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急速充電の弊害


 私の現状を表すにはどういった言葉が適切だろうか?



 良薬口に苦し?


 災い転じて福となす?


 いやいや、これはきっと恋の病というやつだろうね。それも治る見込みのない、とびっきりの重症だ。



 ――屋敷に入ってすぐに倒れた私を、優しい優しいお兄様は手ずからお姫様抱っこで部屋まで運んできて下さいました。


 するとどういう事が起こるか。分かるかいリンゼちゃん?


 ……パーティーだよ。

 お兄様が間近にいることを感じ取った私の身体が、てんやわんやの大騒ぎを始めるんだよ! 私の意思を無視してね!!


 四日と八間四十六分振りに再会したお兄様の熱烈スキンシップは、お兄様欠乏症を患っていた私に取っては劇薬だったという事だね。お薬の効果が強すぎたんだ。


 本来ならば脱水症状の患者に水を与えるように、ゆっくりと、染み入るような速度で与えなければならないものを、一気にドーン! だもんね。顔を見るところから慣らさないといけないところを、豪華絢爛全部盛りですもん。そりゃ私の身体なら狂喜乱舞するわ。


 動悸。息切れ。目眩。発熱。


 久しぶりに全身で感じるお兄様に感動しすぎて、ありとあらゆる諸症状が次々と発生。


 おでことおでこをぴたりと触れ合わせる大胆なイチャラブスキンシップや「大丈夫かい、ソフィア?」なんて甘いお声を抱きかかえられたままの超至近距離で浴びせられて身体は震えるわ目も潤むわなのに顔は隠せないし腕の力は強くなるわとかもう意識がずっとふわふわしっぱなしでここが天国か私は死んだのかとか思考が支離滅裂でとりあえず全てお兄様にお任せしますから目一杯あまやかしてー♪ と自我を投げ捨てお兄様になすがままにされるお人形になること暫し。私は運び込まれた私の自室で、高級な箱型ケースに収められる結婚指輪の如く、とてつもなく丁寧にベッドへと寝かされたのでありました。


 これね、アカンよ。


 熱に浮かされたままベッドに寝かされてお兄様見上げるの、とても据え膳になった気になる。あとはもう食べられるのを待つばかり、みたいな。


 そんな不埒なことを考えていたせいか、お兄様と距離が空いたことでようやく落ち着いてきていた呼吸が、また浅く短くなってきた。胸が詰まって息が上手くできなくなってしまった。


 もしこのまま呼吸が止まったら、お兄様は人工呼吸をしてくれるだろうか。なら私、呼吸なんかできなくてもいいかもしれない。


 一生息が止まってたら一生キスし続けてくれないかな、なんてアホなことを考え出した時点で、私はもう自分の頭が使い物にならなくなっていることを理解した。


 久々のお兄様フェロモン、やっぱやばいわ。


「お兄様……」


「なんだい、ソフィア?」


 声をあげれば、お兄様が私を見る。

 普段とは少しだけ違う、僅かな困惑と焦りが伺える顔で、けれどもその意識は全てが私に向けられているのだと表情を見ただけで分かる。


 呼んだらすぐに反応が来るこの距離感。


 念話もいいけど、やっぱリアルが至高ですわ。


「手、繋いでてください……」


「ああ、いいとも」


 なんだろう、私別に病気でもなんでもないはずなのに、お兄様に心配そうに見つめられただけで今夜が峠の薄幸美少女に大変身しちゃったこの気分。


 まるでこのベッドに長年寝かされ続けていたような、そんな気すらしてきて……、……まあ、自分のベッドなんだからそれが当たり前なんだけどさ。


 ともあれ。


 お兄様レベルのヒーローにかかれば女の子はみんなヒロインになれるんだなぁと、このソフィア、お兄様の素晴らしさを再確認致しました!


 まあお兄様が素晴らしいのなんて今更確認するまでもなく、朝に日が昇るくらい当然のことなんだけどね!


 うっふふー。


「ソフィア、顔が赤いけど辛くはないかい? 他になにかして欲しいことがあったらなんでも言うんだよ」


 ああぁそれそれ、その手をぎゅっと握りしめてくれるのだけでもう最高。


 まるで私の心までもがお兄様の手の中にぎゅっと包み込まれるみたいで、他の何かなんて考えられないくらいの幸福感が溢れてきちゃう。


 ソフィア、お兄様だぁーい好きぃ……んふふぅ。


 あ、お願いすること思い付いた。


「それなら、子守唄とかお願いできますか……?」


 お兄様に見守られながら、お兄様の手を握って、お兄様の子守唄で眠りにつく。


 それってもう、幸福を縒り合わせて固めたみたいな、ザ・お兄様の妹専用フルコースじゃないかと思うのだ。


「歌か……。うん、分かった。いいよ」


 あっ、これからお兄様の子守唄が聞けるって思っただけで、また動悸が……。


 言ってから思ったけど、こんなドキドキしっぱなしの状態じゃ子守唄を聞いても眠るなんて無理な気がする。そうでなくても貴重なお兄様の歌声を聴き逃すとかありえないし。


「お兄様のお歌、たのしみです」


「期待されるほど上手くはないよ」


 苦笑いするお兄様を見つめながら、繋がれた手に少しだけ力を込める。


 久しぶりに触れたお兄様の手の平からは、心休まる体温が伝わっていた。


帰ってきたと思ったら突然二人だけの世界を作り始めた兄妹。

小さなメイドさんは、とりあえず玄関へ荷物を受け取りに行くことにした。

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