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愛の巣神殿


 その後は神殿内にある居住区画の案内をされることになった。


 私ね、神殿ってもっとこう、人が集まるだけの施設だと思ってたの。学校の体育館みたいな感じの。


 でも実際は違った。


 お兄様に案内されて奥の扉の先に進めば、そこは確かに、居住する為に必要な全ての施設が整っている空間が拡がっていたのだ。


「寝室に客室、お風呂に調理場。中庭まで……?」


「広くはないけど、悪くない雰囲気だな」


 悪くないどころの騒ぎじゃない。

 この居住区画とやらは、私にとって一種の理想とも呼べる空間だった。


 アネットにしか製法を伝えていない調理器具の数々。

 寝室のデザインも、中庭の造園も、どれもが私の好みに合わせられていて。


 これはもう誤解の余地がない。


 この神殿は――私の為に、お兄様が用意してくれたものだ!!!


「んふ。うふふふふふ♪」


 やばい、笑いが止まらん。


 建物て。家って。


 住む場所をプレゼントなんて、それってもう新居じゃん。愛の巣じゃん。


 両親やメイドもいない。

 誰にも邪魔されることのない場所で、寝室にはベッドがひとつ。それも二人で寝ても余裕のあるサイズがドーンと。んふ。


 これ、やばくない? 我慢する必要なくない?


 この秘密の愛の巣で、私はお兄様との蜜月を迎える。


 そんな未来を想像しただけで……。


 …………身体中から、歓喜の念がッッ!!


「ふふ、ふふふ。ふふふふふふんぐはっ」


「こえぇよ」


 喜びに打ち震える、油断だらけの脇腹に一撃を受け、私はこの夢のような光景が現実のものであると知った。


「だぁって〜嬉しいんだもん。……うふふっ」


「……っ」


 あ、引いた? 今引いたね?


 でも愛する女の子に建物をプレゼントしちゃう甲斐性は、カイルも真似してもいいと思うよ? だってこれ、本当に嬉しいし!


 ドラマなんかで「美しい君にマンションを贈るよ!」みたいこと言っちゃう金持ちキャラを見る度に「なんでマンションなんだよ重すぎだろ常識考えろ」とか思ってたけど、これは想像以上に破壊力がある。


 もちろん好きな人から贈られるという前提は必要だろうけど、この愛の重さ、むしろ「絶対に離さない」と言われてるようで被征服感が強い。愛する人に束縛され、独占され、それだけ強く求められるというのは女としての誉ではなかろうか。私はお兄様の所有物になりたい。


 居住できる家を与えられるというのは当然、ここに住めという男性側からの意思表示であり、家にいてくれという男性からの甘えであり求婚でさえある。つまりはラブだ。ラブが弾けちゃって愛が溢れちゃった結果なのだ。包容力のある女性として「もう、しょうがないなぁ」と困った顔して許してあげなければならないだろう。たわわな胸に頭を抱いて……という胸にだけ頼る短絡的な行動は取れないので、ここは膝枕とかがいいだろうね、うん。


 お兄様が用意してくださった。家。寝室。

 そのベッドの上で、膝枕をしながら囁くのだ。「なんでこんなことを?」「君に僕の愛情の深さを知って欲しかったんだ」強く握られる手と手。「ずっと前から知ってました」「それでも。君の喜ぶ顔が見たかった」


 真摯な瞳。伝わる愛情。やがて唇が重なり、我慢の出来なくなった二人は遂に禁断の扉を開けそして――!!


 うわー! きゃー!! うおーー!!!


 完璧だ!!! なんて理想的な初体験なんだ! これは絶対に一生の想い出になる間違いないッ!!


 そうと決まれば早速……と歩き出そうとしたところで抵抗を感知。振り返れば、赤い顔で手を引くカレンちゃんが。


「えっと、どうかした?」


「あの、あの、そのっ……」


「どうかしてるのはソフィアの方でしょ……」


 横合いから声。

 口を挟んできたミュラーも、その頬は僅かに上気していた。ふむ。


「……もしかして、声漏れてた?」


「も、漏れてない、けど……っ」


 ああ、それなら良かった。私にも羞恥心というものがあるからね。


 だがミュラーは呆れた声で、私の希望を打ち砕いた。


「異常にくねくねして、にやにや笑って。ロランドさんの方を熱に浮かされたような顔をしながら見て、太股を擦り合わせてたりしたら……。……誰だって、何を考えてたかくらいは分かるわよ。まったく、はしたないわね」


 え? 私、そんな? そんなことしてた? いま?


 確かめるようにカレンちゃんを見れば、恥ずかしそうに小さく首肯。その瞬間、私の顔にも熱が集まるのを感じた。


 うおお……恥ずい……恥ずかちい…………こんな私を見ないで……。


 ――っ、待って!? ってことは、まさか!!?


 慌てて周囲を確認! ……カイルがいない!!


「ッ! カイルは!? ヒースクリフ王子は!? まさかっ、見られて――」


「安心しなさい。ロランドさんがすぐに連れて行ってくれたわ。……本当にソフィアには過保護よね」


「う、うん。ソフィア、すごく、愛されてる……」


 や、やめろよう。そんな本当のこと言うなよう、照れちゃうじゃんかあ!


 再度くねくねと身悶えながら、私はそっと下腹に手を伸ばした。


 …………まあ、うん。


 これからは、妄想はほどほどにしよう。


「……君たち、僕の妹で不埒な想像とか、していないよね?」

「いえ!」

「していません!」


一方その頃、ネフィリムは。

「あはははは!はねるー!」

ベッドのスプリングを軋ませて遊んでいた……。

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