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魔法に頼りきりの人生です


 好奇心って割と死と隣り合わせだよね。


 私、魔法が使えて良かったって心から思うの。


 ……まあその死にそうになった原因も、魔法が使えなければそもそも起こらなかったりするんだけどね!



 アネットと一緒に朝の訓練を終えた後。

 汗を流す時間をずらす為と理由を付けて、軽い気持ちで「ちょっと最高速を試してくる」と空に上がってみたんだけど、ヤバいくらいの速度が出た。と、思う。


 高速飛翔の影響が地上にまで及ばないように高度は高めで、そのうえ身体強化をガチガチに固めていたせいで体感ではよく分からなかったんだけど、遠目に見えた雲が一瞬で迫ったりしたのを鑑みると、まあ相当速かったのかな、と。眼下に見えた列島も多分、今までに見たことのないものだったし。


 それでね、「ここってどの辺りなのかなー」って思った私は何を考えたのか、それまであらゆる環境の変化から私を守ってくれていた身体強化の魔法を弱めたのよね。


 多分気温の変化を確かめるつもりだったとは思うんだけど、日常生活でさえ常に気温を調整している私の身体は自分が想像するよりも遥かに変化に弱くなってたみたいで、ちょっと強化を弱めただけの筈なのに一瞬で身体が凍り付いたみたいな痛みに襲われてね。慌てて身体強化しなおして、こうしてアイテムボックスを転移ゲート代わりに部屋まで逃げ帰って来たというわけさ。


 寒さって痛いんだね。長らく忘れていた感覚だったよ。


「エッテ、ありがとうね」


「キュイッ」


 エッテの治療を受けてやっと人心地がついたのと同時に、自分の間抜けさにもちょっぴり自己嫌悪しちゃったよね。


 そもそも冷静になって考えてみれば、雲の下って別にそんな低くもないし。むしろ飛べない人からしたらむちゃくちゃ高いし。


 いや飛べたって高いことに変わりはないんだけど、でも山のてっぺんよりもちょっと高いくらいで、気温が低いとは言っても精々真冬並みの気温かなって……思ってたんだけど……。


 いやはや、お空はやっぱり寒いねぇ。私はやっぱり暖かいのが好きだな。


 今まで何処に行っても快適だったのはあくまでも魔法による恩恵のお陰なのであって、魔法に頼らない私なんて、さっき不運にも高速飛翔中の私に轢かれて墜落していった鳥さん並に無力な存在なのだと改めて自覚した感じ。

 所詮私なんか、一度の不運と一瞬の油断が重なっただけで簡単にぽっくり逝っちゃうか弱い存在なんだよね。


 私もう一生この快適魔法の中で過ごすわ。

 暑さ寒さどころか、雨や氷や泥や日光、なんなら槍が降ろうが包丁が降ろうがこの珠肌には何人たりとも到達出来ない絶対安全空間の中で、ぬくぬくと美味しいものだけを食べて、可愛い少年少女たちを可愛がるのを生き甲斐にして過ごす事にするわ。


 この鉄壁というにも生温い頑健極まる防御魔法を破れる者がいるとすれば、それは私の敬愛するお兄様ただひとりだろうね。なんならお兄様には別のものを破って欲しいところではあるけど。


 そう、例えば私の穢れなき乙女の証とか、是非ともお兄様に貫いて――って何を朝っぱらから恥ずかしい! ああ恥ずかしいったら恥ずかしい!!


 これはきっと想定外の生命の危機に晒された本能が「私の鼓動が高鳴っている!? ということはつまり、私は今お兄様の事を考えているのね!!」と普段のドキドキと勘違いして無理やり結び付けちゃったせいだね! あの吊り橋効果的なやつ!!


 もしくは生命の危機に訪れるという生殖本能の活性化!


 死の間際には子孫を残そうとする本能が〜、ってやつかな!? そのどっちかだろうね、うんうん! 


 つまり私の愛がちょろっと暴走してしまったのは、万人に起こり得る自然な反応。決して変態的な感情の発露などでは無いのですよ。うむうむ。



 そんなこんなで必要以上に火照ってしまった身体を静めるためにお風呂に向かうと、丁度シャワーを終えたらしいアネットと出くわした。


「あ、ソフィアちゃんだー。おはよーん」


「おはよーんアネット。我が家のお風呂はどうだった?」


「それね、めっちゃいい感じ! 流石はソフィアの家! って感じだったよ!」


「そっか。喜んでもらえたみたいで良かったよー」


 ゆるゆるな挨拶を交わし、雑談に花を咲かせる。


 お風呂上がりのアネットの姿は、私と同い年にも関わらず、それなりの色っぽさを醸していた。


「……ん? なに、あたし何か変かな? あれ、シャンプーとか残ってた?」


 いけない、じっと見過ぎたか。


 頭髪を確認しだしたアネットに問題ないことを伝え、思わず見てしまっていた理由も遠回しに話す。


「あ、違くて……。その、アネットは私と歳も変わらないのに、女性らしい体付きだなぁって」


「そう? まあソフィアちゃんと比べたらそうかもね!」


 正論が耳に痛い。


 そう思った直後、私の頭は乱暴に撫で回されていた。


「でもソフィアちゃんには、この美貌があるじゃないかーっ!!」


「あわ、わわっ」


 容赦のない親愛表現。


 それから暫しの間、私はアネットが満足するまで撫でられ続ける羽目になったのだった。


気楽に生きたい仲間として、ソフィアとアネットは割りと気が合う。

そしてお互いにお互いを羨ましがっていたりもします。

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