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授業の範囲を超えるとこうなる


 考えてみれば、当然のことではあるんだけど。


 ミュラーとカレンちゃんによる世紀の大決戦は、環境破壊に伴う轟音と振動に慌てて飛んできた教師たちによって止められる事となった。


「貴方達は、一体何をやっているんですか!?」


「ただの模擬戦です」


「そ、そうです。模擬戦です」


「この惨状が模擬戦だとでも!?」


 そう言って手で示す男性教諭の後ろには、あちこちで爆発でも起こしたような、荒廃した大地が広がっている。むしろ平らな地面が存在しない。


 この凄惨な戦場跡をここにいるオドオド系乙女が一人で作り上げたと言われてどれだけの人が信用するだろうか。少なくとも、学院に入学した頃の私だったら「まさかあ」と出来の悪い冗談としか受け取らなかった自信がかなりある。


 でも、悲しいけどこれ、現実なのよね。


 あの頃のへにょへにょ剣を振るうカレンちゃんはもう何処にも存在しない。


 今のカレンちゃんは「速さで敵わないなら、力で解決すればいいじゃない!」と言わんばかりに相手が立つ地面を陥没させながら歩く破壊神になってしまったのだった。


 もう農家にでもなればいいんじゃないかな。

 若しくは土木工事なんかも向いてるかもね。力なら有り余ってるみたいだし?


「バルクス先生が着いていながら何故こんなことをお認めに!?」


「いや……そうは言っても【剣姫】ミュラー・セリティスの模擬戦ですからな。これくらいは……」


「去年はここまでではなかったでしょう!! 絶え間ない破壊音と振動で、校舎の方では避難が始まっていたところもあるんですよ!!」


 え、そんなに?


 なんだかんだ言って私もカレンちゃんの地面爆砕剣に慣れすぎていたのかもしれない。そう言われて思い返してみれば、観戦組が《加護》を使える生徒の後ろに集まり始めたのはカレンちゃんが暴れ出した後かもしれない。


 そうか、あれは守る側がやりやすいよう一所に集まっていた訳ではなく、単に恐怖から身を守る為に集団を形成するという、本能的な行動だったわけか……。となるとあの時の表情も、驚愕ではなく、恐慌……座って観戦し始める人がいたのも腰を抜かしていたからという可能性が……。


 現状の認識を正していると、怒り狂っている男性教諭の前にヒースクリフ王子が相対した。にこりと微笑。たじろぐ男性教諭。うわ王子強い。


「ヒルディス先生、それ以上昂られるのは危険です。どうかその辺りで。……この件は、止められる立場にありながら傍観した私にも責任があります。叱責は全てこの私が」


「お気遣いありがとう、ヒースクリフくん。けれど、学院内で公的な立場は無用。この場の責任は全て担当教諭であるバルクス先生が負うべきであると認識しています。……よろしいですね?」


「ああ、責任は俺が取る。なぁに、あんな激しい戦いを見せてもらったんだ。その礼くらいはしなくちゃならんさ、ははは、はは……はあ」


 あれ、先生今日はやけに静かだと思ったらもしかしてまだ落ち込んでる? 自分は瞬殺されたのに、カレンちゃんはミュラーといい勝負してたから? いつもの大声を封印する方法は自信を叩き折ることなのかな。ふぅん、そっか……。


「ソフィア、ちょっと」


「ん?」


 大人達の会話に耳を傾けていたらカイルから人気のない方へと呼び出された。なんだいと思いつつも着いていけば、やけに深刻そうな顔をしたカイルが振り返る。


「そろそろ見過ごせないと思って、ウォルフに話を聞いたんだ。聞いたんだけど……その、ソフィアの意見も聞かせて欲しい……」


 なんだろ、困惑? 戸惑い?

 意外と気が利くじゃーんと褒めてやろうと思ったのに、なんだかそれどころじゃなさそうな様子。弱り切っているように見える。


 一体どうしたのかと話を聞けば、ミュラーだけではなく、ウォルフも大分壊れていることが判明した。


「『真実の愛』って……それ本当にウォルフが言ったの?」


「ああ。『俺は確かにミュラーを想ってた。その気持ちは本当だ。でも、俺は彼女に出会って、真実の愛を知ったんだ。もう知らなかった頃の俺には戻れない』って。……俺が離れた後は、また二人で抱き合ってたよ……」


 ツラい。ヤバい。さぶいぼ立った。私を鳥肌乙女にするのはやめておくれ。


 言ってることはまだ辛うじてわかる。私もお兄様との間に運命感じちゃってる系乙女なので。


 でも肉体関係持ってからそのセリフ言っちゃうのはナシなんじゃないかな。結婚詐欺師でももうちょっと上手い言い訳するんじゃないかと思う。かと言って素直に「彼女の身体が最高だった」とか言われてもウォルフの最低さが際立つだけではあるんだけど、もうちょっと、こう、ミュラーに対する思い遣りみたいなさあ……。


 ……やっぱウォルフって最低だな。


 結局この結論しかない気がしてきた。

 ウォルフはもう、真実の愛とやらにお任せしちゃお? その分私達でミュラーを慰めればそれでいいね。


 ただそうなると、ミュラーとの約束である本気戦闘は、正に打って付けのイベントと言えなくもなく……。


 着々と逃げ場が無くなっていくこの感じ。


 私なんか悪いことでもしたかな。


地面爆砕剣。

それは、カレンがソフィアとの戦いの末に生み出した、攻防一体の通常攻撃。

受けるには強く、紙一重で避ければ地面は消失し、土礫は視界と行動を阻害する。

ついでに戦闘継続も阻害する。陥没した地面誰が直すの。

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