騎士のすごさ
騎士ってすごい。
私は最初、騎士という職業がこの世界にあると知った時には「主人を守る為に命を賭して戦う気高き戦士」みたいな人たちをイメージしていた。
その後学んだ限りでは、主人というよりは国民を守る為にいるという点だけは誤っていたものの、概ね想像通りの職であるということも理解した。
そして迎えたお父様に引っ付いて回るこの度の旅行。
騎士という立場の人達が実際に戦う場面をこの目で見ることによって、私はその実態が、魔物イジメ集団であると認識を正した。
けれど、旅行は終わるまでが旅行です。
帰りの道中、馬車が壊れるという不慮の事態に陥った私たちを救ってくれたのは、なんと同行していた騎士の人達だったのです!
彼等は馬車の損壊状況を確認するとすぐさま森に入り、木材を調達。自前の剣や魔法で加工を施すとまあびっくり! あっという間に馬車の車輪が出来上がり!
重そうな車体も難なく持ち上げ車輪を新しい物に交換すると、馬車はまたゆっくりと動き始めたではありませんかーわあすごい!
私は騎士という職業を誤解していた。
騎士は決してただの魔物イジメ集団なんかではない。
騎士は魔物と戦い街の平和を守り、その上美味しいご飯屋さんの情報を網羅し馬車の修理だって手早くこなす、驚異の万能型戦闘集団だったんだよー!!
だよー…… だよー………… だよー………………
そんな脳内エコーを残しながら、私はまた馬車に揺られる拷問の時間へと舞い戻っていた。
素人目には見事な修理も本人たちいわく応急処置だったらしく、乗り心地は更に悪化している……らしい。謝られたけど、正直しばらく乗ってても違いがよくわからなかった。
ぶっちゃけ地獄の違いとか分かる気がしない。
例えば、そうね。紐無しバンジーの終着点が地面だろうが水だろうがマグマだろうが、その結末は一緒だろう。苦しみの程度が変わるのでもなければ、多少の違いは誤差に過ぎない。
え、馬車に乗ってる時に出すには物騒すぎる喩えだって?
あはは、もしもお兄様の前で吐くような事態と紐無しバンジーのどちらかを選べるとしたら、私は迷いなく跳ぶ事を選ぶと思うけどね。
もちろん一切魔法が使えないという前提条件があったとしてもその選択は変わらない……そーゆーことだよ?
「お父様。騎士の人達って皆さんあんなに馬車の修理に慣れているんですか?」
まあそんな事態は絶対に起こさないので必要のない心配ではある。
揺れに伴う気分の悪化から意識をそらすため、私はお父様に話題を振った。
「そうだな。騎士は商人の移動にも同行するから覚えておくと便利なんだ。商業ギルドからも騎士団に講習の為の人員が来てくれたりもしてるんだぞ」
「へえ、そうなんですね……」
へーほーふーんと相槌をうちながらお父様と雑談を交わす。
なおその間の体勢は再び座面に横たわってお父様の膝に頭を乗せる膝枕スタイルで一貫しているが、これは私が「お父様のお膝だーいすきっ! ソフィアねっ、お父様のお膝だと安心して眠れるの!」とか思ってる訳では全くなく、単なるエンデッタさん対策と私の酔いを最小限に抑える方法を兼ね備えた合理的判断に基づくものであるということを改めてここに強く主張する。
そりゃね、馬車が壊れた時にお父様が私を床に落としたという話は既に聞き及んではいますがね。だからといってエンデッタさん、ちょっと熱い視線を向けすぎじゃないでしょーか。他意はなくとも甘えん坊と咎められてるようで気が引けるというかなんというか、その……ね? 分かるでしょ?
ここはひとつ、やたらと頑丈な石頭ってことで納得してはもらえないでしょーか。この体勢って逃げ場がないんだ。ね、おねがい。
そんなに見ないで、照れるから。
「騎士の人たちってすごいですね」
「ああ、騎士はすごいぞ!」
うわっ、びっくりした。
恥ずかしさを紛らわす為に発した言葉に思いもよらぬ勢いで食いつかれた。脅かさないでよ、まったくもう。
そういえば、あれか? お父様も【情熱の騎士】とか呼ばれてたっけ? お父様を褒めた訳ではなかったんだけどな。
それにしても、すごい。すごいかぁ。
確かにすごいとは言ったけれど、それは本当に喜んでいいものなのだろうか。これを騎士の仕事と認識していいんだろうか。
魔物の討伐は騎士の仕事。
国民の護衛も騎士の仕事。
馬車の修理も騎士の仕事。
いやすごいよ。人を助ける立派な仕事だよね。でもさあ……。
「来る時に護衛してくれた奴らがいただろ? あいつらの方が移動には慣れてたはずだから、多分馬車の修理も相応に上手いぞ」
「そうなんですか」
馬車の修理技術を褒められる騎士……。
いや、平和的で大変結構なことですけどね。上手くて誰が困る訳でもないし。むしろ助かるし、うん。
でも騎士ってもっとこう……同級生でも憧れてる男の子、結構多いんだけど……う、うーん、これでいいのかな……?
騎士とは。騎士とは、何か。
……うん。深く考えないようにしよ。
騎士さんすごーい♪
騎士が褒められたので便乗はしたが、元情熱の騎士様に馬車修理の技能はない。
なんで威張った。




