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賢者の授業


「……では、改めて授業を続ける」


 落ち着きを取り戻したネムちゃんのお陰でとてつもなくスムーズに進んだ授業は、やっぱり悔しいほど出来が良かった。


 既存の魔法学から逸脱した理論ではあるものの、それは私の魔法に対する考え方とはとても近しいもので理解がしやすかったし、何より魔法の発現に必要な魔力量を「複雑な工程が多いほど〜」と逐一説明しながら計算によって導き出す手腕は素晴らしかった。「必要な魔力量は精霊の関心をどれだけ得られたかで変わる」とか言って思考放棄しちゃってる人達よりよっぽど信頼出来る。


 ……あくまでも、その能力は、だけども。

 能力の素晴らしさと人間としての素晴らしさは反比例してるんじゃないかと思わせる超有力な実例だけども。


 いやそれだと私やお母様も人格が破綻してることになっちゃうな。やっぱ今のナシ。


 お母様はともかく、みんなに愛される癒し系乙女のソフィアちゃんが人格破綻者とかありえない話だ。やっぱりアドラスだけが優秀でありながら変態で変人とかいう残念な例だったのだろう。だからほら、アドラスはお母様とは違い、未だに独身でうだつの上がらないおっさんなのだ。


 賢者という勝ち組の職を得ていながら、女性は誰一人として寄り付かず。

 それどころか、男性の友人すらいない性格悪くて哀れな男は、遂に人恋しさに純粋無垢な幼子を洗脳して無理やり弟子にしてしまうという……くっ、なんて卑劣な男なんだ。だから頭良くてもいつもひとりぼっちなんだぞ。


 むさいオッサンを師匠と仰いで慕ってくれる天使ネムちゃんを、もっと大切に扱い給えよ!!


 ……なんて思ったけど、冷静に考えてみれば、ネムちゃんの扱いは既に相当大切にされてるとみて間違いない。


 ネムちゃんが好き勝手してても、基本的に放置だし。体罰とか無いし。


 私がネムちゃんの教育係だったとしたら、既に何回ぶち切れて情け無用の矯正地獄にぶち込んでいるか定かではない。私は可愛い子を可愛がるのは好きだけど、我儘な子の世話をするのはとっても苦手なので。


 ……違うの。変態賢者アドラスの良いトコ探しをしたい訳じゃないの。


 私はただ、致命的に頭脳極振りなこの変態賢者の、心底嫌える悪い所を探してだね……。


 ちらりと表情を確認すれば、私を見下ろす冷たい視線と目が合った。

 嫌悪感を隠そうともしないその瞳は口よりも余程雄弁に毒を吐く。即ち「気色の悪い顔で見るな。穢れが移る」と。ほぉーう。ふぅーんそっかぁああーー、ふうぅーーん。


 結論。

 やっぱりこのオッサン、私と致命的に合わないわ。美的感覚とかその他諸々。


 さっさと知識だけ絞り出してポイしちゃおう。と、丁度考えていた時だったから、その質問の意図はよく分かった。


「――というのが私の持論だ。が、現実には魔法の素質というのは個人差が大きい。ソフィア・メルクリス。貴様も独自の魔法理論を持っているのではないか?」


「そうですね」


 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれませんね。


 私は意図的に言葉を止めた。不快げに片眉を上げられたって知ったこっちゃない。


 で? それが何か?

 私が独自の魔法理論を持っていたとして、それがあなたに関係あります?


 確かに話は興味深く聞かせてもらったけど、正直なところ、私は別に現状の理解で困っているわけではないんですよ。あなたと違って、別方向で相談出来る相手もいますし。そう、あなたとは違って、ね?


 等価交換。話した分だけ話せという理屈は分からないでもないが、私が子供だと思って与しやすいと考えているなら改めて貰う必要がある。


 私は礼節を持って接してくれる相手にはおまけ気分でぽいぽい重大情報とか漏らしちゃうけど、いけ好かない相手に「上手く口を滑らせてくれたなら儲けものだ」みたいな馬鹿にし腐った対応されたら意地でも口を開かない頑固者だよ。むしろ自分の利益とか度外視して相手の不利益を最大化する為に頑張っちゃう。悪をのさばらせても良い事とかないので。


 なのですっぱり断言させて頂こう。


「先生のお話も興味深かったですけど、私の解釈が広がるものではなかったですね。魔法の素質にはやはり個人差が大きいみたいですね?」


 にこりとお母様譲りの笑顔を浮かべれば、おっさんも「ほう……」と頬を引き攣らせ視線で威圧。でも効きませーんー。冷たい視線なんてお母様で嫌ってほど慣らされてますのでぇー。


 バチバチと、交差する視線が火花を散らしている真っ最中。

 放置された形になったネムちゃんが唐突に私の腕を引っ張った。なんですかネムちゃん。


「ソフィアー。さっきの魔法もっかいやって?」


 さっきの? 水を凍らしたやつかな? あれは気温変化の応用で……。


 どう説明したものかと悩む私に、変態賢者、勝ち誇った顔で鼻を鳴らした。教師が生徒に向ける顔じゃないよねそれ。


「そうだね。アドラスさんをもう一度氷漬けにしながら説明しようか」


「おおー!」


「《昏睡》」


 ふはは、残念だったな! 私に状態異常系の魔法は「ぐう……」ってネムちゃーん!!


 や、やはりこんな変態の元にネムちゃんは預けておけぬ!


 今ここで、私自ら成敗してくれる! 覚悟しろ!!


教師。女生徒。秘密の関係。

……それに加え、手馴れた眠らせ方と、密室を用意できるだけの権力。

ソフィアはモテなさそうな男性に対する偏見が半端なかった。

チャラ男に対する偏見も相当だけど。

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