもまだまだご立派とかホント腹立つ。つーか身長もデカいんだよこの女神。全身が私を悔しがらせる成分でできてるんじゃないか? 遺伝子情報寄越せおらぁ。


 などと、思わずガラの悪いソフィアちゃんが顕現しちゃいそうになっちゃったけど、今日の私は若干お疲れ気味。


 聞いときたいことがいくつかあった気がしなくもないけど、それよりなにより私の愛するベッドちゃんを悪の手から救出する事が何よりも優先される状況であるのは、確定的に明らかだった。


「それで、今日は何の用?」


 だから、さっさと用件を済ませてお帰り願おう。


 そんな軽い気持ちで発した問いは、当然の如く、何の覚悟もしていなかったから。


「話が早くて助かるわね。あなたの魔法で、あなたが元々住んでいた世界への『穴』を開けて欲しいのだけど」


 ヨルの言葉の意味を理解すると同時。


 私の感情は、ストンと綺麗に抜け落ちた――……。





 遂に来たか、と心のどこかで声がする。


 何で今なの、と心のどこかが叫んでる。



 異世界に転生。

 そんな冗談みたいな環境に放り込まれて、見知らぬ人たちと家族になって。


 出会う人の全てが裏の無い笑顔で話しかけてくる薄気味悪い状況で。何が正解かも分からない、似て非なる世界の中で必死に求められる役割を演じ続けて。


 ――元の世界に戻れる? 今さら?


 転移魔法が使えるようになった際、密かに試した魔法が失敗した時の感情が思い起こされる。


 絶望と呼ぶほど強い感情ではない。それほど強く期待もしてない。


 ただ、「ああ、やっぱりな」という感想と共に、心の奥底に大切にしまっていた何かが、サリと小さな音を立てて、ほんの少しだけ削れたように感じられただけだ。


 ……私はソフィアとして、幸せに生きている。それが、今の私の現実。


 記憶にしかない元の世界は、私の前世。

 もう二度と関わることの無い、取り戻せない過去。……そのはずだ。





「ソフィア」


 リンゼちゃんの声を聞いて、ハッと我に返る。


 呼吸すら忘れていたようで少し胸が苦しい。小さく欠伸(あくび)をすれば、目の端に微かな涙が滲んだ。


「ん……。……ちょっと寝ぼけてたかも」


 へらりと笑顔を浮かべれば、リンゼちゃんは小さな嘆息。ヨルは私をじーっと見てる。


 珍しく真面目で調子が狂う……と言いたいところだけど、ヨルは最初から真面目顔で巫山戯(ふざけ)た事を抜かすキャラだった。つまり平常運転だ。騙されてはいけない。


「それで? 世界を超える穴だっけ。多分できないと思うけど」


 ムリムリのム〜リィと手を振れば、ヨルはそんな様子を気にすること無く「とにかく試してみて」と強硬姿勢。


 なんだろう、今日はやっぱりいつもより真面目な気がする。巨乳じゃないからそう思うのか? 女神様の考えることは分かりませんわ〜。


「まあ失敗してもいいなら。ほい」


 何が目的かは知らないけど、やるまで帰らなさそうならやるっきゃない。そもそも結果なんて知れてるし、私に不都合なんて皆無だからね!


 というわけで、サクッと作り上げた新たなアイテムボックスの出口は、万が一上手くいっていたなら前世の私が住んでいたアパートのゴミ置き場へと繋がっているはず。


 これは別にアポ無し訪問したヨルへの嫌がらせとかではなく、単に私が思い浮かべやすかったからである。ほら私、ゴミ捨て担当だったからさ。っと。


 ゴン。


 宙に浮かんだ黒い穴に遠慮なく手を突っ込もうとしたヨルの手が鈍い音を立てて止まった。不満気な顔がこちらを向く。


「……行けないのだけど?」


「だからできないって言ったじゃん」


 私に文句を言われても困る。


 むしろ世界越えとか神様の管轄じゃないの? 自分の力で何とかしてよね!


いつでも元気なソフィアちゃん。でも不意打ちにはちょっぴり弱いゾ☆

女神様的にはソフィアの反応なんてどうでもよかったみたいだけどね!

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