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危険極まる魔法陣


 魔法は、想像力である。


 その観点から言えば、私はとても有利だ。なにせ現実()()を知っている。


 人の想像力が生み出した創作物が娯楽として溢れている世界で生きてきた経験は、魔法を使う際に必要な「イメージの明確化」という作業をとても容易にしてくれる。漫画の主人公に自分を当て嵌め魔法を使っている(ページ)を思い浮かべるだけで、大抵の魔法はすぐに使えるようになる。何も特別なことは必要ないのだ。


 だから、空を飛べる。


 だから、転移魔法だって使える。


 ……ただ、これらの魔法はこの世界の人々にとっては画期的で、等しく前代未聞の魔法なのかもしれないけれど、私にとってはどれもこれもが昔から使い古されたファンタジーの典型であり、模倣に過ぎない。要は「魔法と言われて思い浮かぶもの」の上位がそれだったというだけの話なのだ。


 だから逆に、前世で見たことの無い魔法は習得に時間がかかることが多い。先日挑戦して上手くいかなかった植物魔法やお母様の《無言》の魔法などがそれに当たる。


 ……所詮私はアニメや漫画などで見た事のあるものを再現しているに過ぎないのだから、当然といえば当然なのだけど。


 私にだって、できないことはあるのだ。



「この魔法陣はね、効果は十分なんだけど必要になる魔力がやたら多くて、木材みたいな簡単な構造の物でもこのくらいの大きさが私に転送できる限界で――」


 だから私にとって、ヘレナさんの作った魔法陣が見せた現象は驚きしか無かった。


 転送。


 そうだ、あれは正に転送だ。


 似た現象なら起こせる。

 私が使う転移魔法はアイテムボックス経由とはいえ「物を遠方に送る」という目的を果たす事だけが目的なら、ヘレナさんの作った魔法陣の上位互換と言える。だけど、静謐性や魔力さえあれば誰にでも使える点など、ヘレナさんの魔法陣にしかない利点も数多くある。


 その中で、私が最も気になったのは――魔力の移動。


 私の魔法はアイテムボックスを介し物を移動させるだけ。言わば専用の通路を作るだけの魔法ともいえるんだけど、ヘレナさんのはまるで違う。


 ヘレナさんが見せた魔法は……その、大変言い難いんだけど……また女神(ヨル)に禁止されちゃう系の魔法じゃないかなーと思うわけで……。


 (まき)を魔力で包んだまではいいのよ。

 そこから魔力が浸透して? 薪の隅々にまで魔力が行き渡って? 消失? 綺麗さっぱりお無くなり? かと思えば()()()()魔力が別の場所から現れたとか、軽くホラーの域ですよ。


 …………私の想像が間違っていなければ、という前置きは入るけど。


 この魔法陣、普通に人殺せちゃうと思うんだよね。それもお手軽簡単、物理的に。


 消える過程もまあ、不思議っちゃ不思議なんだけど、それよりなにより現れる過程がヤバすぎる。あれ完全に()()()()()()()()()


 私限定でめっちゃ分かりやすい例えにすると、出現予定地点にあらかじめハンバーグをセットしたままゆで卵を転送したら、卵インバーグが完成しちゃうってこと。まだ分かりづらいか? 出口側の魔法陣に何かを置いておいたら、その内側から転送されて来たものが飛び出てくるってことだよ。それがキチンとスペースの用意された空の箱だろうが、中身がぎゅうぎゅうに詰まった肉詰めだろうが関係なく、()()()()()()()()()()()()()()()


 あの魔法陣くっ付けてなんかでっかいもの転送したらドラゴンだって一撃だわ。誰でもドラゴン討伐キットにでも改名した方がいいんじゃないか。ドラゴンとかホントにいるのか知らんけど。


 毎回思うんだけど、なんでヘレナさんはこんな危ないものばっかり作るんだろうか。前回の暗い魔力だって増幅して人に打ち込んだら私だって抵抗できない超兵器になる可能性のある代物だったし、実は特定の人物を破滅させたい願望でもあるんだろうか。割と万全の護りだと自負してた私を容易に殺せそうな兵器ポンポン作り出してて普通に怖いんですけど誰だよこの人に才能ないとか言ったヤツ。あるよ、めちゃくちゃあるよ才能。恐ろし過ぎてそろそろ女神(ヨル)が直々に狙ってくるんじゃないかと心配になるレベルだよヘレナさんヤバすぎ。


「だからね、後は魔力効率をどうにかしたいんだけど陣の改良はこれ以上は難しくって! 魔力の均質化の方面から攻めていって、多人数での同調や魔石を利用した方法でなんとか――」


 なのに本人は、ただただ研究が好きなだけで邪気なんて一切ない。下手したら神殺しすら出来そうな物を作り出した自覚が一切ない。なんて危ういんだろう。目を離した隙に神罰とかいって消されてないか心配でならない。てかこのまま放置したら、誰でも簡単神殺魔法陣が本当に世に出回る可能性が……。


 ――止めよう。なんとしてでも。


 癒されるつもりで来たのに何故こんな事に。

 若干泣きそうな気分になりつつも、シャルマさんの淹れてくれた紅茶と一緒に愚痴を飲み干す。やらなきゃこのお茶だって飲めなくなるかもしれないんだ。やるしかない。


 ……でも、少しだけ考えちゃうのは仕方ないと思う。


 ヘレナさんは、ずっと萎れててくれた方が平和なのになぁ、って……。


この魔法陣は、むしろソフィアにこそ効く。

遊びに来たら原理も分からず防御すら不可能そうな凶器を唐突に見せ付けられて、内心ガクブルのソフィアちゃん。

それ対神用だよね?私に向けて使わないよね!?と思い込む事で、辛うじて心の平静を保っております。

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