落っこちたフェルの後を追いかけよう
「あっ」
両親と一緒に空の旅。
魔物の被害で食べ物に困っている村に食糧を届ける役目の途中、空でのハプニング。
「ソフィア、どうしました?」
「フェルが落ちました」
「連れてきていたのか!?」
えっ、連れてくるよ。森に連れてくと喜ぶもん。
自分から飛び降りたし落ちても大丈夫な気はするけど、一応捕まえておこう。
「急降下しますから、どこかに捕まっていてくださいね」
「え?」
お父様とお母様を『拘束』の魔法で荷台に貼り付けて、ついでにお母様の魔法を真似た『消音』の魔法もかけて、発進。
水平飛行からの急転直下。ジェットコースターみたいでちょっと楽しい。
フェルには簡単に追いついた。
手を伸ばして捕まえようとしたらスルリと躱され、更に急加速。
私のペットながら多芸が過ぎる。
どうやら自分の意思で降りているようなので捕まえるのは諦めて、こちらも安全に降りていくことにした。後ろの二人が怖いしね。
とか思っていたらエッテも消えた。
袖の中にさっきまでいたのに、フェルを見るために強化していた視界に残像すら見せることなく消えた。
行き先はフェルのところだろうけど、温もりが消えると心細くなるね。
早く追いついてあげよう。
森の中に降り立つと同時に魔法を解くと案の定、お母様に叱られた。
消音の魔法は緊急時に味方にかけないことと、体の拘束をするなら一言かけるべきだと涙目で訴えられた。
そこに含まれていない急降下が怖かったんだと思うけど、言ってることは納得できたので素直に謝っておく。
お父様は透明化を解いたら直ぐに荷台から降りて、森の奥を注視していた。
その視線の先には、でっかいフェレットに抱きつく二人の少女。
フェルだよねあれ。
「キュイ」
すてててーっと駆け寄ってきたエッテが腕に登ってきて、手を出すように指示された。
森に連れてくると、この子らは本当にイキイキとする。
普段からかわいいんだけど、森の中だと躍動感というか、常に動きっぱなしというか、楽しげなのが伝わってきてほっこりするのだ。
「キュイ」
「あっごめん」
ご要望通りに手のひらを広げると、その上に小さな赤い粒が二つ乗せられた。んん? 今どこから出した。
「魔石ですね」
後ろから覗き込んできたお母様が鑑定してくれたところによると、これらは小粒ではあるがちゃんとした魔石らしい。
これが、魔石。
透明で、赤くて……BB弾かな。
「お母様、持っていていただけますか?」
薄く発光してるし綺麗だけど、こんなちっちゃいの無くしそうで怖い。
どうせならもっと大きいのが欲しかったな。
魔石って魔法用乾電池みたいなものらしいし、いくつかあったら工作の幅も広がりそうなんだよね。
「ええ、預かっておきましょう」
お母様とのんびりしていたら、お父様がこちらに背を向けたまま近づいてきて、小声で警戒を促した。
「魔物に気付かれた。なんとかする手段はあるか?」
剣を抜いて警戒するお父様の視線の先には、首を持ち上げこちらを窺うフェルの姿。その体からは魔物の証明である悪意が立ち上っていた。
飼い主すら知らないフェレット秘奥の技のひとつ。その名は、頬袋!