魔物の必要性
必要の無いこと。
必要のなくなったこと。
でも、思い出したからとりあえず聞いちゃう。
だってリンゼちゃんは聞いたら大抵答えてくれるけど、ときたま「聞かれなかったから」とか言って超重要情報スルーするから!! むしろしつこく聞いとかないと「そういえば今日は世界が終わる日だったわね」とか突然言い出しかねない怖さがあるから!!!!
というわけで、聞いてみました。
「ねえリンゼちゃん。魔物って、もしも絶滅させたら何か不都合とかある? 神様的に」
お母様からの話では絶滅までさせる必要はなさそうだったけど、何度も魔物退治に駆り出される可能性とか考えたら、魔物なんていない方がいいよね。
今すぐやろうとか思ってるわけじゃないけど、可能性くらいは考慮しておいても良いと思う。
……でもきっと、魔物はこの世界にとって必要な――。
私の予想を裏付けるように、リンゼちゃんは今回も、軽ぅーい調子で不穏な言葉を口にした。
「神様的に……。少なくとも、人間が困る事態は発生するわね」
「ですよね!!」
うん、知ってた!!
そうじゃなかったらそもそも魔物なんか作ってませんもんね! みんなの悪意の吸収装置だもんね!!
それ自体は以前に聞いてたし、特段驚く事でもないんだけど。
でもさー、悪意回収が目的だけならもっと他にやりようがあると思うんだよねー。ニチアサの幼女向けアニメじゃないけど、悪意で動くゴーレム的な。さもなくば、キラッ☆ と浄化してめでたしめでたし的な。
…………自分で考えてて、何を非現実的な事をと思ってしまった。
世界中の何処にも悪人がいない非現実的な世界がここにあるのに。神様がいたり、時間止めるのも過去に戻るのも自由自在な非現実的な現象を散々体験してきてるのに。
私ってよく非常識って言われるけど、非常識なのはこの世界の方だと思うの。
「それで……魔物がいなくなると、具体的にはどういった問題が発生するの?」
とりあえず、今必要なのは知識に情報。
リンゼちゃんと長年一緒に過ごしてきた私の勘が、先程の「困る」発言は人間基準では「人類滅亡の危機」に相等する可能性アリと判断している。
ってゆーかリンゼちゃんも今はもう人間の身体なんだから、考え方も是非人間を基準にして欲しい。女神の力も何も無い、いざって時には守られるしかない子供なんだって事をもっとちゃんと自覚して?
……その子供に世話を焼かれている私は一体、という考えが少し浮かんだけれど、今考えるべきは魔物の存在意義なのであって、私の自堕落な生活態度に関する事ではない。つまり、考える必要ナッシング。
そうだほら、魔物がいなくなると魔石採れなくなるのとか困るんじゃないかな! あとはほらえっとー、……悪意の受け入れ先とか!?
「魔物とは、人の悪意と魔力とが混じり合い凝縮する事で発生する、この世界の理のひとつよ。その魔物の発生を無くす、ということは……世界中で行き場をなくした悪意が精霊や魔力を蝕み、生命を汚染。将来的には人の社会が崩壊する事になるでしょうね。そして余った魔力は魔力溜りとなって……」
「待って待って、ちょっと待って。……生命の汚染、って何? それと、魔力を蝕み〜ってのももーちょっと詳しく」
社会崩壊エンドの方は、むしろ予想より規模が小さくて安心した。いや勿論「それならなんの問題もないね!」って意味ではなく、最悪の状況でもまだ取り返しがつきそうって意味で。どちらにせよそんなリスクを犯す気はないし。
それよりも、悪意で蝕まれた魔力だとか、生命を汚染だとか。
どこぞの誰かさんがうっかり身体中に作りまくって倒れる原因となった暗い魔力を彷彿とさせる単語の方が、私、とっても気になるんです。
あの万能魔力生成の要って、ひょっとして悪意? 魔力に感情をぶち込んで変質させればいいの? それは確かに試してないね。
女神には取り上げられちゃったけど、あの魔力が使えたら…………なんだか出来ることの幅が広がる気がするんだよ?
そんな私の企みに気付いた訳では無いだろうけど、リンゼちゃんはちょっぴり嫌そうな顔をして。
「……それを聞いてどうするつもり? ソフィア、あなたもしかしてまた罪のない動物を殺して実験をするの? 魔物を作り出した私が言うのも可笑しな話だけれど、無益な殺生はあまり褒められた行為では……」
「しないから。しようとも思ってなかったからそんな目で見ないで」
てかリンゼちゃんにそんな風に思われてた事が何よりもショックだよ。いい加減泣くぞ。
……、………………まあ、確かに?
今リンゼちゃんが話したせいで「そんな方法もあったか」と考えちゃったことは事実ですけど?
ついでに言えば「研究目的は無益じゃないよね」とか考えちゃったことも事実ですけど、私だってできれば動物を殺めたくないと思ってるのもまた事実な訳で。
……少なくとも、魔力に感情を混ぜる実験は確定かな。
そんな事を考えながら、今夜もまた、知識と着想が増えていくのだった。
長らく一緒に暮らしていても、元女神様は相も変わらず知識の宝庫。
ただ、忘れてはいけない。
彼女の知識は基本的に更新されない、古い情報だということを。




