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やっぱり壊れた


 キュッ。キュッ。キュッ。


 にゃあ。


 キュッ。キュッ。キュッ。


 にゃあ。



 いつか友人にやらされたゲームの中でよく聞いた、やたら耳に残る音楽。


 それが今、私の頭の中に響いている……。



 キュッ。キュッ。キュッ。


 にゃあ。


 キュッ。キュッ。キュッ。


 キュッ……、キュウッ……キュー……。



 ……なんだ? なんだかテンポが乱れてる……。


 それに、音も、違うような……?


 考えることを意識した途端、私の意識は急速に浮上して――。



「キューッ! キュッキューウ! キュウ、キューウッ」


 眼前に広がる白に圧倒された。


 私の顔の上で歩き回る、フェルの体毛だった。


「あの、くすぐったいです」


「キュッ!」


 私が起きたことを確認すると、フェルは鼻を鳴らすように一鳴きしてすぐ、私の胸元へ潜り込み始めた。


「ちょっ、ちょまちょあーっ! くすっ、くすぐったいんだけど!?」


 無理やり引っ張り出そうと手を突っ込むも、捕まえる前に袖口に常時展開してあるフェルたち用のアイテムボックスに逃げ込まれた。こうなるともう、文句も届かない。


「もーっ、なんなの今の……あれ、お父様がいない。それに、エンデッタさんも……」


 起き抜けの戯れで乱れた呼吸を整えながら顔をあげれば、その段になってようやく私は、起きる前とは周囲の状況がまるで異なっていることに気が付いた。


 というか、馬車の中ですらない。


 天中に太陽が昇り、陽光差す蒼天の下。

 吹く風に揺れる草木が心地好い音色を奏でる大自然の中に私はいた。


 当然世界は片時も揺れてはいない。素晴らしきは安定安心の頼れる大地である。


 どうやら私は、地面に敷かれた布の上に寝かされていたようだ。


 おおう、なんとゆーことでしょー。

 まさかまさかのソフィアちゃん、寝ている間に道端に捨てられてしまったぁー!? 貴族から一転、孤児になったソフィアちゃんの大冒険がここから始まる!


 なんてわけではもちろんなく。


 目の届く距離にお父様とエンデッタさんの姿がある。そして反対側の森の方にも、護衛についてくれていた騎士の人達が数人、森の中を見守るようにして立っている様子が見て取れた。


 そのまま魔力を集中させて目や耳の感覚を強化すれば、今がどういった状況であるのかはわざわざ人に説明を求めるまでもなく、簡単に把握する事が出来た。


 ……うん、理解はしたんだ。それで何かが変わるでもないってことも、同時にね?


 状況を理解すれば、少しだけ陰鬱な気分にもなる。

 往路では使わなかった《睡眠》の魔法の弱点にこうも見事にハマる状況に陥るとは、私ってかなりついてないんじゃなかろうか。


 ともあれ、落ち込んでいても仕方がない。

 とりあえずは話を聞こうとお父様たちの方へと近寄っていった。


「起きたか」


「はい、起きました。それでお父様、これって……」


「見ての通りだ。馬車が壊れた」


 そう言ってお父様が軽く拳を打ち付けた馬車は、車輪の一部が爆発したのかってくらいバッキバキに割れていて、素人目に見ても車輪を交換する以外の修理方法が思いつかないくらい見事な壊れっぷりだった。


 それにしても……やっぱ壊れたかー、って感じよね。


 たかが木造の馬車があんだけガタガタいう程の負荷を受け続けてたんだもん、むしろ壊れない方がおかしいと思う。


 つーか車輪が一個大破してるのに他にはどこも壊れてないとか逆に丈夫すぎませんか。それともこれって普通のこと? 馬車ってみんなこんな丈夫なもんなの? だとしたら私は今まで馬車のことを舐めてたかもしれない。馬車ってすごいね。


「あの……ソフィアちゃんは、どこか怪我とかありませんか? 頭が痛いとか、肩が痛むとか……」


「大丈夫みたいです。馬車がこんな状態なのに運が良かったですね。エンデッタさんは大丈夫でしたか?」


「ええ。私は大丈夫でした……」


 にっこりと安心させる笑顔を浮かべたはずなのに、何故だろう。エンデッタさんの顔の強ばりが増した気がする。


 なんでだろーソフィア全然わかんなぁーい!


 はい、嘘ですごめんなさい。

 馬車が走行不能になる衝撃を受けても死んだ様に眠り続ける子供とか不気味すぎますよねごめんなさい。


《睡眠》の魔法はねー、弱めに掛けても効果時間が短くなるだけで目が覚めやすくなるとかはないんだよねー。いっそ《失神》と言っても間違いではない魔法なんだよねー。


 それに加えて、睡眠中の私は《身体防御》魔法の効き目が自動的にマックスになる。無意識でもそうなるようにと訓練した。


 なので睡眠中の私の身体を使えば眼球で釘だって打てちゃうのです! やった事ないけど、多分できるよ! 本当にやったら怒るけどね!


 だから不慮の事故で寝ている私の身体に触れられたりなんかしたらおかしいって一発でバレる。


 そんな理由でもなきゃ、私がわざわざお父様の固い膝枕なんか望むわけないよね。


「それで、あの……」


 だが今は、過ぎたことよりこれからのことを考えよう。


 馬車が壊れた。

 これ即ち、帰りが遅くなるということだ。


 ……ああ、早く帰ってお兄様分を補給しないと……。


事故当時、大きな揺れを受けた車内ではソフィアが頭から床に落ちるという事件が発生していた。

だが、それでも彼女は眠り続けた。

普通は永眠を疑いますよね。

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