優秀みたいだから頑張ろう
最近になって気付いたことがある。
私ことソフィア・メルクリス。
この子、めっちゃ優秀。
うすうす気付いてはいたけど、中身が前世持ちの私だからかな? 程度に思っていた。
だけど、読んだ本の内容は脳内に本ごと収納されてるのかってくらい詳細に覚えてるし。
魔法を使おうと思えばちょいっと使えちゃうのもどうやら普通のことじゃないらしい。
運動性能もバツグンで、かけっこ自慢の年上の子も楽々抜けちゃうくらいだった。抜かないけど。
できないよりできるほうがいいのは確かだけど、私は元来インドア派だ。
運動が好きな子に目の敵にされて、勝つまで勝負だ! なんてことになったら堪らない。能ある鷹は爪を隠すのだ。
でもせっかくの才能を腐らせるつもりもない。
この年にしては優秀、くらいの目立ちすぎない程度に抑えて運動は続けている。両親のお客さんの子供の相手ともいう。
勉強のほうもばっちりだ。なにせ一度聞いたことは忘れないんだから。
家庭教師の先生は質問すればするだけきちんと答えてくれる親切な人で、もはや勉強時間は私の質問タイムと化している。
一回で全部覚えるので復習の時間は必要ないです、なんて言えないので話を逸らす技術もだいぶ上達してしまった。
適当な言い訳を重ね一問一答形式のテストを何回か受けた結果、私は授業時間外にも勉強してるから授業時間には聞きたいこと優先でも問題なく学力を維持できると認められていて、今ではかなりの自由が利く。
授業を受けたり質問をするのに飽きたら、世間話に絡めて旦那さんことデニーさんの話を振れば後はもう終了時間までノンストップだ。
なんでもお母様が間接的に二人の仲を取り持ったらしく、今でも新婚のようにラブラブらしい。
あまりに楽しそうに話すものだから積極的に聞き手に回っていたら、めっちゃデニーさんに詳しくなった。
今ではデニーさんの妹が王都に行くため自分に惚れてた男を利用しちゃう小悪魔系だってことも知ってるし、次の建国祭には奥さんを食事に誘ったあとこっそり首飾りをプレゼントしようとしてることだって知ってる。
あの人ったら嘘をつくとき右眉が上がるからすぐに分かるのよ、うふふ、って言ってた。
筒抜けすぎてデニーさんにはちょっと同情しちゃうけど、幸せそうでなによりだね。
そんな家庭教師も手玉に取っちゃう小悪魔な私は今、鍛錬にはまっている。
身体は子供の頃の運動によって形作られ、大人以降は衰える一方である。みたいな話を前世で聞いたことがあったから頑張ってみようと思い立ったのだ。
大人だろうと実際に鍛えれば鍛えた分だけ筋肉は付くはずだし、我ながら変な勘違いしたまま覚えてるなーなんて思っていた。
だけど私は転生したときに思ったのだ。
あかちゃんお肌すっごいすべすべなんですけど!? と。
お母さんの肌と比べてぴちぴち女子高生のお肌はさすがの若さよ! と図に乗ってた私の鼻っ柱をへし折る肌触り。やめられないとまらない。はぁん、私をいつまでも撫で回してたお姉様、貴女の気持ちが今なら分かる!
もう触ってるだけで気持ちいいの。これが真の若さか。生命の神秘か。だが今やその神秘は私のモノなのだ。これが笑わずにいられようか、うふふふふ。
そう、若さ! 若さこそが肝要だ!
若さとは、可能性なのだ。
それはつまり、私の前に無限の可能性が広がっているということを示している。
ならば、ここで努力をしておけば、将来楽ができるんじゃないか。
優秀なこの身体はやればやった分だけ確実に身につく。努力が報われる。それは、とても楽しいことだ。
自分にだって覚えがある。
子供は物覚えがいい。怪我もすぐに治る。成長の余地がある。ああ、そうだね。そんな時期は確かにあった。
ただそれらが制限時間付きのボーナスタイムで、どれだけ貴重なものかを理解していない。
無駄にした後で、あの時もっと真面目にしていればと後悔する。
人にいくら言われても理解できない。自分で体験して自分が後悔するまで、取り戻せない時間の価値に気付けないんだ。
だからこそ、今。
未だ幼いこの身体は、努力に見合った以上の成果をもたらしてくれると知っている。
ほんの少しの努力が、必ず未来には万金の価値に成ると知っている。
10円チョコがコンビニスイーツどころの話じゃない。
今の私の積み重ねこそが、輝かしい将来の入口へと繋がっているのだ!
というか、剣と魔法のファンタジー世界に転生したんだから、前世では想像も付かない面白い職業があると思うんだ。
就きたい職業があった時に「能力が足りません」と門前払いを食らうなんて想像もしたくない。
だから基礎を鍛えよう。いつか必要になる日の為に。
基礎は日々の継続こそが正道、近道はない。だから今から始めるんだ。早すぎるなんてことは無い。
だって漫画の中のあの人は言っていた。
「努力する凡人は優秀だろう。だが、努力し続ける天才には誰も届かない」と。
「私の話じゃないよ?バレンタインは女友達で集まって持ち寄ったチョコ食べる日だったから」