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相談相手を間違えた件


 良いものって人に自慢したくなるよね。うん、わかるわかるー。


 それも色んな事に応用が利いて、研究が進めば歴史に名が残る可能性も大ともなれば、周りが見えないくらい興奮しちゃうのも当然だよねー。よーくわかるよー。


 ……でも私は、ヘレナさんの研究室には、どちらかと言えば癒される為に行ってたわけで。


 お駄賃がわりに研究に協力する程度ならまだしも、お菓子食べる暇もないくらいの研究談義に付き合わされるのは正直キツいです。


 それに加えて魔力タンク扱いとかもうね。

 せっかくの美味しいお菓子が、なんかもう単なるエネルギー補給みたいな感じになっちゃうのよね。


 ソフィアさん、お菓子は美味しく食べるべきだと思うの。


 ――というわけで、私は今日あった出来事をお母様に伝え、ヘレナさんをちょぴっとだけ大人しくさせる知恵を拝借しようと思い立ったのだった。


「――現状を一言で表すなら、ヘレナさんは新しい魔法陣と新しい魔法に首ったけです。ゆったり――失礼。これまでのような急かされる研究ではなく、楽しんで研究している今のヘレナさんには、ゆったりとした時間が必要なのではないでしょうか」


 止めるのは百パー無理だけど、勢いを弱めるくらいならなんとかならないかなぁ。できれば私がゆったりとお茶を楽しめる程度には。

 という秘した気持ちが溢れ出してしまったけど、提案自体は本心でもある。


 ヘレナさんが止まらないという事はつまり、シャルマさんのもてなしを受けたければ、あの糸の切れた凧並に元気いっぱいのヘレナさんをどうにかしなければならないということ。


 倒れるまで研究させ続ける方法が使えない以上、なんとかヘレナさんの熱意を削ぐ方法が必要となるのだが……。


「ヘレナが、ゆったり……。……彼女はやりすぎて倒れている時以外、常に研究の事を考えているような人ですよ? 本人がそれを望んでいるのなら、飽きるまで放っておくしかないような気がしますが……」


 なんと私よりも付き合いの長いお母様でもヘレナさんを止める有効な手段は思い当たらないらしい。なんてこったい。


 想定はしていたとはいえ、このままでは私のオアシスが存続の危機だ。落ち着いて食べられない甘味などただのカロリーに過ぎない。早急に環境の改善を始めなければ!


 危機への認識を新たにした私は、すぐに対策を考え始めた。


 要はヘレナさんの意欲を削げばいいんだ。


「お母様。ヘレナさんにお見合い相手とか用意できないんですか」


「突然何を言い出すかと思えば……」


 無理らしい。常識的に考えても、色々と無理らしい。

 それはヘレナさんの魅力がどうこうといった話ではなく、むしろヘレナさんの家庭環境と理想の高さが原因らしい。


 未だに理想の王子様が迎えに来てくれると信じているヘレナさんと、その考えを容認するヘレナさんの家族。

「私が貴女の王子様です」と現れる人なんかいるわけないので、今まで結婚できなかったのだとか。因果応報すぎて話聞いてるだけでツラい。主に呼吸が。腹筋が死ぬ。


 あの人地味に結婚願望あるから男の前では大人しくなると思ったのに、残念なことだ。……っていうか、今までどころか本当に一生結婚できなさそうな危険な思想なんだけど、お母様的にはいいのだろうか。友人が気付かずに一生独身になる道を突き進んでいると知ってなお、放置していていいのだろうか。


 聞いてみた。


「お母様はヘレナさんが一生独身でもいいと考えているんですか?」


「一生……、……いえ。それもまた、彼女が選んだ人生でしょう。結婚が必ずしも良い結果をもたらすとも限りませんからね」


 どうしよう、これ以上突っ込めない流れになってしまった。お父様なにしたの。


 静かにカップを傾けるお母様は怒っているようには見えないけれど、その心の内はお父様への不満が渦巻いていたりするのだろうか。まさか迷惑を掛けまくる私の存在を疎ましく思っている……なんてことは、あの、多分、ないと思うのだけど…………無いといいな!


 頬を一筋の冷や汗が伝う。

 そのゾクリとした感触を意識的に無視して、私は必死に頭を回転させる。


 ……何を、何を言えばいい。

 この場を逃れる術は。お母様の機嫌を損なわない言葉は、何か。


 ごくりと生唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。


「……あの、私、そろそろ部屋に戻らせて頂こうかと……。久しぶりの学院でしたし、授業で気になった所も、少し……」


 なるたけ刺激しないように言葉を選んだつもりが、口から出た台詞は怯えも相まって、この場から逃げ出したい感満載の出来栄えになってしまった。ソフィアちゃん泣きそう。


 お母様がスっと目を細める。


「あら、今の学院にはソフィアでも気を引かれる事があるの? それは気になるわね」


「えっ」


 お母様の瞳に怒りはない。好奇の色もない。何考えてるか分からない怖い。


 それからは何故か、学院の事を報告させられる流れになった。


 リンゼちゃん助けて。

 私が嘘を積み重ねてお母様に叱られる前に早くプリーズ。


そもそも嘘をつく必要が無いと気付いたのは、退室を許された後の事だった。

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