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幼メイドの恋愛事情


 お兄様の愛が留まるところを知らない。


「リンゼちゃん。私はもしかしたら、お兄様の愛に溺れて死んでしまうかもしれない」


「そうね。そうかもしれないわね」


 現実味を帯びてきた懸念を口にした私の目の前を通過して、抑揚のない声で返事をした幼いメイドさんが締め切られた窓を開いた。窓枠がキィと音を立てる。


 ……リンゼちゃんが窓を開けに行ったタイミングと被ったせいか「これで酸素は心配ないわね」という幻聴が聞こえたが、私の可愛いリンゼちゃんはそんなウィットに富んだ対応はしない。「これで少し頭を冷やせば?」という遠回しな嫌味でもなんでもなくて、単に換気したくなっただけだと思う。多分。


 外の風景に目をやり、髪を指で撫でつけるその澄ましきった横顔には、私との恋バナを楽しもうとする気配は微塵もない。


 試しに「ねー、リンゼちゃんもそう思わなぁい?」と再度同意を求めてみれば、「そうね、私もそう思うわ」と実に平坦な声で返されてしまった。


 嘘つけ。リンゼちゃんが「大変、このままじゃ愛に溺れちゃう!」なんて思ってそうな場面なんか一度だって見た事ないわ。むしろ見たいよどうやったら見せてくれるの!?


 ――端的に言えば、私の言葉は完膚なきまでに聞き流されていた。


 全く全く、相槌だけはやたら上手くなっちゃって。リンゼちゃんにも困ったものだよ。


 リンゼちゃんももー少し人の気持ちに配慮すると言うかー、おしゃべり? 雑談? 心の余裕? そーいった柔軟性が欲しいところだよね、うんうん。そんなんじゃ恋人だってできないぞう?


 そんなことを思ったところで気が付いた。


 ……そういえばリンゼちゃんって、そういう相手いないもんね。経験がないんだもん、恋の相談をされても困っちゃうよね。これは私が悪かった。


 初恋も知らない少女に恋の苦しみを語ったところで同意が得られるはずもない。

 むしろ私がリンゼちゃんの恋の相談に乗るべき立場なのではないだろうか?


 素敵なお姉さんで、恋をしている真っ最中。

 学院でも様々な恋の話を見聞きして、なんと王子様にさえ告白された経験がある最も身近で親しい女性。


 恋という喜びと不安が交錯する心の迷宮には、私という導き手が必要なのではないだろうか。必要不可欠なのではないだろうか。いや確実に必要だろう、この恋愛を熟知したお姉さんの手助けがっ!!


 窓縁に手をかけ、まるで一服の絵画のように静かなる美を体現するリンゼちゃんを見て、その心の内に吹き荒ぶ寂寥の感を幻視した。


 ふっ……。私に任せておきたまえよ、リンゼちゃん。


 私の手にかかれば、リンゼちゃんをその寂しさから救い出し、誰からもチヤホヤされて男の子にもモテモテになっちゃって「やーん愛されすぎて困るぅー」と人に相談したくなっちゃうくらいの人気者にする事など容易いと証明してくれよう!!!


 となるとー、お化粧とかお洒落とかも悪くは無いんだけどー、最初はやっぱりアレでしょ、アレ♪


 女の子は恋してる時が一番っ! かっわいいんだよねぇ〜!!


 というわけで、己の使命を自覚した私は、早速リンゼちゃんに突撃インタビューを敢行することにしました!


 レッツ幼女メイドのかわいさデビュー!


「ところでリンゼちゃんって、自分が恋をしたりはしないの? 気になる男の子とかー」


「ないわね」


 躊躇もなく断言。ふむふむ、現在気になる男の子はいない、と。


 心のメモ帳を捲り、バッテンをひとつ。

 リンゼちゃんの交友関係や過去から、他に有り得そうな人物は、と。


「なら憧れのお兄さんとか」


「いないわ」


「昔の幼馴染とか」


「興味無いわ」


「同僚は? 使用人さんとか出入りの業者さんとか」


「そういう対象ではないわね」


「街で出会った人とかは? よく買い物に行くお店の店員さんとかいるよね?」


「顔と名前くらいなら覚えているけど?」


「……実はお兄様が好みだったり!?」


「しないわよ」


 何も聞いても無反応。恋のコの字も知らないような状態だった。


 だーっ! もおぉ! つまんなぁい! もっとドキドキワクワクの恋バナしよーよぉ!

 でないとリンゼちゃんの趣味が実は白髪混じりの老人だとか、筋肉ムキムキのマッチョメンにしか目移りしないとか、あることないこと言っちゃうよ? メイドのみんなに言っちゃうよ!? それでもいいの!? よくないでしょ!


 むー、恋は素晴らしいものなのに……。リンゼちゃんがここまで恋愛に興味が無いとは知らなかった……。


 これはリンゼちゃんの主人として大問題なのではなかろーか。


 お母様もメイドの婚期には気を配ってた気がするし、メイドの恋愛には主人の助力が必須。つまり私が頑張ってあげないと!


「リンゼちゃん、安心してね。私がリンゼちゃんに相応しい男の子を探して来てあげるから!」


「……さっきから何の話? またアイリス様に叱られたいの?」


 ししし叱られたくなんてないやい! ただちょっと、リンゼちゃんの照れ顔が見たいだけで……。



 結局この計画は、リンゼちゃんの「ソフィアが男を探してる」という脅しにより中断せざるを得なくなった。


 リンゼちゃん、恐ろしい子!


ソフィアが頑張ると迷惑を振り撒く。

彼女の周りの者たちが彼女の扱いに慣れる事は、必然だったと言えるだろう……。

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