荷物の騎士
二度の自壊を経た馬車は、廃車こそ免れたものの、お役御免にはなった。
王都までもう少しという所まで来ていたこともあり、ここからは馬車を引いていた馬に分乗して進む方が良いだろうと判断されたのだ。
それはいい。そこまではいい。
馬に乗るのも……ちょっとだけ、興味はあるし?
嫌では無いのよ。お父様の判断に反対とかでもないんだけど。
ただ私たちの護衛という名目で同行していたはずの騎士たちの行動予定が、私にはどうにも不可解に思えてならないのだ。
まずは一人目。
彼はこの場に放置される事が決定した馬車を移動させる為の人員を集めに、王都に先行することになった。
普通だ。とても普通で安心すらする。
二人目は引き続き護衛任務だ。
移動手段を馬に変え、通常速度で王都へと向かう私たちに同行し、魔物の脅威があればそれを排除する役目を担う。
私やフェルがいる以上、正直必要のない役目だとは思うが、ここでの私は普通のお嬢様ということになっている。
魔物とは戦ったことがないというエンデッタさんがいることも加味して考えれば、護衛が必要という結論は決して無理のない自然なものだ。
そして、私が気になった他四人。
彼等は王都に行った仲間が人を連れて戻るまでの間、この場に残された馬車を見守ると共に、ついでにできる限り壊れた部分を修理しておくと胸を張って宣言していたのだった。
その時のお顔は、とてもやる気に満ち満ちていらっしゃいましたね。
ねぇ、これってどう思う?
やる気があるのはいい事だけど、騎士としての優先順位がおかしくはないかな。
「お父様、本当に人の振り分けはこれでいいんですか? お父様の荷物もだいぶ置いていくことになりますけど……」
確かに、本来私たちは護衛の必要がない。
必要ないけど……護衛戦力が六分の一になるのって、やっぱり普通はありえない事なんじゃないかなって気がしちゃうの。
まあ、元が多すぎるだけとも言えるんだけど。
騎士って六人でチーム組んでるみたいなのよね。
「こういう事態だ、仕方ないだろう。なにか問題があるか?」
けれど元うんちゃらの騎士様的にはこの差配は適当であるらしい。至極まじめに返されてしまった。
人の護衛よりも、荷物を優先している現状の、問題点……。
ないと言えば、ないかもしれない。
でも個人的には「問題しかない!!」って感じかな?
馬車で運んでいたお父様の仕事関連の荷物一式は、状況がこうなった以上、持てる分だけを馬で運んで残りは王都から呼んだ人たちに後から運んでもらうという予定になっている。実際、それが妥当だというのは私にも分かる。
そして私たちに同行する予定の騎士さんが馬に荷物を括りつけている様子を見れば、持って行ける荷物というのが多くはないこともよーく分かる。
…………で、ここからが本題なんだけど。
馬車に積んでた荷物って、実はお父様の物だけじゃないんだよね。
例えば、そう……私の買ったお土産なんかもあってさ。
でも当然ながらその荷物は、全部置いてく側に分類されてる訳でありまして。
……私には魔法がある。
荷物をいくらでも収容することの出来る《アイテムボックス》という、こんな時にこそ役立つ大変に便利魔法があるというのに!
なのにお土産は持っていけない。お父様の荷物も持っていけない。
何故なら、他人の目のある所では簡単な魔法以外は使っちゃダメって言われてるから。この魔法が、一般な魔法からはかけ離れているから。
買うところも見られてて、積み込むところも見られてて。なのに何故か荷物が減っているなんてことになってしまったら、それは紛失したことになってしまう。貴族の荷物が、護衛がいたにも関わらず消え失せたという事にでもなれば、それはきっととてつもなく面倒な事態になる。
そうなればあれよ。お母様大魔人の誕生ですよ。なまはげー。
――それは確信と言うにも生温い、確実に辿る未来だ。
だからアイテムボックスは使えない。
「少しくらいなら……」と思わなくもないけど、リスクを考えると手を出さないのがベター。他の方法を考える方が建設的だ。
という訳で、騎士の皆さんは壊れた馬車なんか放っておいて、ちょろーっと私の荷物を運んでくれたりしないかなー、なんて思う訳ですよ。具体的にはお兄様へのお土産各種。
感動の再会に感動の贈り物を添えれば、お兄様からまたハートを射抜かんばかりのお言葉を頂戴出来るかもしれないのに……ああ、なんて口惜しい!! これが恋の試練なのかッ!!
恋は障害があるほど燃え上がるとか言うけど、私は楽してお兄様とゴールインしたい。んでもってベッドインしたい。
……いや、何日も離れ離れになってた寂しさを全面に押し出せば、一緒に寝るくらいは許される、か…………?
「これでよし、と。ソフィア行くぞ。乗れ」
「あ、はーい」
と、妄想している間に準備が整ったらしい。
お父様の手を取り、華麗に馬に飛び乗り……乗り……くっこの……、ごふぅ。
……初騎乗は、腹から乗る羽目になりました。
やり直しを要求したい。
馬上の風景は楽しかったらしい。




