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彫ってないけど彫刻


 植物魔法は使えなかったけど私は元気です。


 そもそもね、新しい魔法とかそんな簡単に出来るものじゃないから。


 既存の魔法の応用だって下手したら数時間程度は掛かるんだから、それが新しい魔法なら数日以上かかるのはむしろ当然というか……いや閃きの神が降りてくればその限りではないんだけどさ。


 とにかく、行き詰まったら別の事をする。

 できないんじゃなくて、すぐにはできない。これが出来るようになるコツね。



 というわけで、同じく上手く出来なくて詰まってたアネットのお土産用彫刻作りを再開し、植物の成長を促す過程で鍛えられた想像力で、石の塊をうにょうにょっと変形させればハイ完成。


 題して「頬袋は宝物庫」。


 可愛らしい栗鼠(りす)の彫刻のできあがりだーい! いやっふぅ!


 所要時間は僅かに二十分程度。こだわりポイントはフェルを参考にしたおヒゲ様ですかね。


 なにぶん私の想像力を基にしてるもので、食い意地張った表情がちょっと予想以上にフェルっぽくなっちゃったかもしれないけど、まあそこもご愛嬌ってことでひとつ。

 アネットとフェルが仲良くなるきっかけにでもなるといいよね!


 なお「彫っても刻んでもいないのに彫刻? むしろ粘土細工の亜種じゃないの?」というような苦情は一切受け付けておりません。


 世の中結果が全てなのだよ、結果が!


 かわいいは正義だし、楽ちんで見た目もキレイに出来るならそれが一番なのだよ!!


 努めて自分の彫刻の技量から目を逸らし、完成品の出来栄えを再点検。


 目立った粗はなく、頬を膨らませたせいでもわさっと広がってるおヒゲがなんとも可愛い。

 完コピでもないのに中々上手く出来たんじゃないでしょーか。


 少なくとも何時間も掛けて「…………齧歯類(げっしるい)、かな」としか分からないような純粋な彫刻を作るよりはよっぽど有意義な時間の使い方ができたと思う。


 ……いいんだ。彫刻が出来なくたって、何も困らないもん。


「リンゼちゃん、馬出してー」


 とにかく、これでお土産は完成した。つまりはもう、見本を手元に置いておく必要はなくなったということだ。


 ならば早速次の行動をとリンゼちゃんにお願いすれば、優秀なる私の専属メイドさんはすぐさま意を汲み取って棚からひとつの木箱を取り出し、私の元へと持ってきてくれた。


「はい、これよね。……どうするの? 自分で持って行く?」


「あー、そっか。どうしようかなー」


 簡素な作りながら中々立派な木目が映える木箱を開ければ、そこにはお兄様用のプレゼントである馬の彫刻が。初めて見た時と同じように勇ましく前足を掲げている姿で収まっていた。


 念の為に汚れを除去。

 仕舞うときにもやったけど、一応ね。


 鈍い光を受けて存在感を増す彫刻を蓋で隠し、再度飾り紐で封をする。その後少しだけ考えて、箱の下部にデフォルメした馬の頭を。裏面下部には「親愛なるロランドお兄様へ。お兄様の最愛の妹、ソフィアより」と書き加えてみた。即座にインクを乾かす。


 …………兄妹での贈り物でも、これくらいはアリだよね?

 お母様とアイラさん、それにアネット用の彫刻には、箱すら付けてないけど……。


 ……あーっと、ほら。お兄様の馬のやつだけはほら。箱に入れた状態で飾らないとすぐにでも倒れて壊れちゃいそうなポーズだったから。ね?


 栗鼠のはどれも倒れても問題なさそうだし。っていうか、コロンって転がるだけで済みそうだし。ね、ねっ?


「……いいや。自分で持ってく」


「そう」


 とりあえず栗鼠の彫刻には花でも持たせよう。


 渡しに行く途中で、庭にある花壇から適当に一輪摘んできて持たせたら、それだけで結構いい感じになると思う。

 女の子は何歳になっても花が好きだからね。


「さて!」


 声を出して気合を入れつつ、これからの行動を考える。


 プレゼントの準備はできた。

 お母様とアイラさんには同時に渡すとして、ならアネットを最初に。お兄様には最後に渡すようにすれば……。


 プレゼントを口実に、夜のお兄様の部屋に入り込むことが可能…………ッ!


 まあその場にアネットでもいたら嫉妬で心が潰れちゃいそうだけどね。そのくらいのリスクは背負うよ。


 そうと決まれば早速屋敷内を探査。

 今屋敷にいるのはー……残念、アイラさんだけか。みなさんお忙しいのね。


「アネットが帰ってくるまで、お昼寝します!」


「……そう。なら私は他の人の仕事を手伝ってくるわね」


「いってらっしゃい!」


 リンゼちゃんも働き者で、私もご主人様として鼻が高いよ。……って、そういえばリンゼちゃん用のお土産はお菓子だけだったな。あまり物欲がありそうには見えないけど……。


「……なに? また何か企んでるの?」


 じっと見てたら警戒されてしまった。メイドにあるまじき発言だと思う。


「いやー? そういえばリンゼちゃんの部屋には入ったこと無かったなと思って」


「別に面白いものはないわよ」


 だろうね。

 だから物を増やそうと画策してるんだもん。


「……用はないのね?」


「うん。いってらっしゃい〜」


 手を振って、訝しむリンゼちゃんを送り出す。



 …………さて。


 もう一個彫刻、作りますか。


彫刻以外のお土産は既に屋敷内に分配済み。

使用人の間でソフィアの評価は上がったけれど、その代金を出した真の功労者は、未だ溜まった仕事に忙殺されているようだ。

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