表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
727/1407

叫ぶと魔力が出るらしい


 無防備なネムちゃんが危険で危なすぎた。


 なので、若干今更かもしれないけど、マリーを渡して四六時中持ち歩くようにと言い含めておいた。


 それほど大きくないぬいぐるみとはいえ持ち歩くには不便なサイズかなーとも思ったんだけど、「ネムちゃんのピンチには秘密の機能で助けてくれるよ!」と伝えたら目をキラキラとさせていたので、たぶん持ち歩いてくれると思う。むしろ自分からピンチな状況を作りに行かないか心配なくらいだ。


 ……まあマリーがいれば何とかなるでしょ。あの子《浮遊》も《念動》も使えるし。


 ネムちゃんの防御を固めてようやく少し安心できた私は、今日一日の授業でこれでもかと疲弊した心身を癒すべく、最後のひと踏ん張り。帰宅する生徒たちの波から外れ、学院で最も心安らぐスポットであるヘレナさんの研究室へと足を運んでいる最中なのであった。


 階段もぉ疲れた。見慣れたドアが天国への入り口に見えるよ。


 しかしここまでくればゴールは目前。

 既に脳内ではシャルマさんの特製お菓子に囲まれて幸福の絶頂にいる私が幻視できる。そしてその光景は、間も無く現実となるであろう約束された未来なのだ。


 さあっ、今日のおやつはなんだろな! なんでも美味しいからなんだっていいけど!


「こんにちわ!」


 弾む足取りのまま扉を開けた私を待ち受けていたのは、


「来たわね! 待ってたわよ!!」


 私以上にご機嫌でウキウキしているヘレナさんなのでした。


 また徹夜してハイになってるのかな? テンション高いね。


「さあ座って! 話したいことが山程あるのよ!」


 ちょっぴり尻込みしている私を引っ張って強制的に着席させるヘレナさん。


 シャルマさんを見上げれば、苦笑して「どうかお付き合い下さい」と困り顔ながらも隠しきれない嬉しさが。


 よかろう。いくらでもお付き合いしちゃうので今日も美味しいお菓子をどうぞよろしくおねがいします。


 目視できるだけでもシャルマさんの背後に五種類は用意されてるお茶菓子を見ながら、私は見えない尻尾をブンブンと振る。嗅覚も含めれば八種類はあるのは確定的に明らか。シャルマさんマジ神。もう大々大好き超愛してる。


「まずは何から話そうかしら……。やっぱりこれ? それとも……」


 床に広げられた魔法陣。それと机の上に置かれた紙束を交互に見ながら楽しそうに迷うヘレナさんを穏やかな気持ちで眺める。紅茶の香りがふわりと部屋に広がれば、心は何処までも落ち着いてゆく。


 はあ〜ぁああ。やっぱこの部屋いいわぁ。いるだけで気持ちよくなっちゃう。リラクゼーション効果抜群だよう。


 ふにゃふにゃと骨抜きにされるのを感じながら待っていると、「よし決めた!」との掛け声と共にヘレナさんが近付いてくる。その手にはこの部屋には明らかに不似合いな(まき)を鷲掴みにしている。どっから出した?


「ソフィアちゃん、見ててね。この薪をこっちの魔法陣に乗せて、そして魔力を注ぐと……」


 言うが早いか、まるで土下座のような体勢になって魔力を注ぎ始めるヘレナさん。


 やがて魔法陣に沿って魔力が流れ始めると、珍しい模様が次々と光の線となり浮かび上がってくる。その光景はなんだかドミノ倒しを見ているようなハラハラドキドキした気持ちと微妙な地味さを感じさせるが、この光が全ての陣に行き渡った暁には間違いなくファンタジーな現象が起こると理解している私はなんとか高揚した気分を維持したまま光の行く末を見守る。……見守りたいんだけど。


 ……勘違いじゃなければ、さっきから光が広がるスピードが、かなーりダウンしているような気が。そんな気がとてもいたします。


 もしかしなくてもこのままじゃ、魔力が足りなくなったりして――


「ふんぬああぁぁあーー!!!」


 あ、早い。めっちゃ早くなった。大丈夫そう。まだまだ全然頑張れそう。


 そんな感じで、紅茶とお茶菓子の香り漂う部屋に野生動物が威嚇する時みたいな奇声が二回ほど響いた後、今度は出産に苦しむ小鹿みたいな物悲しい奇声を経て、魔力は無事に充填された。魔法陣から立ち上った魔力が形を変え、薪全体を包み込む。


「っ、はあー! はあー! あー! あー疲れた! どう!?」


 お疲れなのは分かるけどもうちょっと雰囲気も重視して欲しい。

 このままだと初めて他人が使った転移魔法を見た印象がヘレナさんの呻き声だけになりそうだよ。


 せめて魔力の流れだけでも記憶に留めようと注視する私の目前で、薪の中に均等に吸い込まれていった魔力はその形を変え、次の瞬間。


「――!」


 跡形もなく消失。

 それと同時に、壁に掛けられた魔法陣から唐突に同質の反応が現れ、コォン! と高い音を立てて落下した。


 ヘレナさんは薪を拾い上げると、鼻息荒くドヤ顔。


「どうよ、すごいでしょう!!」


 何の変哲もない薪を、自慢の宝物を見せびらかすように突き出した。


「…………すごい、ですね」


 ……本当に、この人は。


 ぜはぜは言っててイマイチ締まらないのに、なんでこんなに眩しく見えるんだろうか。


 シャルマさんが誇らしく思う気持ちが分かっちゃうじゃないか……。


見た目は大分アレだけど、魔力を長時間注ぎ続けるという行為は現時点でソフィア以外の誰にも真似出来ないだろう程度には難易度が高い。

見た目は大分アレだけど。女性が人前であんな姿を晒してまですることでは無いけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ