お父様を連れて空を飛ぼう
収納魔法なんて誰も考えたことがないそうだ。
そもそも、魔法をまともに使えるのは貴族のみ。貴族は人を使う階級の人達なわけで、荷物運びに頭を悩ませることもない。
お母様のように魔道具で人の暮らしを楽にしようとする人すら稀で、そのためだけの魔法を生み出そうとするなんて奇人の域なんだとか。
奇人ですみませんね。
山と積まれた食糧袋を魔法で異空間に放り込むとお父様が感嘆の声を上げた。
「はー……すごいな」
すごいらしい。
自分でもすごいと思うよ。
あんまり考えないようにしてたけど、私のアイテムボックス(仮)の魔法って、収納魔法の域じゃないよね。
だって中身、宇宙よ?
地球だって宇宙から見たら砂粒みたいな一欠片なのに、その大元の宇宙をひとつ作っちゃうって普通じゃない。
宇宙を作る人を魔法使いなんて呼ばない。
それは神様って呼ばれるんだ。
たかだか重い荷物を運ぶのに、ちょちょーいっと宇宙を作って荷物置き場にしちゃう神様。
そんな神様は嫌だ。
「空を飛ぶための荷車は外に用意してあります。行きましょう」
「お、おぉ」
お父様の反応が過剰だ。
そういえばお父様の前で魔法って使ったことなかった気がする。
いつか火球の魔法を見せてもらったことがあったけど、今の私なら太陽だって作れそうだ。成長したな。とても見せられないけど。
しかし宇宙と太陽なんて、本当の神様っぽいな。
……もうちょっと可愛らしい魔法少女ちっくな魔法も考えとけばよかった。
なんて益体もないことを考えながら透明化の魔力も塗り終わった。
お父様の反応は予想通り。
子供みたいにはしゃいでお母様に窘められてるなんて、さっきの威厳ある領主と同一人物とは思えない。
この後空を飛んだらはしゃぎすぎて落っこちそう。気をつけておかないと。
「じゃ、飛びまーす」
「うおおぉぉ!!」
「アナタ、静かにして下さい」
ちょっと浮いただけで大興奮だ。
一応、私の魔法を隠すために人払いもしたって言ってたのに、自分で呼び寄せてどうするんだ。
まぁ姿は見えないし、精々メイドたちの間で「姿は見えないのに旦那様の声がする!」と話題になるくらいで済むだろう。
お父様はお母様に任せて、出発前に見た地図を脳裏に呼び起こす。
目的地は、崖崩れで主要な道が不通になった村。
商人の行き来がなくなり、森の状況によっては既に食糧難が始まっているかもしれないということだ。
急がないと。
「ソフィア、すごいなこれは。もっと速度は出ないのか? 高さはどうだ?」
「アナタ、落ち着いて」
お父様うっさい。操縦中に話しかけないで。
その日、メルクリス家の屋敷では謎の咆哮がちょっぴり話題になった。