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魔性の手技


 ちょろっと、ね?


 ちょぴっとよりも少ない、ほんのちょろりんとした、不満とも呼べないような微かな気掛かりなんだけどさ。


 別の女を家に呼びながら妹に優しくするのってどうなのかなって。いや不満なんかでは決してないんだけどね。


 ただほら、お兄様の立場的に?

 正妻のアネットさんを放ったらかして私にかかりきりになってたってのは、あまり風聞が良くないんじゃないのかなーって。ね?


 ……いえいえ、嫉妬とかじゃないんですよ。あまつさえ「やっぱり私がお兄様のナンバーワンんん!!!」とか思った訳では決して、はい。いやまあちょっとは……や、本当はもう少し……えと、だいぶ……その……。


 リンゼちゃんに「気持ち悪い笑い方してるわよ」と指摘される程度には嬉しくなっちゃったのは事実だけども……それでもこれだけは言わせて頂きたい。


 乙女は気持ち悪い笑い方なんてしないよ!



「で、アネットさんが引っ越してきたの?」


「そうよ。あなたが見たのはきっと彼女の荷物を運んで来た商会員ね」


 リンゼちゃんに説明を受けて、帰ってきた時の状況を思い出す。


 そうかー。それでお兄様、地味に落ち着きがなかったのかー。

 普段のお兄様ならきっと、私が目覚めるまでそばに居てくれるはずだもんね。そっかそっか。


 ――お兄様の幸福漬けフルコースを堪能していた私は、あろう事かいつの間にか寝落ちしてしまっていた。


 お兄様の子守唄には恐るべき、抗えない魔力がーとか、別にそんな理由じゃないのよ? むしろ子守唄はそんなに上手くは……ごほん。

 なんか微笑ましくなる可愛らしさでしたし!


 幸福を少しでも長く享受する為、できるだけ時間を引き伸ばして適当なところで寝たフリでもしよーと考えていた私が眠りに落ちてしまったのは、ずばり。お兄様と手を繋いでいたことが原因なのでした。


 いやー……お兄様の手がね? 何故か軽妙さを感じさせる斬新な子守ソングの間にも、ずっとね? 私の手をすりすりって撫でてくれちゃっててさ。

 それがもう無意識のなせる技なのか、他に気を遣って恥ずかしさを誤魔化そうとする度に「ダメだよ? こっちに集中して?」と私の意識を引き戻すかのように、優しく手の甲を撫であげてくれちゃってね? それでもう心が秒で陥落しちゃうの。即落ちしちゃうの。「はいぃ、全てお兄様の望むとおりに致しますぅ」って心が勝手に服従しちゃうの。手をすりっと撫でられるだけでお手軽簡単に!!


 お兄様はもう他の女の人とは握手しない方がいいと思う。


 こんな絶技を持つお兄様が世に放たれたら、お兄様と出会った女性はみーんな、他の男性なんか目に入らなくなっちゃうよ!


 ――と、そこまで考えたところで、私も一人の男の性を持つ人物を放置してしまっていることに遅ればせながら気がついた。


「そういえばお父様は? お父様も帰ってきたよね?」


「そういえばって、あなたね……。ええ、あなたがお兄さんとイチャイチャしている間に、代わりに荷物を受け取って来たわ。その時にあなたが体調を崩した事を伝えたら、とても心配そうにしていたけれど……」


 そこで言葉を切り、ちらりとベッド脇に置かれた椅子に目をやるリンゼちゃん。


「今はゆっくり休ませたいと伝えたら、『早く元気になるよう願っている』とのお言葉を預かってきたわよ」


「さすがはリンゼちゃんだね」


 言外に含まれた理由に惜しみない賞賛を贈る。


 それでこそ私のメイド。それでこそ気遣いの神、リンゼちゃんだ!


 そうだね。お父様がお見舞いに来たせいでお兄様の看病が中断なんかされたりしたら、私の気分と機嫌は急激に悪化していただろうからね。リンゼちゃんの判断は実に正しい。


「ん、よいしょっと」


 なんてやり取りをしている間に、丁度キリよく体内の魔力循環も終わったので、気合を入れてベッドから降りた。


 ふむ。ベッドから起き上がってもふらつきはなし、と。


「どう? リンゼちゃんから見ても平気そう?」


 くるりと華麗に一回転。


 パチッとウインクに横ピースまで決めてみたのだけど、ポーズに関する感想はもらえなかった。


「顔の赤みも引いてるわね。……本当、冗談みたいな思い込みの強さね。まさか演技で体調まで崩せるなんて」


 えへへー、リンゼちゃんに褒められちゃったい。って演技じゃないよ! あの時は本当に苦しかったんだからね!


 まあ確かに、私もね? いくらお兄様激ラブな私とはいえ、お兄様にお姫様抱っこされただけで呼吸困難にまで陥る今日の反応は、ちょーっと過剰すぎたんじゃないかなーなんて思ったからこそ、こうして身体検査とかしてみたわけだけど。


 もしかしたら遂に今世初の風邪でも発症したんじゃ……とか思ったのだけど、全然そんなことは無かったみたいだね。相変わらず丈夫な身体でホント助かる。あとは成長さえすれば文句はないかな!


「ソフィア。体調を崩したと聞きましたが、調子は――」


「あ」


 突然部屋に入ってきたお母様と目が合う。私? 勿論、元気に踊ったままのポーズだよ☆


 ……お母様、部屋に入る時はノックをしましょう!?


「服を着替えさせるから起きなさい」と起こされたソフィアちゃん。

だがこの娘、兄と過ごした至福の余韻を味わい尽くすまでは決して起きようとしない……!

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