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偶然+偶然=不運


 二度あることは三度あるって言葉、あるよね。


 でね。二度目があったんなら、その前には必ず、一度目があった訳で……。


 つまりはそういう事なんだ。人生って世知辛いよね。


 この馬車もう廃車にした方がいいんじゃないかな。



 ――という訳で、今度は私が起きてるタイミングで、またもや馬車がぶっ壊れたのでありました。


 もうね、ホントびっくりしたよ。最初襲撃でも受けたのかと思ったもん。


 でも実際はただの事故で、むしろこの事故により私が襲撃者となる悲しき事案が発生していた。


 お父様マジごめん。


「あの……まだ痛みますか?」


「……いや、大丈夫だ。……大丈夫、だと思う」


 やめて。自信なさげに言い直さないで。


 なんだか痛みすら麻痺してそうな反応だったので、念の為にもう一度だけ骨に異常がないかを精査して、癒しの魔法を重ね掛けしておいた。


 あのね。馬車の中で私、お父様の膝の上に頭乗っけてたじゃん。膝枕されてたじゃん。その状態で馬車が壊れたのね。メキャッ! って音がしたのね。


 そしたら、こう……ね?

 衝撃が来るじゃないですか。


 酷い揺れとはいえ、ある程度規則性を保っていた振動が突然、異音と共に強い衝撃に変化したわけでして。咄嗟に捕まろうと手を伸ばした先でお父様の服を掴み、けれど寝ていた状態では上手く身体も固定できず、私は無力にも自然の摂理に従い宙に跳ね上げられたんだ。そう、左手でお父様の服を掴んだままに。


 すると当然、上方向へと跳ね上げられるはずだった軌道が、こう、斜めに……。


 ……もうはっきり言おうか。


 私の頭は見事、お父様のアゴに大打撃を与えましたー! 不幸な事故による頭突きですね☆


 いやホント悪かったと思ってる。

 だって音やばかったもん、石を石で殴ったような音したよ。


 それと言うのもさ、その時の私って普通に起きてたの。意識があったの。


 私が起きてる時って基本的に身体防御の魔法は控えめに調節してるんだけど、その時はほら、急に異音がして、馬車が大きく揺さぶられて、明らかな異常事態に見舞われてた訳じゃん? 周りに護衛の騎士たちが居たとはいえ、馬車の中でのんびりくつろいでた私が常にその存在を意識していた訳もなく、びっくりすると同時に状況の把握や可能性の考察よりも先に自身の警戒レベルを引き上げちゃったのも仕方の無いことだと思うのよ。


 でも、それが問題だったのよね。


 私が警戒をすると、何をするか、なんだけど……。


 まあ、普通の人と変わらないといえば変わらない。咄嗟に身を守ろうとする。たったこれだけ。


 だから私は身を守ったわけ。

《防御魔法》の効果をがっつり上げて、どこからどんな攻撃が来ようとも絶対に貫けないよう堅固な防御で身を固めた。その結果。


 跳ね上がった私の身体をアゴで受け止めたお父様が、声にならない叫びを上げて悶絶する事態に陥りました。


 言い訳に聞こえるかもしれないけど、これでも私は頑張ったのよ。衝突の直前にいち早く危険性に気付いて、防御機能から《反射》とか《反撃》の効果を消したりとかしたもん。


 もし私が調節していなかったら私がぶつかった瞬間にお父様は天井を突き破って外に弾き出されるくらいの衝撃を食らっていたはずで、アゴどころか頭も身体も含めた全身で痛みを感じるような事態になってた可能性がとても高い。そうならずに済んだのは、ひとえに私の超人的な反応速度のお陰なのだ。


 ……まあ、そこで反射行動を抑え込む代わりに、馬車の中全体に作用するような衝撃緩和系の魔法でも使っていれば、もっとずっと良い結果は得られてたんだけど……。


 あ、でもそれだとエンデッタさんに私の魔法の事がバレてたか。やっぱり瞬間的な判断って難しいな。


 ともあれ。


 咄嗟というのは、突然やってくるから咄嗟なのだ。常に最適な行動が取れるなんて思ってはいけない。


 だからお父様の怪我も、やむにやまれぬ不幸な事故だ! 決して私一人の責任にして良い問題ではないと思います!


 あれは不運が重なった事による悲しい偶然。

 もしくは男に試練を課すという、運命の神の悪戯……。


 ということで、私になんら罪はなく、あくまであれは不可抗力であったのだということを、私はここに、改めて強く主張いたします!! 誰にも責められてないけど主張します!! 勝手に主張いたしますぅー!!


 そんな脳内議会が大紛糾の佳境を迎えている最中、お父様がまたアゴを撫でているのが目に入った。


 あー……、んー……、んむぅ……、…………〜〜ッ!!


 悩みに悩んだ末、私はお父様に近づき、そっと服の裾を掴んだ。


「あの、お父様。ごめんなさい……」


「ん、何を謝ってるんだ?」


 キョトンとしたお父様は本心で言ってる。私が何を謝っているのか理解していない。


 も〜〜〜〜ホントにも〜〜!!


 これだから罪悪感が留まるところを知らないんだ! 自責の念で潰れそうになるからやめて欲しい!!


「その怪我のことです! ごめんな、さ、い!!」


「……何をそんなに怒ってるんだ?」


 怒ってないよ! 怒ってないから顔見ないで!!


都合四度目の謝罪を受け、頭に疑問符を浮かべる彼女の父。

けれどそんな疑問は、いつもより可愛らしく見える己が娘を見ている間に、すっかりと忘れてしまうのだった。

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