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男子という生き物


 私ね、思うんだ。


 被害を受けた時に泣き寝入りするのって、次の被害者が生まれるのを黙認する行為なんじゃないかなって。


 加害者に罪を認めさせて、それは悪いことなんだよってちゃんと諭してあげることが、負の連鎖を断ち切る事に繋がると思うんだ。


 だからね。


「カーイル♪」


 私がカイルに八つ当たり……じゃなかった。


 不当な嘲笑を受けた責任の所在を明らかにし、正当な教育を施すのは、言わば(しつけ)


 誰がご主人様なのかを理解せずに相変わらず生意気な態度を取り続けるカイルに、上下関係というものを叩き込む為の正義の行いなのである!!


 だから思う存分弄ってあげるんだーうふふー♪


 と、意気揚々近づいた私に、カイルは露骨に呆れた表情になった。


「お前そんな性格でよく聖女なんてやれてるよな……」


「やりたくてやってるわけじゃないから!」


 しみじみ言うな、心に刺さる!


 的確に私の心にダメージを与えるカイルは、やはりいつかは倒さねばならぬ相手なのだと確信した。


「つーかお前、なんで俺のとこ来るんだ」


 カイルの視線が私の背後に向かう。


 いや、うん。彼女たちが興味深そうに私たちを観察してるのはこの際置いておこう。


 私の穢れた心では久々に感じる彼女たちの清らかパワーに耐えきれそうになかったから、存分に反撃できるカイルをちょっとサンドバッグにしに来ただけなんだ。


 大人しくボコボコにされてくれたらすぐ戻るよ。あまり長居すると後が怖いし。


「カイルが失礼なこと考えてそうな顔で私の方見てたから注意しに来た」


「また言い掛かりかよ……」


 言い掛かり? ははん、そんな言葉で逃れようったってそうは問屋が卸さないよ!

 カイルがあんな半眼で私を見る時は、大抵呆れ返ってる時だって知ってるんだからね!!


「やましい事がないのなら、何を考えてたのか言えるよね?」


 にっこりと、笑顔で懺悔を促せば、カイルはついと視線を逸らしながらぶっきらぼうに答えた。


「女子は抱き合うのが好きだなって思って見てただけだよ」


「なるほど。女の子同士の触れ合いを密かに観察して悦に浸っていたわけだね。ギルティ!」


「言ってねぇだろ……」


 いーや、あの顔は見てたね。

 私とぱっちり目が合ったって事は、私の顔に押し付けられてたささやかな膨らみが形を変える様をじっくりねっとり観察していた何よりの証拠!!


 無関心な草食系のフリして、その実むっつり男子代表であるカイルが考える事なんか、私にはまるっと全てお見通しなのだよ!!!


「あーあ、カイルってばいやらしいんだー。カイルに憧れてる女の子が知ったらどう思うかなー」


 煽りに煽りまくる私の言葉にカイルは焦るでもなく、僅か俯いた顔の奥で、密かに口元を笑みの形に歪めていた。な、なにさ。


「……いやいや。いつもそんなことばっかり考えてるソフィアには敵わねぇよ。そうか、ソフィアは女子が抱き合ってるとそんな風に思うのか。そうかそうか」


 …………これは宣戦布告と受け取っていいのかな? いいんだよね?


 おっしゃあ受けて立つぞぅ後悔しろカイル!!


「……そんなわけないでしょ? カイルがいやらしい目で見てるから、それをやめてって言いに来たの。女の子はそういった視線にすぐ気付く――」


「ちょーっと待ってもらおうかソフィアさんっ! キミは男子を誤解しているッ!!」


 本物のエロ猿が乱入してきた。違った。かろうじてクラスメイトの某男子だった。


 私の口撃を邪魔してはっ倒したくなる程のドヤ顔を決めた男子は「ふっ」と鬱陶しさ全開の仕草で前髪を払うと、指を左右に振り、「確かに。確かにカイルがむっつりドスケベなのは否定できない。だがっ!」とカイルをディスった後、強く自己主張をし始めた。


 そして高らかに宣言。


「エロさではっ! 俺には遠く及ばないっ!!」


 ――……その瞬間、教室から一切の音が消えた。


 シーンと静まり返った教室で、女子も大勢集まっている教室で、意味不明なカミングアウトをかましたこの男は何故こうも堂々としていられるのだろうか? 私には不思議でならない。


 そうか、これが男子か。確かに私は男子というものを理解できていなかったようだ。


 男子って、本当に頭がおかしいんだね……といっそ同情するような気分でカイルに視線を向けると「あれと一緒にするな」と心底嫌そうな顔で睨まれた。だが残念だったな。貴様はアレと同じ男だ、ふはは。


 ――そうしてカイルで遊んでいたから反応が遅れてしまった。


 堂々と変態アピールをしていた変態はニヤリと口角を上げ、


「本当のいやらしい目付きっていうのは、こういうっ、! ぐほぁ!!」


「……あんた、誰の許しを得て口を開いてるの? あたし、教室では女子と喋るな見るなって、何回も、何回も何回も、教えたよねぇ?」


 にゅるりんとキモい動きで近付こうとした害虫を一撃の元に叩き潰す、女神が降臨していた。


「あ、ありがとう……」


「いーえ。悪いわねうちのバカが。ちゃんと躾ておくから」


 か、かっこいい……! なんて見事なボディブロー! 


 そうか、男子はこうやって飼い慣らすのかと納得した私にカイルが一言。


「あれと一緒にすんなよ?」


 念を押すほど嫌か。……嫌なんだろうな。


物理で黙らされた彼はその後、「ソフィアとカイルを見守り隊」のメンバーに更なる追撃を受けたとか。

女子たちに罵倒される彼の顔は、それはそれは幸せそうだったそうな。

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