旅行後の家族会議
旅行は楽しむものって意識しか無かったから忘れてたけど。
こないだ行った旅行。元々はお父様のお仕事見学だったんだよね。
「ソフィア。これで貴女も、自分の立場が分かったとは思いますが……」
家族四人揃っての家族会議。
今日もお母様裁判長による、簡易裁判が行われようとしていた。
「現在、王国では魔物の増加による諸問題が発生しています。そして、ソフィアにはそれを解決する手段がある。この意味が分かりますね?」
「え? ……えっと」
いきなりとかやめてよ。
名指しするならせめて、はいかいいえで答えられる質問が良かった。いやそもそも呼ばれないのが一番良いのだけども。
必死に頭を回転させて、それらしい答えを導き出す。
「……私がその問題の解決に駆り出されるということでしょうか」
「そうなるでしょうね」
えっ、本当にそうなの? そうなっちゃうのか。……そうか。
…………マジかー。
そうなるんじゃないかという予感はあったけど、お母様に言われるといよいよ現実味を帯びてきたな。っていうか、お母様に強制的に実行させられるんだろうな。
もしかして今日のお兄様からのサプライズプレゼントはこの話と連動しているんだろうか。お兄様との愛の巣を守る為に、自らの手で魔物を根絶やせ、みたいな。
どうしよう、ちょっとやる気になってきた私ってちょろ過ぎるんじゃなかろーか。でもでも、魔物が多くていいことなんてないし、この機会に一掃しても……。
んー……よし、決めた。
お兄様との未来の為に、私は魔物にとっての災厄となろう。
「分かりました。頑張って魔物を全滅させます」
むん、とひとつ気合を入れた。
リンゼちゃんやヨルに魔物根絶の是非を問う機会はなかったけれど、増えたものを減らすくらいなら問題はないだろう。二百倍に増えたなら二百匹に一匹見逃せばいいだけだ。余裕だね。
「そう。既に覚悟が…………いえ待ちなさい。今、全滅と言いましたか? 突然何を言い出すのですか?」
あれ、なんか間違ったっぽい。お母様が慌ててらっしゃる。
ふむん? でも今の話の流れだとー。
問題→魔物の大量発生。
私の立場→魔物を簡単に屠れる手段を多数所持。おまけに移動手段も豊富。
ってことだと思ったんだけど違ったかな。違ったんだろうな。
「なら、どういう?」
素直に疑問を呈すると、お母様は「なんで分からないのかが分からない」とでも言いたそうな顔で私を見ていた。
言われなきゃ分かりませんって。《読心》の魔法は常用してないので。
「……将来的に、魔物退治への協力要請があるだろうという話です。ロランドから専属の騎士団の話は聞きましたね? ヒースクリフ王子を筆頭に、若い世代の実力者であるあなた達が華々しい活躍をすることで、対魔物への士気を高めようという狙いがあります」
えっ、神殿騎士団の筆頭って【剣姫】の称号持ってるミュラーじゃないの? 表向きには王子様が筆頭なんだ。へえー。
私としてはそこが一番気になった所だけど、お母様の言いたい事は把握した。
要は神殿騎士団のみんなも含めた私たちが、いつ「ちょっと魔物退治してきて」と言われても良いように準備しておけってことね? それくらいなら楽勝……いや、ホントにそれだけ? それだけの事にミュラーとカレンちゃん、それに私が魔改造して魔力のタガが外れたカイルが出張るとかちょっと過剰戦力がすぎませんかね。それなんて勇者パーティ……うん?
思い付きで浮かんだその単語の、あまりのハマりっぷりに思考が止まった。
剣も魔法も使える王子様に? 剣姫と聖女。そして腕力最強の戦士ちゃんにおまけのカイル。
…………本物の勇者パーティだった!!?
お、おおう。これに攻撃魔法役でもいたら、もう完全に魔王討伐パーティ……ネムちゃんだね! 攻撃魔法でパーティの火力を担い、しかもその正体は魔王だなんて、これもう完全にネムちゃんの為だけに用意された配役だよね! 物語が盛り上がっちゃう!
……あー、なんか久しぶりにゲームしたくなってきたかも。
お菓子とジュース用意して、だらーんと一日中ピコピコしてたい。大体物語成分が少なすぎるんだこの世界は。もっと娯楽製品を充実させろお! 本でもゲームでもいいから、私を楽しませる何かをください!!
「……ソフィア。聞いていますか?」
「聞いてます!」
っと、いけない。
えっとなんだったっけ。そう、私の騎士団が王子様ハーレムで勇者パーティだったってトコだったね。王子様ハーレムではなかったけどね。
……しかしこのパーティ、勇者と魔王が敵対した時点で勇者側に残る人材が存在しないな。みんな揃って魔王側に寝返っちゃいそう。
しかもあの王子様じゃ一人ずつ相手にしても私達の誰にも勝てなさそうだし……。カイルで運が良かったら程度? 後はもう、うん。ご愁傷さまです。
「聖女として、魔物退治に行く心構えをしておく必要があるという事ですね」
魔物退治、ねえ……。
経験値かドロップアイテムでもあればいいんだけどな。
ヒースクリフ王子の剣術、及び魔法の技術は例年の基準からすれば驚く程の高水準。
ただ同世代に、ちょっと規格外が多すぎた。
なお半分くらいはソフィアのせいです。




