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ヘレナさんの新魔法


 検証は楽しい。

 未知がひとつひとつ既知へと塗り変わっていく事には喜びを感じる。


 ――そうして検証の対象が、転送物へと移行した時の事だった。


「そうそう! そういえば私、こんな時に便利な魔法を使えるようになったのよ! ソフィアちゃんには特別に見せてあげるわね!」


 特別と言いつつ、見せびらかしたい欲求がまるで隠せていないヘレナさんをかわいく思いながら、くすりと微笑む。


「ああ、母への手紙に書いてあった『固有魔法』ですね? 実はそれ、気になってたんです」


 固有魔法。

 それは、お母様の《無言》のような。既存の魔法の枠に捕らわれない魔法。


 ゆーてお母様以外ではヘレナさんの暗い魔力くらいしか知らないんだけどね。


 私の魔法は……既存魔法よりは固有魔法っぽいけど……、……どうなんだろうね?


 ともかく、固有魔法は固有と呼称されつつ私にとっては固有でも何でもない、むしろ目の前で事象を確認できる分だけ再現しやすいただの魔法と同程度のものに過ぎないので、有用な魔法だったらお母様の《無言》のように即刻真似っこさせてもらおうと思う。良いものは皆で真似してより高めていくのが正義(ジャスティス)だよね。


 お母様のと完全に同じではないけど、お母様の魔法を参考に生まれた《遮音結界》も中々に便利だし。


 ヘレナさんの固有魔法も使い勝手の良いものだといいな〜、なんて皮算用をしていたんだけど……。


「じゃじゃーん! これが私の新しい才能の目覚め!! 固有魔法《可視化魔力》よ!」


 ヘレナさんが見せてくれたのは……何の変哲もない、ただの魔力だった…………。


 ちょっと期待しちゃった後だったから落差が辛い。

 そーゆー大道芸系のスキルは嫌いではないけど、それならせめて、もう少し見た目にインパクトが欲しい。


 例えば、七色に光り輝くとか。その状態で次々と形を変えるとか。


 光るだけって……。

 魔力がほんのり光るだけって……誰得なの…………。


 私の落胆を他所に、ヘレナさんの演説は続く。


「これすっごく便利なのよ! 今までも魔力というのは魔力視によってその存在を確認できてはいたのだけど、この魔法を使えば今まで曖昧に一纏めにされていた『魔力』というものの本質に迫ることができるかもしれない! 何より魔力の痕跡を完全に追えるという事は、今まで想像でしか語ることが出来なかった魔法が発現するまでの魔力の流れを――」


 熱量がものすっごい。


 誰に聞くまでもなく、《可視化魔力》の魔法は、明らかにヘレナさんのヘレナさんによるヘレナさんの為の魔法だった。


 残念ながら既に魔力の性質の違いまでをも見極められる《魔力視》を使える私には必要のない魔法だったけど、冷静に考えれば、研究者であるヘレナさんにとってその魔法は、正に世界を変える程の可能性を秘めた魔法なのかもしれない。


 普通の人の魔力視って、なんか、視えるものの個人差ヒドいっぽいし。


 そういえば割りと最近になって知ったのだけど、私がまだ幼い頃、魔力制御を覚えて自分の魔力をコネコネして遊んでた弊害として、人から漏れてる魔力しか感知できない系魔力視を持つ一部の人から、私は「魔力を持たない子供」という目で見られていたという話があった。ヘレナさんの魔法は、そういった勘違いを減らす一助にもなるのだろう。


 漏れてる魔力を漏れないようにしただけで魔力無し認定はちょっと酷いよね。

 むしろ同世代より……いや、確か常駐魔法も同じ頃から始めたから、その時点で誰よりも魔法使いまくってたのに魔力がないわけないじゃんね。第一魔力持たない生き物とかいないんじゃなかったの? もしかしてゾンビとか、そういう目で……、……いや、ゾンビは魔力持ってそうだなー。逆に。


 ふんふんと適当な相槌を打ちながら意識が若干脱線しても、ヘレナさんの高説は続く。


「――だから私はこの魔法を使って、私にしかできないことをしようと思うのよ! そう、きっと私はその為にこの魔法を女神様から託されたんだわ!! …………だ、だから、そのー、……例えばぁ、…………新たな魔力単位に、私の名前を付けたり、とか……」


「え…………」


 意気軒昂な使命感の発露から一転、唐突に照れ照れになったヘレナさんがなんか変なこと言い出した。


 想像もしなかったことを言われてビックリしたけど、単位ってことはあれでしょ。「光の初級魔法を使うのに必要な魔力量は三ヘレナです」とかそーゆーあれでしょ。

 ホントにそんなこと望む人がいるとは思わなかったからマジでビビった。


 人の価値観って本当に吃驚(びっくり)するくらい千差万別だよね。私ならそんな恥辱、大金積まれたってゴメンだわ。


「その……ソフィアちゃんは、どう思う?」


 だからヘレナさんに可愛らしく聞かれた時。

 既に私の答えは決まっていた。


「ヘレナさんがそう望むのなら、いいんじゃないでしょうか」


「そう? ……そうよね?」


 自信なさげながらも、期待感からか頬がゆるゆるなヘレナさん。


 私には理解できないけど、頑張ってみればいいと思います。


 私に被害が及ばなければなんでもいいよ。


「ヘレナさんが偉くなりすぎたら、気軽に遊びに来れなくなるかな……?」

ソフィアの妄想はいつだってトップスピード。

本人的には、可能性のある未来ではあるらしい。

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